数年前に沸き起こった、“80年代ニューウェーヴ”のリバイバル・シーンでブレイクしたカナダ、モントリオール出身のバンド、ザ・スティルズ。しかしデビューから2年後の2006年に発表した2作目では早くもそのイメージを打ち破ってアーシーなロックを鳴らし、そして最新作『オーシャンズ・ウィル・ライズ』ではより“ダークでリズミックでヘヴィなロック”アルバムを完成させた。
「僕らは常に新しい扉を開けて世界を観ることを大切にしている。新しいことに挑戦し、バンドとして常に成長していきたい。そこで今回はこれまで刻んだことのないリズムを生み出し、パーカッシヴでトライバルな音を目指したんだ」 (デイヴ・ヘイムリン、以下同)
アルバムの曲12曲(+日本盤にはボーナス・トラック3曲)は、ほとんどがキングス・オブ・レオンと廻ったツアー中に書かれ、たとえば「ビーイング・ヒア」という曲はキングス……たちとバーベキューを楽しんだときに作った1曲だと言うが、歌詞をじっくり味わうとお気楽なBBQシーンには不似合いな人生の過酷さが伝わってくる。
「アルバムのテーマはコントロール不全。人はこの大いなる地球という上では何もコントロールできず、自分の人生さえもコントロールできない。それを実感することを歌ったアルバムなんだ」
そんな重いテーマが生まれたのは、実は沖縄の海でのこと。デイヴが生まれて初めてのダイビング体験をしたときに突然襲われた“奇妙な感覚”、それが元になっている。
「慣れ親しんだ環境ではない場所で、初めて海中に潜ったらひどく混乱してしまってね。自分は自然の力の前では無力で何もコントロールできないんだってことを痛いほど感じたんだ」
そこからまず「ダイナソーズ」という1曲が生まれ、やがてアルバムにつながっていく。ユニークなことにどの歌にも登場するのは自分と、自分に対峙する相手のみ。第三者はほとんど出てこない。その代わりどの歌にもデイヴがコントロール不能と感じた大いなる自然が渦を巻き、巨大な影をまといながら雄大な姿を見せる。その前に人間は翻弄され、うずくまり、目を細め、時にはパニックを起こし、激しい嵐の中を突き進む。ギターはグルグルうねりをあげ、自然の過酷さを表わすような生々しいパーカッションが轟く。そう、これはリアル・ネイチャー、地球という星の躍動をロック・アルバムという形態に落とし込んだ、とても珍しい作品だ。そんな雄大な姿、クラシックのオーケストラだって描くのが難しいのに。
「種を明かしちゃうとさ、僕らツアー中ずっとBBC放送の『プラネット・アース』とか『ブルー・プラネット』を観ていたんだよ。それにもともと僕はいろんな国を旅して、自然を見て廻るのが大好き。そういうものが反映されている。……今は日本の北海道に行って動物を見たいし、沖縄にもう一度行って、太古に沈んだとされる幻の王国の遺跡を探したいなぁ」
(取材・文/和田靜香)