イレギュラーな出会いを作ってあげたい――シンガー・ソングライター高橋ちか、6枚目のアルバム『LIFE』を発表

高橋ちか   2015/03/04掲載
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 2007年のデビューからガット・ギターでの弾き語りという珍しいスタイルでカフェやレストランを中心に数多くのライヴを開催し、温かなサウンドと歌声で多くのファンの支持を得てきたオーガニック・ソウル / ネオ・アコースティック系シンガーソングライター、高橋ちか

 昨年12月に発表された通算6枚目のアルバム『LIFE』は、当初ライヴ会場やホームページのみでの販売という限定された形でのリリースながらFM各局で頻繁にプレイされるなど各地で大きな反響を呼び、ついに3月4日から全国流通がスタート。久保田真悟(Jazzin'park)をプロデュースに迎え王道のシティポップ・サウンドに挑んだタイトル曲「LIFE」をはじめ、彼女が今伝えたいメッセージが込められた本作について、そして近年新たに主戦場となっている“ある競技”について、お話を伺いました。
――ホームページなどのプロフィールでは、“ネオアコ系シンガー”という表記になっているんですね。
 「なんでしょうね(笑)。アコースティック中心でやることが多いんですけど、いわゆる“カフェ系ミュージック”に寄り過ぎないように、という思いもあって」
――“カフェ系ミュージック”ていうと、本来の“カフェ・ミュージック”という言葉の意味からは少し離れてしまって、軽いイメージはありますよね。
 「そうですね。だからアコースティックではあるけど、新しいものをやりたいなと」
――もともとルーツとしてはどのあたりにあるんですか?
 「スガ シカオとか山崎まさよしBONNIE PINKとか、ギターがあってウィスパー・ヴォーカルっぽい感じのもの。邦楽ですね。だからボッサとかもあまり聴いたことなくて」
――ギターはいつぐらいから弾き始めたんですか?
 「最初は高2くらいにアコギを買って。19とかゆずとか路上ブームがあって、とりあえずギターを買ってみようと思って始めたのがきっかけです。バンドとかもやってましたけど」
――その後、ガットギターを弾き始めたんですね。
 「ギターの弦の張りたてのギラギラした音があまり好きじゃなくて。だったらいっそのことガットにしようかなって。その頃にはオリジナル曲も作ってました。前作の『Wonderful World』(2010)に入っている〈同じ想い〉という曲が初めてできた曲なんですけど」
――わりと早い段階でスタイルは決まっていたんですね。近年では、よくライヴをしている千葉県・谷津のレストラン〈el corazon〉で録音した『Melody』やトランペッターの島 裕介さんとデュオで作った『TONE』も発表されてますけど、本格的なアルバムとしては、いま話題に出た『Wonderful World』以来、ということでいいんでしょうか?
 「そうですね。しっかりとコンセプトを決めてアルバムを作ろう、と思って録音した作品としては4年ぶりになると思います」
――これまではオーガニックな手触りの曲が中心でしたけど、今回はタイトル曲の「LIFE」がシティポップ・サウンドになっていて、アルバムを通したコンセプトも“LIFE”で固められていますよね。
 「カフェ・ライヴと併行して年に何度かバンド・セットでワンマンをやっていくなかで、何年か前からアレンジが決まってきた曲があったので、そういうのを入れたいなっていう思いはずっとありました。2014年に入ってからアルバムの軸となる〈LIFE〉ができたので、ポジティヴなメッセージとか、自分の伝えたいものをコンセプトにした作品ができるなって」
――コンセプトに合わせてシティ・ポップ路線の曲を増やしたというわけじゃないんですか?
 「そうですね。〈Lady Go!〉なんかもずっとこのアレンジでやっていたし、そういうアレンジが好きだなぁと自分でも感じていて。だからシティポップがやりたいと思ってこのアルバムを作ったというよりは、自分の好きなことをやったっていう感じが強いですね」
――「LIFE」ははじめからシティポップという狙いで、バンドでやるイメージで作っていたんですか?
 「弾き語りでやる、というイメージはなかったですね。ギターのカッティングとかも入れたいなとか。キメのところも一人じゃ絶対にできないだろうなと思ってたし」
――ちなみにこの曲はプロデュースに久保田真悟(Jazzin'park)さんを迎えてますね。
 「すべての曲を1回渡したんですけど、〈LIFE〉のイメージがすぐにが浮かんだからやらせて欲しい、って。大まかな形は決まってたので、コーラスはこういうのがいいとか、イントロでこういうギターを入れようとか、そういうアイディアをもらいました」
――アルバムを通して聴くと、シティポップだけじゃなく、これまで積み上げてきた“らしさ”を感じる作品もちゃんと残していて。集大成的な一枚という感じがしました。
 「そうですね。アコースティックや弾き語りも好きだし、いろいろな面が楽しめると思う。でも、これまで打ち込みとかアコースティックはすでに経験があるので、生のドラムを使って、スタジオにガッツリ入って録るアルバムを作りたいという思いがあって。活動を続けてきた中で、いろいろな人との繋がりもできてきたので、満を持してというか。それが形になったっていう感じがします」
――アレンジも洗練されているし、音もキレイですごく聴きやすい作りにはなってますよね。
 「そこはもう、エンジニアさんの力で(笑)。これまで弾き語りを聴いてきたファンの方もすごく受け入れてくれています」
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――1曲目の「Intro」には「Lady go!」のコーラスがサンプリングされていたりして、アルバムを通してひとつの作品になっている、というのが強調されていますよね。
 「そう言ってもらえると嬉しいですね! 〈Intro〉は完成直前に急遽入れたんですけど、そのおかげで〈Happiness〉のイントロも映える形になったので。〈Lady go!〉までで一枚のアルバム、というイメージです」
――なるほど。だからラストの〈地球のゆりかご〉はボーナストラックという扱いなんですね。歌詞に話題を移してもやっぱり“LIFE”というコンセプトが効いていて、それぞれが生きていくことに対するメッセージみたいなものが多く入っていますよね。
 「19〜20歳の頃は失恋の曲とかを多く書いてたけど、最近はそういうメッセージを込めた曲を書こうと思っていたので、自然とそうなりました」
――そんななかでも、「LIFE」には“失うこと怖がって言い訳探すより 走り出せ 一度きりのLIFE”っていうフレーズがあったりして、すごくチャレンジングな姿勢が印象的でした。
 「やっぱり頑張るか頑張らないかどっちかだから。頑張って笑えたほうがいいなとは思っていて。頑張ってもっと走ろうって」
――発表当初は流通を使わず、ホームページやライヴ会場で販売するインディペンデントな手法をとっていたり、そういった部分にも挑戦していく姿勢が表われている気がします。
 「最近はCDショップに情報を取りに行く、ということが少なくなってきている気がして。それは映画とかにも同じことが言えると思うんですけど、新しい作品との出会いが少なくなってきてる。そういう部分で、イレギュラーな出会いを作ってあげることができればいいな、とは思っています」
――イレギュラーな出会いという意味では、ここ数年はトレイル・ランニングのイベントにもよく出演されてますよね。ご自身も実際に走っていたりして。
 「前からロードは走ってはいたので、走ることにはもともと興味があって」
――イベントへの出演はどういうきっかけだったんですか?
