90年代J-POPを支えてきたにもかかわらず、10年ほどで姿を消してしまった短冊CD。しかし、リサイクル・ショップ片隅のワゴンでほこりをかぶったままで運命を終えることはなかった。近年ではDJ的視点からの発掘作業が行われ、CDショップでは2024年7月7日に第2回目の「短冊CDの日」が開催。新作を短冊CDでリリースするアーティストも着々と増えてきている。
そんな短冊CDの魅力はどこにあるのか。平成リバイバルをテーマに活動するマルチアーティストで、短冊CD、VHS、テレカなどのグッズをリリースしたり、90年代愛にあふれたファースト・アルバム『Tnaka IN THE HOUSE』を発表するなど注目を集めるアーティスト/デザイナー/DJのTnakaと、話題の書籍『短冊CDディスクガイド』の監修者であるDJ/ミュージシャンのディスク百合おんに、短冊CD、『Tnaka IN THE HOUSE』、90年代音楽カルチャーについてまで存分に語ってもらった。
――2人の交流はいつ頃から始まったのでしょうか?
ディスク百合おん 「覚えてる?」
Tnaka 「多分オオノ屋ですよね?」
ディスク百合おん 「今はなくなっちゃったけど、 大阪のお茶漬けバーですね。2018年ごろだったと思う。自分が8cmCDDJを始めて数年経ったぐらいです。関西の8cmCDDJクルーが8cmCDオンリーDJイベントをやるということで、ゲストで呼んでもらいました」
Tnaka 「私が大阪にいたからかもしれないですけど、最初、大阪のほうが8cmCDのイベント盛り上がってましたよね」
ディスク百合おん 「タイミング的には東京と大阪の盛り上がりは結構近かったんだけど、放課後短冊倶楽部(大阪で8cmCDオンリーのDJイベントを開催している集団)のイベントのほうがちょっと早かったんだよね」
Tnaka 「そうなんですね」
ディスク百合おん 「それに自分も興味があったからぜひ、みたいな感じで呼んでもらって。その時にお客さんとしてTnakaちゃんが来てたんだよね」
Tnaka 「しょっちゅうオオノ屋に遊びに行っていました」
ディスク百合おん 「8cmCDイベントに若い女の子がいるのが珍しくて。今のような流行りの兆しもそこまでなくて、マニアックな感じだったし、選曲もマニアックだった。そんなところに、見たことない子がいたからビックリして話しかけたんですよね。“なんで来たんですか?”って」
――Tnakaさんはその頃はどういう活動をされていたのですか?
Tnaka 「あの頃はmarble≠marbleで活動していて、フジタ(ダイスケ)さんと松本(マツレイ!)さんの3人でステージに立って、バンドのフロントマンという感じでやっていました。でも、オオノ屋の8cmCDオンリーDJイベントのこと、じつはあまり覚えてなくて。それよりも百合おんさんの印象はライヴなんです。その時、私は大阪で活動していたんですけど、半年に1回ぐらい東京で主催ライヴをやっていて。共演することがなかなかないジャンルだから、私が百合おんさんを呼びたい!って言って呼んだんです」
ディスク百合おん 「ナードコアというサンプリング・ダンス・ミュージックをやっていて、ステージで大暴れしてたんです。ライヴはTnakaちゃんとちょっと似てるかもしれないですね。ステージ上で演奏するのではなくて、家で作った音源をポン出しで流して、それに合わせてパフォーマンスをするんです。頭にパトランプつけたり、小道具もいっぱい使って。多分その時から8cmCDとそういうライヴ・スタイルみたいなところで波長が合ってたのかなという気はします。ただ、あの頃のお互いの交流はポツポツだよね」
Tnaka 「私の活動が3人の形態じゃなくなっていって、アイドル・イベントに私が1人で出る形になっていったから、あまり交わることがなくなっちゃったんです」
ディスク百合おん 「それぞれの道をいくって感じで」
Tnaka
ディスク百合おん
――ディスク百合おんさんがナードコアにハマッたきっかけは何だったんですか?
