THE BABYS
『I'll Have Some of That!』
ソフトでアーバンな肌触りのエモーショナル・ロックでAOR色濃い1970年代末全米チャート上にその名を刻み込んだ英国発祥バンドが、解散から30年以上を経て帰ってきた。英国生まれながら現在は米国に腰を据えるオリジナル・メンバーのトニー・ブロック(ds)とウォリー・ストッカー(g)によって2012年末に立ち上げられた復活
ベイビーズ、オリジナル・アルバムとしては34年ぶりとなる
『アイル・ハヴ・サム・オブ・ザット!』の登場だ。かつて看板だった
ジョン・ウェイト(vo)の不参加は残念だが、米西海岸でリクルートしたジョン・ビサハ(vo, b / 80年生まれ)は力強い熱唱に加えて前任者のウェットな歌い回しも自然にこなせる逸材。同じく米国人のジョーイ・サイクス(g)を加えた現ラインナップで旧曲のイメージを損ねることなく再現できることは疑いない。
しかし、仕上がった新作では往年のトレードマークだったアーバンな装いをまるまるはぎ取ったかの“R&B愛”第一なパワー・ロック・スタイルが全面展開。これにはびっくりした。ソリッドなギターが軽妙に刻みまくり力強く泣きまくり、古風なキーボードや女声コーラスが随所で情を盛り立て、要所にマンドリンやフィドルやホーンが響いたりも……まるで
フェイセズ〜
ロッド・スチュワートか
ハンブル・パイか、といういかにも英国人による米国音楽へのラブレター的仕上がり。たんなる懐古趣味とはひと味違う本気のカムバック、を感じずにはいられない。
いや、ブルース・ロック的叙情センスはこのバンドにとって以前も間違いなく重要な拠りどころだったし、彼らの代表的全米ヒット曲「愛の出発(Isn't It Time)」(77年)も「ときめきの彼方へ(Every Time I Think of You)」(79年)もパワー・バラードに女性コーラスを大フィーチャーしたソウルフルな曲だった。ただ、この再出発アルバムのなんの迷いもないクラシック・ロック指向には、かつて彼らがスタートを切ったときの姿さえ突き抜けて遡りきった感がある。全編に多用される女声コーラスのゴスペルっぽさやホンキートンクなピアノやハートウォーミングなオルガンの響きは、じっさい彼らが70年代に見せていたのよりはるかに70年代っぽい。そしてはるかに米国っぽい。そう、バンド自身があの頃から熱望していたとおり。
そもそもベイビーズは、当初より米国感覚への憧れに衝き動かされたバンドだった。結成はロンドンだが早々に米国西海岸に拠点を移してメジャー・デビューの機会を掴み、アイドルっぽいスイートなバンド名に反してアダルトなメロディアス・ロックを開拓。全米チャート成功後の79年には
ジョナサン・ケイン(key / 現
ジャーニー)ら米国人メンバーも加えて産業ロックの洗練指向にも意欲的に取り組んだ。MTV勃興など音楽産業激変の波には乗り切れずバンドは81年に解散するが、その後のウェイトのソロ活動やケインのジャーニー加入、さらには80年代末にウェイト、ケインらが再結集した
バッド・イングリッシュの活動もあって、ベイビーズの名前には米国的産業ロックや洗練指向メロディアス・ロックのイメージが強く染み着いている。しかし、英国生まれのオリジナル・メンバーたちにとって大切だったのは“洗練”や“産業ロック”の要素ではなく、あくまで“米国感覚”の部分だったのだな、と今回の再結成アルバムを聴いてあらためて。
なにごとにおいても“本場の強み”は強みに違いないが、音楽の世界では往々にして“異邦人だからこそ持ち得る憧れやこだわり”が引き出す魅力が光り輝くことがある。ブリティッシュ・ロックによる米国ブルースやR&Bの解釈と変容はその最たるもので、再結成ベイビーズのアルバムはまさしくこの感覚の快作なのだが……まさか2010年代も半ばのいま、あのベイビーズがそれを鮮烈に実感させてくれるとは!