昨年には結成25周年を迎えたTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOことtha BOSSが2作目となるソロ・アルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』を完成させた。2019年にTHA BLUE HERBの2枚組アルバム『THA BLUE HERB』を作り上げると、2020年にはTHA BLUE HERBのEP『2020』を、2021年にはdj hondaとのコラボレーション・アルバム『KINGS CROSS』をリリースするなど、コロナ禍をものともせず走り続けてきた。そのうえ15曲ものボリュームのソロ作まで制作していたとは、あいかわらずのハードワーカーぶりである。
本作ではBACHLOGICやINGENIOUS DJ MAKINOら多彩なビートメイカーに加え、5人のラッパーをフィーチャー。ZORN、YOU THE ROCK★、SHINGO★西成、JEVA、さらにはかつて楽曲上でビーフを繰り広げ、数年前に和解が報じられたRHYMESTERのMummy-Dが参加している。1曲ごとに異なるライフストーリーが刻み込まれたソロ2作目。50代を迎えてもなお歩みをゆるめることのないtha BOSSにインタビューを試みた。
――ソロとしての前作『IN THE NAME OF HIPHOP』が出たのが2015年10月で、それから7年半の時間があったわけですけど、その間ソロとしての次回作を作るという考えは常に頭の中にあったのでしょうか。
「ソロの後、THA BLUE HERBで2枚組のアルバム(『THA BLUE HERB』)を作って、その後に2曲入りのシングル(『ING/それから』)まで出していたので、O.N.Oとは極めた感じもあったんですよね。ま、コロナ禍でも5曲を作ったり(2020年の『2020』)、O.N.Oとの関係は当然続いてるんですけど、そこまでやったから次は他のビートメイカーとやりたいなと。そういう気持ちになりましたね」
「THA BLUE HERBとは違ってひとりひとりビートメーカーが異なってるし、そのぶんカラフルにはなりますよね。なおかつリラックスした雰囲気を作れてる。でも、みんな年齢関係なしに実力のある人たちだから、失礼のないようにちゃんとやらせてもらうっていう緊張感は参加してくれた人数分あったわけで、それはそれで楽しかったけどシビアな仕事でした」
――YOUさんとは前作に収録された「44 YEARS OLD」で共演し、2021年にはYOUさんの復活作『WILL NEVER DIE』もTHA BLUE HERB RECORDINGSからリリースしたわけですけど、今回も「DEAR SPROUT」でフィーチャーされています。ただ、悲痛でさえあった「44 YEARS OLD」とはだいぶ違いますよね。
「違いますね。やっぱり彼のアルバムを経てますからね。あのとき本当にずっと一緒にいたから、めっちゃ仲良くなった。〈44 YEARS OLD〉のときは今回のDくんに近い関係性だったけど、そこからここまで来たかって感じだね。安心感がすごくある。TOSHIKI HAYASHI(%C)くんのトラックも影響してるのか、力が抜けてるし」
――3曲目「サウイフモノニワタシハナリタイ」は言うまでもなく宮沢賢治「雨ニモマケズ」の一節“そういうものにわたしはなりたい”から取られているわけですが、THA BLUE HERBの「AME NI MO MAKEZ」を重ね合わせるファンは少なくないと思います。
「アルバムのなかでもこの曲が最初にできたんです。北九州のINGENIOUS DJ MAKINOは“このビート、BOSSに合うと思うよ”って時々送ってくれるんだけど、そのなかの1曲がこれで。本当にびっくりするぐらいドンピシャきちゃって、すぐ録ったんだ。録った以上は出したいなというところからアルバムを作り始めたようなもんで。ある意味、この曲のビートが一番最初に俺を動かしてくれた」
「でも、かつての俺がひらめいて、俺が口に出して、俺が行動したからこのアルバムもあるし、THA BLUE HERBもあるし、なんならすべてのライヴもあるっていう意味では、バタフライエフェクトじゃないけど、誰かひとりの小さな思いつきや行動がどういう結果を招いて、どういうところまでいけるかっていうのを、人生そのもので更新し続けてきたわけで。札幌に住んでて、自主制作で、後ろ盾が無くてもここまでやれてる。そうである以上、おまえにできない理由があれば言ってみろぐらいの感じをずっと提示し続けていく。それがヒップホップだと思ってます」