ディスク百合おん 「もともと1999年ぐらいにナードコアの地下的なブームがあって。それこそ、このアルバム(『Tnaka IN THE HOUSE』)に参加してるBUBBLE-Bさんが当時やっていた感じです。Enjo-Gさんはスマイルハンターズっていうユニットやっていたり、BUBBLE-Bさんはカラテクノっていう空手とテクノ融合させたパフォーマンスをやっていました。それを中学時代に『クイック・ジャパン』で読んだ時に、“めっちゃ面白い音楽あるんだ。俺もこういうのやってみたい”って思ったのがきっかけで、高校いってパソコンを買って曲を作るようになって。marble≠marbleのアルバム『89/99』ではリミックスもやらせてもらいました」
Tnaka 「私のアルバム、最後に(いろいろなアーティストによる)リミックスを入れてもらうっていうスタイルを毎回やっていて」
ディスク百合おん 「(『89/99』でリミックスを手掛けている)高野政所さんもそうだね。高野さんもレオパルドンというユニットでナードコアをやっていました。Tnakaちゃんはそこらへんのアーティストにリミックスを依頼することが多いよね」
Tnaka 「私が好きだから(笑)。リミックスに関しては、自分たちではできないタイプの音楽をお願いしたいと思っているんです」
ディスク百合おん 「Tnakaちゃんはナードコアで育ってるとかじゃないよね?」
Tnaka 「そうですね。ピエール瀧が好きだからかもしれない。私には瀧イズムが流れてるので(笑)」
ディスク百合おん 「アイドルでそこを目標としてる人、あんまりいないよ(笑)」
Tnaka 「私、marble≠marbleを始める時、“瀧になりたい”って言ってたんですよ(笑)。marble≠marbleという名前が決まる前は、電気グルーヴみたいなことやりたいよねという感じで、“じゃあ私、瀧やる”って。で、2人のどっちがまりん(砂原良徳)みたいな(笑)」
ディスク百合おん 「あながちそれも間違ってない。2人ともまりんっぽいし。(石野)卓球のいない電気グルーヴだったんだね(笑)」
Tnaka 「そんな感じで、そこからもう、90年代文化がすごい好きということを打ち出していこうとなりました」
ディスク百合おん 「3人のやりたいことが合致したことはあっただろうけど、ジャンルをどうするかっていうコンセプトが最初からあったわけでもなさそうな気がしたんだよね」
Tnaka 「そこは全然なかったです。だからジャンルで言ったら電気グルーヴ(笑)。私は90年代が好きで、フジタさんは90年代の音楽を通っていて、 松本さんはその頃にガッリ音楽をやっていたという」
ディスク百合おん 「90年代は電気グルーヴ以外も、TK(小室哲哉)がそうだし、それこそTnakaちゃんが好きなB'zも4つ打ち曲があったりしますからね。デジタル・サウンドは人気があった」
Tnaka 「なので8cmCDというのはマジでドンピシャでした」
ディスク百合おん 「短冊シングルで出た〈グルグル ジャングル〉(※2024年7月7日にリリースされたTnakaの短冊シングル)もめちゃくちゃ研究してるよね」
New Single Tnaka 「グルグル ジャングル」(MARQUEE≠HOUSE・MMCS-006)
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Tnaka 「染谷(淳一)さんというデザイナーさんが好きで。こういう感じにしたいと思ったんです」
ディスク百合おん 「染谷さんは多分手書きだよね」
Tnaka 「そうなんです」
ディスク百合おん 「このロゴってTnakaちゃんがイラストレーターで1から組み立てて作成してるの?」
Tnaka 「染谷さんは曲名とかも全部手書きでデザインされてるので、私もそれをやりたくて。クレジットをはじめ、歌詞以外のほとんどの文字を書いています」
ディスク百合おん 「そういうのがTnakaちゃんのすごいところ。好きなものを吸収して、自分の手でここまでデザインに落とし込むことができる若手アーティストはなかなかいないんじゃないかと」
Tnaka 「当時の作品と同じ構図をなぞるだけの単純なパロディじゃなく、当時のCDショップの棚に置いてあっても違和感のない作品を作りたいとずっと思っているんです」
ディスク百合おん 「あったかもしれない世界線を」
――「グルグル ジャングル」のカップリングでは岡村靖幸さんの「どぉなっちゃってんだよ」のカヴァーをされていますね。
Tnaka 「〈どぉなっちゃってんだよ〉は、 私が岡村ちゃんが好きというのと、 あとジャングルをやりたいとずっと言ってて」
ディスク百合おん 「内田有紀の〈Only You〉が好きだもんね」
Tnaka 「いつもDJでかけている曲です。カップリングを作るんだったら、ジャングルっぽい曲がいいと思ってこんな感じになりました」
ディスク百合おん 「〈グルグル ジャングル〉はまさにジャングルって感じだけど、〈どぉなっちゃってんだよ〉はドリルンベースっぽい、ドラムンベースをさらにマニアックに追及したような感じがあって面白かったです。それぞれちょっと違うアプローチになってますよね」
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――Tnakaさんはデトロイト・テクノや90年代テクノとJ-POP的メロディを融合させたデトロイト歌謡というスタイルを現在打ち出していらっしゃいますが、そこに至るまでの音楽スタイルの変化はどのようなものだったのでしょうか?