 「所属している事務所でトレラン会場での音響の仕事があって、興味があったのでマラソンの格好をして、ついでにギターも持って勝手についていったのが最初ですね(笑)。飛び入りみたいな感じで会場のゴール付近でライヴをやったら地元の人にも気に入ってもらえて、そのことがきっかけで長野県の長和町姫木平の観光大使もやらせてもらったりもしました」
――それはすごいですね!トレランの会場でライヴをやると、反応は普段と違うんじゃないですか?
 「選手がすごくCDを買ってくれていて。“山に合う”って言ってもらえるんですよね」
――たとえばスケートにはパンク、フィギュアスケートにはクラシック、格闘技にはハードロックとか、カルチャーを含めて対応する音楽ってあるじゃないですか。“シティポップ”と“山”って真逆なものに感じるけど、実際に走りつつ曲を作ってる高橋さんを含めて、参加している人からそういう声が出るってことは、相性がいいんですね。
 「首都圏から参加している人がすごく多いので、そういうことも関係あるのかもしれない。特に私が参加させてもらってるイベントはいわゆるチャンピオンシップレースではないから、本当に上位の人以外はゴールするときも“いえーい!”みたいな、すごくハイになってたりとか」
――環境もいいし、フェスに近いような感覚もあるんですかね。
 「そうかもしれないですね。みんな“非日常”で来ている感じがして」
――トレランとシティポップ……これはひとつの発見かもしれないですね。
 「そうですね。ずっと自分と向き合ってストイックに走る、という競技とは少し違うので。きっと、マラソンには合わないんだと思う。あくまで、トレイルに合う音楽」
――そういう意味では、アルバム制作前にトレランに触れたことで、そういう音楽に引っ張られたという感じがあるんですかね。
 「それはあると思います。実は〈LIFE〉もトレランの曲で。“走り出せ”っていうキーワードで、応援歌というか。チャレンジすることが素晴らしいっていう。曲を作っていたときはまだ本格的に走ってはいないときだったので、夜のうちに山に入って、ヘッドライトつけて、山の中で朝を迎えて……とかいろいろと想像して」
――実際に走ってからは違いました?
 「すごい楽しいんですよ! “野生”になるというか。ベロがでて、四本足で走ってるような感覚になって(笑)。丸太をピョーンと飛び越えたり、手を使わないと走れないところとかもあったりするし」
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――そういう感じなんですか?なんかすごく過酷なイメージが……。
 「山を走るっていうとしんどそうな感じもするけど、そういう想像とは違うと思う。つらくてつらくて、走りきったらきっといいことがある! っていうんじゃなくて、走ってるときが楽しい」
――走ってるときに、“これは人生の道のりと一緒だ!”とか考えているわけではないんですね。
 「全然。目の前の足場をどうするか、とかそういうことを考えなくちゃいけないから。だから今あらためて曲を書いたら、もう少し野性的な曲になるかもしれないです(笑)」
――これまで音楽的にも少しずつ変化してきていますけど、今後に向けてこういう曲を作りたい、というイメージはありますか?
 「自分の好きなことをやる、っていう部分では変わらないですけど、最近は曲を作るときにアレンジを考えながら作ってるから、バンド・サウンド寄りにはなっていくだろうなと思います。ラテンとか、R&Bとか、好きなものをいい形のポップスにして、日本語でメッセージを伝えていくことができればな、と」
――日本語、という部分にはこだわりがあるのですね!
 「英語ができないので……Youtubeに“Nice voice, cute english”とか書き込みがあったりして(笑)」
――なるほど(笑)。アルバムの好評を受けて、これからはさらに多くの人に手に取ってもらえるチャンスが増えましたが、いかがですか?
 「まずは、このアルバムを手に取って聴いて貰いたいですね。ジャケットを開くと先ずは私からのメッセージ。そしてブックレットの1ページ目にはライナーノーツがあるので、それをゆっくり読んでカフェオレとか飲みながら聴いてください。アルバムを通してお気に入りの一枚になったり、曲を聴いて誰かのことを思い出したり、そんな風にこのアルバムを大切にしてくれたら嬉しいです。とにかく、聴いてみてください」
取材・文 / 木村健太(2015年1月)
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