実験的プロダクションと普遍的ポップ・センスの融合――タヒチ 80のエレクトロニックでサイケデリックな新境地

タヒチ 80   2011/03/04掲載
はてなブックマークに追加
実験的プロダクションと普遍的ポップ・センスの融合――タヒチ 80のエレクトロニックでサイケデリックな新境地
 4人から6人になったタヒチ 80による2年半ぶりの新作『ザ・パスト,ザ・プレゼント&ザ・ポッシブル』は、彼らの新しい冒険が始まったことを告げる会心の作品! ストレートなバンド・サウンドを中心とした前作『アクティヴィティー・センター』からは一転、80年代のヴァイブを感じさせるエレクトロニックかつサイケデリックなサウンドに変化しながらも、卓越したソングライティングによるタヒチ節と、グザヴィエ・ボワイエ(vo、g、key)による記名性抜群のヴォーカルはもちろん健在。実験的なサウンド・プロダクションと、ビートルズやビーチ・ボーイズにも通じる普遍的なポップ・センスの高い次元での融合という意味において、スーパー・ファーリー・アニマルズのお株を奪うかのような、素晴らしい作品だ。
――まずはメンバーが6人になった経緯を教えてください。前作のタイミングでシルヴァン・マルシャンが耳の問題でドラムを叩けなくなってしまったことが関連しているとは思うのですが?
グザヴィエ・ボワイエ(以下、同)「新メンバーのジュリアン・バーバガロ(ds、key)とラファエル・レジェ(ds、key)はこれまでも僕らの作品やライヴに関わってくれていて、今までのタヒチ 80の歴史も知ってるし、これからどういう方向性に行きたいかもすごくよく理解してくれてるんだ。シルヴァンのこともあったし、『アクティヴィティー・センター』のツアーが終わった後に“一緒にやろう”ってすごく自然な流れで決まった感じだね。面白いのが2人ともシルヴァンに似た部分があって、ドラマーでありつつほかの楽器もできるし、歌も歌えるから、より選択肢が広がったのは大きいよ」
――新作がエレクトロニックかつサイケデリックな方向性に変化したのはなぜでしょう?
 「今までのディスコグラフィを見てもらえればわかると思うんだけど、僕たちは毎回アルバムを出すたびに前作とは反対のことをやってるんだ。ベストな結果を出すためには、今までの繰り返しは絶対にやっちゃいけない。今回はレコーディングに入る直前にポスト・パンクや初期のニューウェイヴを入れたミックス・テープを作ってメンバーに渡したから、すごくシャープでダイナミックな音になったと思う。あと前回のツアーではライヴの後にDJセットをやって、80年代後半から90年代初期の曲をよくかけてたから、その影響もあると思うな」
――どんな曲をかけてたんですか?
 「個人的に再発見したのはスクイーズとかプリファブ・スプラウト、初期のデペッシュ・モードのシングルも好きだね。彼らはパンクの直後に出てきて、一般的にパンクは“NO FUTURE”って言われてるけど、彼らは“NO PAST”なんだよ。つまりは60年代とか70年代を踏み台にはしてるけど、ちゃんと新しいものを探してる。当時はDX7(シンセサイザー)の音が古過ぎると思ったけど、今あらためて聴くと、当時彼らが何をやりたかったか理解できるんだ。要は何か新しいものをクリエイトしたいっていうヴィジョンを持ってアルバムを作ることが重要で、そういうアティテュードからはすごく影響を受けてる」
――近年のUSインディ・シーンはすごく刺激的で、ニューウェイヴを再解釈したようバンドも多いですよね。そういったバンドにシンパシーを感じますか?
 「たしかに最近のアメリカにはクールなバンドが多いよね。ニューウェイヴとはちょっと違うかもしれないけど、いわゆる“アメリカらしい”音じゃないバンドが多いのがいいなと思ってて、ヴァンパイア・ウィークエンドはブリティッシュなコードを使ってたり、フリート・フォクシーズニール・ヤングとブリティッシュ・フォーク、それにクワイア(合唱隊)をブレンドしてたりするよね? いろんな音楽に対してオープンで、あらゆる要素をピックアップして、そこから新しいものを生み出すっていうことにはシンパシーを感じるよ」
――でもタヒチ 80の作品はプロダクションの新しさがありつつも、あくまでポップ・ミュージックとして完成されていることがまた素晴らしいですよね。
 「うん、僕らはまずソングライターだからね。あと僕の声はすごく特徴的で、良くも悪くもほかの誰にも似てないと思う。この2つによって、僕らはいろんな実験をする自由を得てるってわけ。たとえば、今回だと〈ソリタリー・ビジネス〉は元々フォーク・ソングで、ほかのメンバーからの評判がイマイチだったから、家に持って帰って、自分でリミックスしたんだ。ヴォーカルだけを残して、ビートもベース・ラインも変えて、それをもう一度聴かせたら、“これならいいね!”って言ってくれてさ。だから僕らの作品はどんなにハイブリッドでアブストラクトであっても、曲と声さえあれば“タヒチ 80だね”って認識してもらえるんじゃないかな?」
取材・文/金子厚武(2011年2月)
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
[インタビュー] ソウル&ファンク・ユニットMen Spyder 初のEPを発表[インタビュー] KMC 全曲O.N.Oによるビート THA BLUE HERBプロデュースの新作
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015