Tnaka 「最初に電気グルーヴみたいなことをやろうということで始まったので、もともとテクノ、エレクトロ系のバンドだったんですけど、そのあとソロになって、アイドル・イベントにどんどん出るようになって、ポップになっていったんです。前回のアルバム(marble≠marbleの『89/99』)が私たち史上一番ポップというか、90年代のJ-POPを目指したアルバムなんですけど、そこまでJ-POPに寄ったら、逆にもう一回はじめに戻りたいっていうか、もっとテクノにしたいよねという気持ちになってきました。それで、デトロイト・テクノをポップスにするのは多分誰もやってないよなと思って」
――『Tnaka IN THE HOUSE』ではそれを形にしてみた。
Tnaka 「デトロイト・テクノに詳しいというわけじゃないんですけど、そういう音が好きなんです。テクノ、ハードコア・テクノ、ユーロビート、レイヴみたいな90年代のダンスミュージックが好きで」
――ディスク百合おんさんが8cmCDでDJを始めたのは何がきっかけだったのですか?
ディスク百合おん 「それまではずっとライヴしかやってなかったんですけど、知り合いがJ-POPのDJイベントを立ち上げることになったんです。それきっかけでDJをやる必要が出てきて。でもさすがにキャリアもテクニックもないから、自分の色がないとなっていうので考えて、最初は全曲(m.c.A・Tの)〈Bomb A Head!〉でDJやるとか(笑)。「Bomb A Head!」って音頭とかボサノバとかいろいろなアレンジのがあったりするんです。あと、〈島唄〉。海外の人が歌ってる〈島唄〉とか、いろんなヴァージョンの〈島唄〉でDJやったりしてたんです。でもそれだとネタすぎてオープン(開場時)でしか持ち味を発揮できなくて。8cmCDに特化したほうが、 誰もやってなくて珍しいし、ジャンルの幅が狭まり過ぎないから面白いかもなと。そこからハマッていった感じです。8cmCDのワゴンセールもまだギリありましたし。今はまた増えてきていますね」
――DJがレアなソウルやジャズのレコードを掘ってダンス・ミュージックとして蘇生させていったのと同じようなレアグルーヴ的視点から短冊CDを掘っていくようになったというわけですね。
ディスク百合おん 「この形態に魅力を感じたところがあります。学生時代に一世を風靡したものだったので思い入れもあるし、ミリオンヒットのタイトルに紛れて、知られざる名曲もバンバン出てきたりするから」
――その頃って、8cmCDをかけるDJはほかにいたんですか?
ディスク百合おん 「沖縄のDJの方で夜野一義さんという方が、ずっと特化してやっていたんですけど、決して多くはなかったと思います」
Tnaka 「じゃあ第一人者ですね」
ディスク百合おん 「なので第一人者というと怒られちゃうかもしれないけど(笑)、今は一生懸命牽引しようとしているところはあります」
――百合おんさんが短冊CDでDJする時、選曲の傾向は?
ディスク百合おん 「基本短冊CDだったら、そのイベントに合わせてどんなものもできるんです。レアグルーヴのパターンでマニアックな選曲もできますし、カラオケっぽい感じでミリオンヒットをバンバン、クイックにやるパターンもあるし、ラウンジっぽく抑え目のR&Bでやるパターンもできる。短冊CDという縛りのおかげで逆にいろんなパターンのDJができるようになりました。ダンス系も好きだし、バンド系も好きだし、芸人が出してるような企画ものも好きだったりするので。もし短冊CDという枠を取っ払ってDJをやるとなったら、(自分のDJスタイルが)何も定まらないし、上手い人は沢山いるからあんまりオファーもなかったでしょうね。短冊CDという形態に絞ったことで自分のカラーが出て、好きなようにできてる部分はあります」
Tnaka 「すごく聞きたかったんですけど、どういう基準でディグしているんですか?」
ディスク百合おん 「それはTnakaちゃんと同じだと思うけど、もとから知ってるのも買うし、前から気になってて試聴して欲しかったやつが出てきたら買うパターンもあれば、まったく見たことない謎の演歌ジャケだけど買う。逆に言うと、誰も知らない魅力的な音源を見つけ出せたという喜びがないと、一辺倒になって飽きちゃってると思うんです。もう8cmCDのDJを8年ぐらいやってるんですけど、まだ飽きずに続けられてるってのは、いまだに発見する喜びがあるからです」
――価格はどうですか。今や中古市場で短冊CDの評価が定まってきちゃって、高いものはめちゃめちゃ高くなってるじゃないですか。
Tnaka 「一応短冊買うときは(1枚の価格の上限を)1000円までと決めてます」
ディスク百合おん 「わかる。僕も1000円ぐらいと決めてますけど、欲しいものは最近特に高騰してたりもするので」
Tnaka 「この前、25000円のやつを見て、う〜ってなりました(ため息)」
