the brilliant greenから5枚目のオリジナル・アルバム
『BLACKOUT』が届けられた。90年代UKギター・ロックからの影響をしっかりと咀嚼し、“ブリグリ・サウンド”――美しいダイナミズムをたたえたバンド・サウンド、そして、憂いを感じさせるヴォーカル・ライン――へと昇華する。じつに8年ぶりとなる本作でも彼らは、自らのスタイルをきちんと追求し、確かな手ごたえを持つロック・ミュージックを提示することに成功している。ルーツ・ミュージックへの深い愛情、ブレることのないコンセプト、アナログ・レコーディングを基本とする丁寧なプロダクション。the brilliant greenは、今もっとも真っ当なロック・バンドと言えるかもしれない。川瀬智子(vo)に話を訊いた。
――8年ぶりのニュー・アルバムですね。
川瀬智子(以下、同)「そう言われると久しぶりだなって感じはするんですけど、ベスト・アルバムを2年前に出してるし、シングルもリリースしてたから“8年も経った?”って感じがするんですよね。今回のアルバムの制作も、じつは今まででいちばんタイトなスケジュールだったんです。そのギャップもあって、“ゆっくり作った”って感じはぜんぜんなくて」
――ということは、新しい曲が多い?
「シングル以外の曲はすべて最近作りました。ストック曲もあるんですけど、“寄せ集め”みたいなアルバムはイヤだったんですよね。しっかり“今の感覚”が入ったものをやりたかったので」
――「BLACKOUT」「BLACK DARK NIGHT」と、アルバムのオープニングから緊張感のあるロック・チューンが並んでいて。
「そうですね。1〜3曲目の流れなんかは3枚目のアルバム『Los Angeles』を彷彿とさせるなあって思ったりしました。6曲目(『Break Free』)、7曲目(『Going underground』)、13曲目(『BLUE SUNRISE』)あたりはブリグリのスタンダードっぽい雰囲気で」
――しかも、これまで以上にバンドらしい音になってる印象があるんですよね、不思議と。
「それはたぶん、奥田が“ひとり宅録”っていうルーツに戻ったからだと思うんですよ。もともと奥田(俊作)が全部ひとりで演奏したオケを忠実に再現するレコーディング形式だったので。プロになってからもそれは変わらずで、ベースに限らず、ドラムのエディットや、ギターも弾いてましたし。ただ、本格的なスタジオ作業というのは、プロの仕事を見せていただいた経験が大きかったみたいで、現場でいろんなことを吸収させてもらった上で、また元に戻ったっていう」
――温かみのある音質も素晴らしいですが、制作は主にプライベート・スタジオで?
「そうですね。たまにミックスなんかで外のスタジオも使いますけど、ほぼ自分たちのスタジオで録って仕上げます。全部アナログ・テープで録ってるから、音の立体感とか丸みっていうのは、やっぱり全然違いますね。それぞれの音の馴染みがすごくいいと思うし、ブリグリは特にそうありたいんですよね」
――贅沢な作り方ですよね。
「今は画面上でいくらでも作れちゃいますからね。安く、早く、っていう。市場に出てる音もそれが基準になってるから、“それでいいんじゃない?”っていう選択肢もあるけど、結局録り直したりして、やっぱり音の質感はすごく大切なんですよね。機材を揃えたりメンテナンスするのは費用も手間もかかってけっこう大変なんだけど、仕事を抜きにしても好きでそうしているのもあって、それがもうライフ・スタイルなんです。音楽で稼いで、音楽に投資するっていう」
――ブラーの「SONG2」のカヴァーも収録されてますね。 「the brilliant greenのルーツは90年代のUKロック・シーンなんですけど、そのくくりで選曲したりする機会が多くて、やっぱいいなって。あまりマニアックなカヴァーをしても違うなって話になって、この曲を。今後もルーツ的な曲をどんどんカヴァーしたいな。以前はあまりにもリアル・タイムすぎてカヴァーしようという発想にはならなかったんですけど、今は楽しめるようになってきてるんですよね」
――音楽的な背景を再認識するきっかけにもなった?
「というか、“こういう感じの音楽をやりたい”っていうイメージがはっきりあったから、ずっと。とりあえずバンドを組んでから、自分たちのサウンドを模索するっていうんじゃなくて、“こういうシーンの音楽を自分たちのフィルターを通してやってみたい”っていう。だからブランクがあったとしても、方向性にブレがないんです」
――なるほど。
「the brilliant greenの制作をやってると、そのときの“憧れ”のような気持ちにすぐ戻れるというか。そういうフィーリングは自然と投影されてると思いますね」
――『BLACKOUT』というタイトルも、the brilliant greenのイメージに直結してますね。
「そうですね。タイトルの候補をいくつか考えて、そのなかから奥田が選んだんです。“暗転”っていう意味があるんですけど、明るいところから急に暗いところに行くと、最初は真っ暗で何も見えないじゃないですか。でも、だんだん目が慣れてきて、それが普通になって、そういうものだって理解できる。the brilliant greenの音楽性もそういう感じに近いと思うんですよね。ぜひ、仄暗い世界観に慣れて、心地良さを体感してほしい」
――演劇の場合、暗転のあとは新しい舞台が現れるわけですけども。the brilliant greenの今後の展開はどうなりそうですか?
「ソロのほうも並行してやっていきたいってのはあります。ただ、歌詞にしてもサウンドにしても、いちばん自分の等身大に合うのはやっぱりthe brilliant greenなんです。だから、この先もマイペースでやっていきたいなって思いますね」
――これまでどおりに続けていく、と。
「そうですね。いいものを作るために、マジメに取り組む。それが自分たちの気質に合ってるんですよね。そこはブレることなくやっていこうと思ってます」
取材・文/森 朋之(2010年9月)