4人から6人になった
タヒチ 80による2年半ぶりの新作
『ザ・パスト,ザ・プレゼント&ザ・ポッシブル』は、彼らの新しい冒険が始まったことを告げる会心の作品! ストレートなバンド・サウンドを中心とした前作
『アクティヴィティー・センター』からは一転、80年代のヴァイブを感じさせるエレクトロニックかつサイケデリックなサウンドに変化しながらも、卓越したソングライティングによるタヒチ節と、グザヴィエ・ボワイエ(vo、g、key)による記名性抜群のヴォーカルはもちろん健在。実験的なサウンド・プロダクションと、ビートルズやビーチ・ボーイズにも通じる普遍的なポップ・センスの高い次元での融合という意味において、
スーパー・ファーリー・アニマルズのお株を奪うかのような、素晴らしい作品だ。
――まずはメンバーが6人になった経緯を教えてください。前作のタイミングでシルヴァン・マルシャンが耳の問題でドラムを叩けなくなってしまったことが関連しているとは思うのですが?
グザヴィエ・ボワイエ(以下、同)「新メンバーのジュリアン・バーバガロ(ds、key)とラファエル・レジェ(ds、key)はこれまでも僕らの作品やライヴに関わってくれていて、今までのタヒチ 80の歴史も知ってるし、これからどういう方向性に行きたいかもすごくよく理解してくれてるんだ。シルヴァンのこともあったし、『アクティヴィティー・センター』のツアーが終わった後に“一緒にやろう”ってすごく自然な流れで決まった感じだね。面白いのが2人ともシルヴァンに似た部分があって、ドラマーでありつつほかの楽器もできるし、歌も歌えるから、より選択肢が広がったのは大きいよ」
――新作がエレクトロニックかつサイケデリックな方向性に変化したのはなぜでしょう?
「今までのディスコグラフィを見てもらえればわかると思うんだけど、僕たちは毎回アルバムを出すたびに前作とは反対のことをやってるんだ。ベストな結果を出すためには、今までの繰り返しは絶対にやっちゃいけない。今回はレコーディングに入る直前にポスト・パンクや初期のニューウェイヴを入れたミックス・テープを作ってメンバーに渡したから、すごくシャープでダイナミックな音になったと思う。あと前回のツアーではライヴの後にDJセットをやって、80年代後半から90年代初期の曲をよくかけてたから、その影響もあると思うな」
――どんな曲をかけてたんですか?
「個人的に再発見したのは
スクイーズとか
プリファブ・スプラウト、初期の
デペッシュ・モードのシングルも好きだね。彼らはパンクの直後に出てきて、一般的にパンクは“NO FUTURE”って言われてるけど、彼らは“NO PAST”なんだよ。つまりは60年代とか70年代を踏み台にはしてるけど、ちゃんと新しいものを探してる。当時はDX7(シンセサイザー)の音が古過ぎると思ったけど、今あらためて聴くと、当時彼らが何をやりたかったか理解できるんだ。要は何か新しいものをクリエイトしたいっていうヴィジョンを持ってアルバムを作ることが重要で、そういうアティテュードからはすごく影響を受けてる」
――近年のUSインディ・シーンはすごく刺激的で、ニューウェイヴを再解釈したようバンドも多いですよね。そういったバンドにシンパシーを感じますか?
「たしかに最近のアメリカにはクールなバンドが多いよね。ニューウェイヴとはちょっと違うかもしれないけど、いわゆる“アメリカらしい”音じゃないバンドが多いのがいいなと思ってて、
ヴァンパイア・ウィークエンドはブリティッシュなコードを使ってたり、
フリート・フォクシーズは
ニール・ヤングとブリティッシュ・フォーク、それにクワイア(合唱隊)をブレンドしてたりするよね? いろんな音楽に対してオープンで、あらゆる要素をピックアップして、そこから新しいものを生み出すっていうことにはシンパシーを感じるよ」
――でもタヒチ 80の作品はプロダクションの新しさがありつつも、あくまでポップ・ミュージックとして完成されていることがまた素晴らしいですよね。
「うん、僕らはまずソングライターだからね。あと僕の声はすごく特徴的で、良くも悪くもほかの誰にも似てないと思う。この2つによって、僕らはいろんな実験をする自由を得てるってわけ。たとえば、今回だと〈ソリタリー・ビジネス〉は元々フォーク・ソングで、ほかのメンバーからの評判がイマイチだったから、家に持って帰って、自分でリミックスしたんだ。ヴォーカルだけを残して、ビートもベース・ラインも変えて、それをもう一度聴かせたら、“これならいいね!”って言ってくれてさ。だから僕らの作品はどんなにハイブリッドでアブストラクトであっても、曲と声さえあれば“タヒチ 80だね”って認識してもらえるんじゃないかな?」
取材・文/金子厚武(2011年2月)