デビュー・アルバム
『ザ・スクリプト』が本国アイルランド及びイギリスで初登場1位を獲得するなど、世界規格の大型ロック・バンドとして注目を集める
ザ・スクリプト。
N.E.R.D.のツアーでサポート・アクトを務めるなど、ソウル、R&B、ヒップホップといったブラック・ミュージックからの影響も色濃く感じさせる独自のサウンドに迫るべく来日中の彼らに話を訊いた。
アイルランドの貧民街に育ちながら、成功を夢見て音楽に賭けた3人の若者たち。なんて紹介すると、なんだか映画の脚本(スクリプト)みたいだけど、そんなドラマティックな人生の真っ只中にいるのがザ・スクリプトだ。ダニエル・ドナヒュー(vo、key)とマーク・シーハン(g、vo)は10代の頃にダブリンの下町で出会い、意気投合してソングライター・チームを結成。アメリカへ渡ると、
ダラス・オースティンや
テディ・ライリーなど、R&B界の大物たちのもとを訪ね歩いた。
「その時はバンドをやろうなんて考えてなかったよ。バンドでデビューしてたら、自分たちのスタイルを決めなきゃいけないじゃないか。だけどソングライターなら、毎日日替わりで違うものを作れる。昨日はレゲエ、今日はロック、明日はR&Bって感じでね。当時はそのほうが楽しかったんだ」 (ダニエル)
しかし、ソングライターとしてなかなか芽が出なかった二人は思い切った行動に出た。
「ダニエルがすごくいい声を持っているのに使わない手はない、と思って、彼のソロ・アルバムを作ろうということになったんだ。ちょうど、その時にアイルランドからやって来たグレン(・パワー/ds、vo)と出会った。そこで3人でプレイしたものをプロデューサーに聴かせたら『すごくいいね。君たちバンドなの?』って言われて、『はい!』ってウソついてさ(笑)。それがスクリプトの始まりなんだ」 (マーク)
「ダニーとマークに出会った時のことはハッキリと覚えてる。パズルの最後のピースが見つかったみたいな感じだった。“これは単なるバンドじゃない、メガ・バンドができる”って確信を持ったよ(笑)」 (グレン)
そんな3人が持てる力を出し合って完成させたのが、UKチャート1位に輝いたデビュー・アルバム『ザ・スクリプト』だ。
U2を思わせるエモーショナルなロックンロールと、R&Bの艶やかなグルーヴが融合したサウンド。そこには、ソングライター・チームとして培ってきた彼らのスキルが存分に活かされている。
「例えばグルーヴやベース・ラインを効かせた曲にすることで、人はまず身体で感じてくれる。そして、その後〈どういうことを歌ってるんだろう?〉って歌詞に興味を持ってくれるんだ。でも歌詞であれ、メロディーであれ、書いている自分が嘘だと思うものじゃダメだ。自分が心底そう感じるものじゃないとウソになってしまうからね。曲作りはただテクニックだけじゃダメなのさ」 (マーク)
歌はソウル(魂)。そんな彼らの曲にかける熱い想いは、デビュー・シングル曲「ウィ・クライ」からも伝わってくる。
「これはダブリンのある通りを歩きながら、目に見えるモノや人を描いた曲なんだ。その通りっていうのは、まだ若いのに赤ん坊を抱えてる女の子とか、ミュージシャンを目指していたのにドラッグで身を滅ぼしたような人たちが1日中たむろしてるような場所で。〈ウィ・クライ〉のサビでは“一緒に泣くことで問題を分かち合おう”って歌ってるんだ」 (マーク)
みんなで共に歌い、分かち合う“大きな歌”。それがザ・スクリプトの歌なのだ。ウィ・シング!
取材・文/村尾泰郎(2008年10月)