レトロ・ポップなエレクトロ・サウンドで大きな注目を集めた1stアルバム
『ザ・バード&ザ・ビー』から約1年9ヵ月、“トリハチ”こと、
ザ・バード&ザ・ビーが2ndアルバム『ナツカシイ未来(Ray Guns Are Not Just The Future)』を完成させた。60年代のスパイ映画やSF映画のサントラにも合い通じるドリーミーでクールなサウンドを展開する今作について、女性ヴォーカリスト、イナラ・ジョージにメール・インタビューを試みた。
アメリカで夏に発売されたイナラ・ジョージの2ndソロ『AN INVITATION』(
ヴァン・ダイク・パークス・プロデュース)の日本リリースを今や遅しと待っていたら、なんと! グレッグ・カースティンとのデュオ、ザ・バード&ザ・ビーの2ndアルバム『ナツカシイ未来(Ray Guns Are Not Just The Future)』(アメリカでは、来春発売)の方が一足先に日本先行という形で発売された。これが、前作のエレクトロ・レトロ・ポップ路線をさらに押し進めたドリーミーでクールな出来映え。日本盤には、ボーナス・トラックとして、
コーネリアスとのコラボレーションによる日産MOCOのTV-CFソング「ハート・アンド・アップル」も収録されており、話題を呼んでいる。
1stアルバムと今回の新作の間に4度の来日、さらにソロ・アルバム『AN INVITATION』の制作、ライヴなどもあって、極めて多忙だったと思うのだが、新曲作り〜レコーディングにそれほどプレッシャーは感じなかったようだ。
「 前のアルバムを完成させたあと、グレッグと私はいろんなところで新曲の制作を続けてきて、いくつかの曲はEP(
『プリーズ・クラップ・ユア・ハンズ』)に入れたし、いくつかは新作のために残しておいた。いつも曲を作ろうとする意欲は持ち続けていたから、締め切りに追われて曲を作らなきゃ、ってことはなかったわ」
今回のアルバムには「WITCH」など、かつてのボンド映画やジェーン・フォンダが主演した映画『バーバレラ』の音楽を思わせるような楽曲がある。アルバム・タイトルやアートワークも含めて、60年代のスパイ映画、SF映画のような雰囲気が漂っているのも興味深い点だ。『ナツカシイ未来』という邦題もイナラとグレッグが目指したコンセプトをうまく表わしている。
「昔にみんなが思った“未来”というものに、今の時代が追いついたってことかしらね。 未来はこうなるだろう、って思ったことは、現実にそうなった場合もあるし、全然違ったってこともある。グレッグと私は、音楽でそんなことを表現しようとしたとはいえる。現代に生きながら、過去を引っ張り出してくる感じかしら」
「POLITE DANCE SONG」のプロモ・ビデオは、ディヴィッド・リンチの映画のようにストレンジ&クールで、繰り返し観てしまうが、旬なコメディアン、エリック・ウェアハイムにディレクションを任せたセンスは、さすがだ。
「グレッグのアイディアよ。彼は『Tim And Eric's Awesome Show, Great Job!』(アメリカのカートゥーン・ネットワークの人気番組)のファンでね。そのエリックとグレッグは友達なのね、それでビデオの制作を頼んだら、とてもうまくいって、みんなで大喜びってわけ」
昨年、出来上がったばかりの
細野晴臣トリビュート・アルバムをふたりにプレゼントしたら、コーネリアスと
坂本龍一のコラボ曲「Turn Turn」が収録されていたので、とても喜んでいた。グレッグとイナラは、以前からコーネリアスや
ピチカート・ファイヴ、
YMOなど、日本のポップ音楽のファンだったというから、今回の共同作業はふたりにとってワクワクするような体験だったに違いない。果たして、その曲「ハート・アンド・アップル」は、互いの持ち味を活かしたとびきりのドリーミー・ポップ・サウンドに仕上がった。
「コーネリアスと仕事できたのはとてもエキサイティングだった。けれど過程はそんなにロマンティックってわけじゃなくてね(笑)。インターネットで音源のやり取りをして完成させたの。ぜひ実際に彼に会ってみたいわ」
すっかり日本贔屓になったイナラのことだから、来年あたり、ザ・バード&ザ・ビーでの3度目の来日公演が実現するかもしれない。そう勝手に期待していよう。
取材・文/長門芳郎(2008年11月)