自分のライフを回すことで精一杯だった
――1stアルバム『TOKYO RULES』から約7年ぶりの作品となるEP『continue...』が完成しました。
T2K 「7年か……。でも個人的にはあっという間だったんですよね。実は、『TOKYO RULES』を出したあとに結婚して子供が出来たんですよ。俺も妻も片親だから子供を預けたりできなくて。家族三人の暮らしを安定させるために必死になってたら、どんどん時間が過ぎちゃって。あと相方のDJ BEERTも結婚して子供ができたんですよ。俺らは音楽だけで飯が食えてるわけじゃないから、昼間に普通の仕事もしてる。そしたらお互い制作のために一緒に時間を作れなくなっちゃって」
FLAMMABLE 「そもそも僕とT2Kが一緒にやるプロジェクトは、DJ BEERTがミックスCD『The Best of T2K a.k.a. Mr.Tee -Ambition As A Hustler- Mixed by DJ BEERT』を出したあとくらいから始まっていたんです。当初はアルバムを作ろうしてて。それで最初にできた曲が、今回のEPに入ってる〈Mr.Mr.Mr.〉なんです。で、その後も3曲(〈Hoodrum〉〈Time Goes Around feat. BIG-T〉〈HIGHER〉)作ってフリーダウンロードで発表したり」
T2K 「特に〈HIGHER〉は評判が良かったから、俺も“早く次を作らなきゃ”って気持ちが強かった。けど、音楽をやる以前に、まず自分のライフを回すことで精一杯でしたね」
FLAMMABLE 「全然連絡がない時期もあったから“もうT2Kとの制作はお蔵入りかな”くらいに思ってた」
T2K 「あの頃は感情のアップダウンが大きくて。俺、友達と会ってる時は基本的にいつも元気なんですよ。でも結婚してから人と会う機会が減っちゃって。そしたら結構落ちちゃうことも多かったんですよ。D.OFFICEが解散してしまってからは
D.Oと話す機会も減っちゃったし」
FLAMMABLE 「でも鎖(9sari)がこうしてスタジオを作ってくれたのは大きかったよね」
T2K 「うん。D.Oが鎖GROUPに入ってからは俺もここ(9sari Cafe)に顔を出すようになったし。やっぱり溜まり場があるといろんな人に会えるし、そこから何気なく何かが生まれる。今回のEPもそういう流れで出すことになったんです」
「とにかくまずは完成させよう」ってのがデカかった
――なぜアルバムではなくEPになったんですか?
T2K 「アルバムと比べると、EPは圧倒的に作りやすいからですね。曲数云々ではなく、制作する上での敷居がだいぶ下がるというか」
FLAMMABLE 「そうだね。だからフリーダウンロードの曲をやったあとくらいから“EPを出そうよ”みたいな話はしてたんですよ。そしたら1年くらい前に9sari Groupから作品を出すことが決まったので、僕のほうでT2K用にストックしてあったビートをまとめて送ったんです」
T2K 「そうそう。それをちょこちょこ手を付け始めて、本格的に作り出したのは去年の10月くらいかな。そこから2〜3ヶ月くらいで一気に仕上げました。これまで発表した古い曲も全部入れてアルバムにすることもできたけど、すでに俺はかなりブランクが空いちゃってたから“とにかくまずは完成させよう”“早く出したい”ってのがデカかったんです」
――なるほど。今作は明確なコンセプトやテーマに沿って作ったというよりは、T2Kがいま気になるトピックが落とし込まれているということですか?
T2K 「そうですね。1曲目の〈Road to da Rich〉なんてまさにいま感じてることですから。お金持ちになるための道のりにはいろいろあるよって(笑)。俺はいつもリリックにカッコいいとこだけじゃなくて、ダサかったり、恥ずかしい自分も入れるようにしてるんですよ。どっちにも偏りたくない。ヒップホップ的には、この“金持ちへの道のり”ってトピックはいくらでもカッコつけられる。でもどんなにイキってても、生きてりゃ誰だってビビることもある。キンタマ縮んじゃうよ、みたいな。俺はそういうとこまで描きたいんですよね」
FLAMMABLE 「T2Kのリリックはものすごく人間味があるよね。ラッパーだからと言って取り繕わない。いつも等身大なんですよ。だから聴いてる人は自然とT2Kに共感しちゃうんだと思うな。人懐っこいというか」
T2K 「いやいや。俺、本当は人見知りなんですよ。初めましての人には無意識で気を張っちゃう。これは昔からの癖ですね」
FLAMMABLE 「そうなんだ。もうT2Kとはすごい昔からの付き合いだから、そんなのすっかり忘れてた。最初に会ったのは、T2Kが宇田川町のBOOT STREETで店員をしてた頃だよね。もう11年前とか。当時僕は
The Diplomatsのネタを繋いだミックスCDを自主で作ってて、BOOT STREETでも売ってもらってたんです」
T2K 「そうそう、2枚組のやつね。懐かしいな。納品しに来た時に“ビートも作ってます”ってデモ音源をもらったんだよ。俺はまだ18〜9歳だった」
FLAMMABLE 「そうだね。2曲目の〈Mr.Mr.Mr.〉だって、ラップを録ったのは7年前だよ(笑)。だからビートは2019年の曲として聴けるように、全部打ち込み直したんです」
T2K 「俺、レコーディングするまでに何百回もビートを聴き倒すから、曲が出来上がる頃には飽きちゃってることが多いんですよ。でも今回はFLAMMABLEがビートをアップデートしてくれたから“あの聴き飽きた曲がどんなふうに変わってるんだろう?”って毎回すごい楽しみでしたね(笑)」
外の空気をしっかりと吸って、街の流れを感じながら十六小節を作る
――「Dangerous Life feat. D.O」はいつ頃レコーディングしたんですか?
