アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーが新バンドを作った──そんな情報だけを耳にしたら、はたしてどんなサウンドなのか想像もつかないだろう。なにしろアークティックといえば、無料配布した音源がファンのブログにアップされたり、口コミで話題になるなどして、デビューから瞬く間に、そのリズミカルなヴォーカル・ラインや、さまざまなリズムを駆使した曲作りで、イギリスの頂点に駆け上ったバンドなのだから。
「僕たち2人とも、曲作りとかの面で次のステップに挑戦したかったっていうのがあるね。力を伸ばしたかったし、2人で一緒にやるっていうのがタイミング的にもいいと思えた。どっちもバンドをやってるから、そういう2人が一緒にやるのって面倒くさいんじゃないのっていうようなことを言われるんだけど、別に面倒な話である必要はないわけで」(アレックス・ターナー/vo&g)
「ほんとほんと。もうひとつ別の捌け口っていうだけだよね。そういうのが必要だったというか、解放感もあるしさ」(マイルズ・ケイン/vo&g)
そんな想いでアレックスが、相棒のマイルズ・ケイン(ラスカルズ、元リトル・フレイムス)とともに作ったのが、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツ。デビュー作『ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメント』は、
アーケイド・ファイアのストリングス・アレンジも手掛けるファイナルファンタジーことオーウェン・パレットも参加、そしてプロデュースとドラムにはアークティックの
2ndアルバムも手掛けたジェイムス・フォード(
シミアン・モバイル・ディスコ)、というたまらない顔ぶれも揃っている。
アレックスとマイルズの2人は、「僕たちの年齢で、こんな音を作ったら面白いかも」という観点からまず、曲作りに向かった。どんな音かを知るためには、影響源について訊くのが早い。
「
スコット・ウォーカーの『スコット・ウォーカー、ブレルを唄う』(※原題『Scott Walker Sings Jacques Brel』)だね、なんといっても」(アレックス)
「あれが何よりも刺激になったんだよ。あとスコット・ウォーカーのUKベスト盤の『Boy Child』。2人ともあの中の〈Seventh Seal〉〈Plague〉そして〈Old Man’s Back Again〉と、この3曲がすごく好きで。何よりも、あのドラマチックさ。それを再現してみたかったんだよ」(マイルズ)
「それからサウンド的にも、ストリングスを使ったビッグな音響効果とか」(アレックス)
「そう、リヴァーブを利かせた音響にしたかったんだよね」(マイルズ)
そして生まれたのが、リヴァーブがサイケさを醸し出しつつ、60年代のポップスを彷彿とさせるメロディや豊かなコーラスが味わい深い、このデビュー作だ。まだまだやってみたいことが山ほどあると、口をそろえて笑う2人。だからだろうか、聴いていると音楽の自由さと未来が、じんわり押し寄せる気がする。
取材・文/妹沢奈美(2008年3月)