――『モザイク・プロジェクト』は、さまざまなスタイルやトピックの音楽が盛り込まれていながら、全体としての統一感もあって、素晴らしいアルバムだと思いました。女性だけのプロジェクトというアイディアはいつ、どんな状況で生まれたのでしょうか。 テリ・リン・キャリントン(以下、同)「女性だけのプロジェクトというアイディアは、今までにも何度か考えたことはありましたし、フェスティヴァルなどでそういう企画を持ちかけられたこともありましたが、今までは遠慮してきたんです。私はとても若い頃からプロとして活動してきましたが、共演して楽しいと思う女性ミュージシャンがなかなかいませんでしたし、女性ミュージシャンという枠に押し込められるのも嫌でしたから。でも、今は自分でも誇れるキャリアを築いたと思っていますし、近年になって楽しく共演できる素晴らしい女性ミュージシャンが増えてきたので、女性だけのプロジェクトを実現させるのにいい機会だと思ったんです」
――歴史的に見ると、たしかにジャズの世界ではクラシックの世界と違って、女性プレイヤーは少数派ですが、それはなぜだと思いますか。
「クラシックの世界でも、女性はピアノかヴァイオリンなどのプレイヤーがほとんどで、こうした楽器はドラムスやベースほど攻撃的な印象はありませんよね。伝統的に、女性は攻撃的なことをすべきではないという観念があって、その点ジャズのトップ・プレイヤーというのはとても攻撃的ですから(笑)、女性がジャズをやると白い目で見られてきたのかもしれません。でも、今は状況が変わりました。音楽が変わったというよりもむしろ、社会が変わったというべきでしょうね。ジャズ・ミュージシャンばかりでなく、女性のCEOなども増えましたし」
――日本でも、女子高生がビッグバンドを組んで奮闘する『スウィングガールズ』という映画が数年前にヒットしたのをきっかけに、トランペットやサックスを手にする女の子が増え、今では学生ビッグバンドのコンテストで中心的な役割を果たしたり、プロとして活躍したりしているんですよ。 「素晴らしいですね。私も世界各地でクリニックを開いて、女性の参加者が増えてきているのを見て嬉しく思っていますが、こうしたことをわざわざ話題にする必要がなくなるのが理想ですね。そうなって初めて、女性プレイヤーが認知され、受け入れられたことになるわけですから」
――人口の半分は女性ですから、ジャズ・プレイヤーの男女比を考えると、たしかに理想にはほど遠いですよね。ところで、アルバムのリリース資料の中には「“モザイク・プロジェクト”は優れた女性アーティストによる素晴らしいプロジェクトだが、もうひとつの素晴らしさは、音楽に性が現れていないところにある」というあなたの発言があります。個人的にはたとえば女性であることを前面に出したミシェル・ンデゲオチェロの作品と共通する質感のようなものを感じるのですが。 「私は個人的に彼女の大ファンなので、そう言っていただけるのは嬉しいのですが、何も知らずにこのCDとミシェルのCDとを聴き比べたとしたら、共通点は感じないと思います。女性の作品であることを知った時に、女性ならではの感受性のようなものを感じるんじゃないでしょうか。男性だけでレコーディングされた素晴らしい作品にも、たとえば
ジョン・コルトレーンの
『バラード』はこの上なく美しいアルバムですが、私はそこに女性的な美意識を感じます。男も女も、男性的なエネルギーと女性的なエネルギーの両方を持っていますから、男性でも美しい作品を求めれば、それは女性的なものになると思います。逆に、女性が攻撃的な作品を求めれば、男性的なものになるわけですが、私はどんな音楽を演奏する時でも、そういった意識を離れて、両方の要素が自然に浮かび上がってくるようなものができればと思っています」
取材・文/坂本 信(2010年9月)