T2K 「去年D.Oがパクられて、その後に一旦シャバに戻ってきたんですよ。俺が逮捕された時は最長で40日くらい留置所にいたんですけど、それでもめちゃくちゃ感覚が鈍ってたんです。もちろん中にいた時にリリックを書いてて、自分でもそれなりに気に入ってた。出てきてすぐにDJ BEERTを呼んで、その曲をレコーディングしようとしたんだけど、いざブースの前に入っても歌えなかったんですよ。そのリリックがダサ過ぎて。自分でも本当にビックリした。今回のD.Oは俺なんかよりも全然長く中にいたから、できるだけ早くラップさせて鈍った感覚を取り戻して欲しかったんです」
FLAMMABLE 「〈Dangerous Life〉はD.Oさんが戻ってきて、最初に録った曲なんですよ。録り方も変わってて、まずD.Oさんにレコーディングしてもらって、それを聴いてT2Kがラップを書いてるんです」
T2K 「イレギュラーな録り方だったよね。テーマもD.Oが決めたし。でも俺はともかく早くD.Oにラップさせたかった。中にいた時の毒を全部吐き出してもらいたいというか」
FLAMMABLE 「うん。この曲はリハビリみたいな感じだよね。D.Oさんが最初に書いてきた歌詞は、〈Dangerous Life〉というか、ほぼ憎しみの感情しかなかった。でもそれだと曲調に合わなくて。D.Oさんも納得できなかったから録り直してるんです」
――D.Oさんというと、辛い体験もユーモアを交えて表現するラッパーというイメージがあったので、その話はちょっと意外でした。
T2K 「やっぱり塀の中に入ってると、そういうユーモアの感覚みたいなものがどんどん削れられていくんですよ。つまらない人間に矯正されていくというか。十六小節を作るってのは、外の空気をしっかりと吸って、街の流れを感じながら、そこにビートが混ざって頭の中に浮かんできたいろんな景色や感情を落とし込む作業なんですよ。ちなみにD.Oはこの後にもすでに何十曲もレコーディングしてます。別のプロジェクトで俺と一緒にやってるのもあるし。本当は、D.Oの参加曲をEPの収録曲にしちゃうのはもったいないんだけどね(笑)」
――「Still Alive」では成熟したT2Kさんの内面を感じることができました。
T2K 「この曲は最後に書いたんですよ。6曲仕上がった段階でEPを聴いた時、“もう一つパンチが足りないな”と思ってたんです。全部気に入ってはいたんだけど。それでFLAMMABLEに“あと1曲やるならどんな感じが良いと思う?”って相談したんですよ。俺はもっとチャラい感じの、フロア受けするような曲があってもいいかなって思ってたから。でも“いや、そんなの気にしないほうがいいでしょ”って言ってくれて」
FLAMMABLE 「無理にバランス取ってごちゃついた作品にするよりは、一辺倒で行ったほうがT2Kの良いところが出ると思ったんですよ」
T2K 「だからこの曲は、1〜6曲目を受けて書いてるんです。よりいまの俺が出たと思うし、結果的にEPをまとめる曲になった」
――この7年間で、自分のどんな部分が変わったと思いますか?
T2K 「やっぱり家族ができたことですね。俺は家族のことを歌にしようとは思わないけど、根本的な考え方の部分で影響を受け続けてる。その変化が今回のEPにはすごく出てると思います」
――EPのタイトルである『continue...』にはどんな意味があるのでしょうか?
T2K 「“これからも続けていく”というニュアンスを込めたくて、『continue...』というタイトルにしました。7年も作品を出してないから、若い子は俺のことなんてもう知らないんですよ。化石みたいなもんで。俺がやってない間に、新しいシーンができたり、フリースタイルが流行ったり、いろんなことが起こった。そういったことに対して、俺自身いろいろ思うこともあるんですよ。だけど、何もやってないやつがギャーギャー言っても全然説得力がない。このEPのほかにもいろんなプロジェクトが進行中なので、どんどんやってきたいです」
取材・文 / 宮崎敬太(2019年4月)