ディスク百合おん 「でも、25000円でも自分の心が踊るかどうか」
Tnaka 「そうですよね。ほんとに欲しいものだったらいいかな……」
ディスク百合おん 「そうそう。だから、あまり値段って関係なくて。安くてもテンション上がらないものは上がらないし、高いものでもそれを超える喜びもあったりするかもしれないから。結局、自分の中のテンション上がるか上がらないか」
Tnaka 「それ大事です」
ディスク百合おん 「短い時間でもついワゴンを見に行っちゃうのは、多分自分の中でもテンションが上がる存在ってことだから」
ディグるTnaka
――Tnakaさんが短冊CDをディグする時のポイントってあるんですか。
Tnaka 「ジャケ買いです。最近は百合おんさんを含め8cmCDのイベントで(DJがブースの前に立てかける、プレイ中の曲のジャケットを見て)“このジャケ見たことある!”とチェックして買ったり。アンテナが敏感になってきました。ジャケの感じでこれはロックじゃないかなとか、そういうのもわかるようになってきて。フィーリングです。あと、パッケージが特殊なやつは買うようにしています」
ディスク百合おん 「基本はビビッと来たら買っておこうとなる。あとで後悔するより」
Tnaka 「そうなんですよ。一期一会。ハードオフで50円で買った短冊CDが、じつはレア盤だったりとか」
ディスク百合おん 「あれだね。太陽とシスコムーンで、DDIポケット(現:ソフトバンク)が販促用に作ったヴァージョンのCDがあって」
Tnaka 「めっちゃ覚えてます」
ディスク百合おん 「以前一緒に8cmCDのトーク・イベントした時に持ってきていて。Tnakaちゃんはその価値にそこまで気づいてなくて普通に紹介しようとしたから、俺が“これ、すごくいいよ!”って言って。あれはなかなか見つからないし、うらやましい」
Tnaka 「よくわからないけど面白そうだと買ってしまうんです」
ディスク百合おん 「そういう感覚はほかの人よりもある気がする」
Tnaka 「そうだ、これ自慢なんですけど聞いてくださいよ!(と言いながら、ゴーバンズの〈ロックンロール・サンタクロース〉のCDシングルを取り出す)。これ、普通の12cmのシングルCDだと思ったんです。染谷(淳一)さんのデザインで、可愛いと思って買ったら……これ、中は8cmCDだったんです。中を見るまで気づかなくて」
ディスク百合おん 「引き寄せたね。逆にこれだったら12cmでもいいんだけど、あえてこの形態でやって。これはしびれますね。
Tnaka 「テンション上がりました。それを伝えたかった(笑)」
ディスク百合おん 「そういう喜びがあるのがいいよね。元から欲しかったものを買うのとは違う。偶然買ったらめっちゃいい。誰かに教えたい」
Tnaka 「CD屋さんの袋を持ってる時、何を買ったのか聞いてほしくないですか?“これ買ったの!”って言いたい(笑)」
ディスク百合おん 「それをどうにかしてうまくDJに組み込んで聴かせたいってのがあるから。すぐかけちゃったりすると、あまり(お客さんのハートに)刺さらずに終わったりしてね(笑)。スタートにかけて、お客さんがポカーンってなる時があるから、上手にかけて伝えるのが大事ですよね、DJは」
Tnaka 「だから、買ったものをすぐ確認できるようにポータブルのCDプレイヤーを買いました」
――短冊CDが盛り上がっているといっても、聴く環境は大変なものがありますよね。
ディスク百合おん 「DJがやっぱり大変です。Y2Kブームもあったりしたので、聴く分には意外とポータブルCDプレイヤーがまだあったりするんです。ただCDJが……。今パイオニアから出ている最新のCDJ3000に関しては、もうCD入れる場所もなかったりするんです」
Tnaka 「え〜!そうなんですか」
ディスク百合おん 「自分は1997年に出たトップローディング型のCDJ-700Sを持ち込んでやったりしてます。あと、自分で修理したり。この前もボタンが効きづらくなったので、はんだごてであらためてはんだ付け直したりとかして。重いから持ち歩くのは大変だけど、だからってUSBに移行するのがよいかと言うと、自分のテンションが下がるという(笑)」
Tnaka 「わかります。所有してるのが大事じゃないですか」
ディスク百合おん 「現物をかけて見せたいし。ビジュアルやジャケを」
Tnaka 「こんなかっこいいやつだよって」
――それって、「俺はこんなレアなのを持ってるぜ」というコレクション自慢とは違いますよね。
ディスク百合おん 「こっちはどっちかというと、当時めちゃくちゃ売れてたやつを今所持してるやばさもあるかな。まっすぐなクレイジーさもあるのかなっていう気はしますね」
Tnaka 「確かに、売れたCDって買わなかったりしますよね」
ディスク百合おん 「そう。たとえば内田有紀の〈Only You〉もみんな聴いたことあるから、別に見せなくてもいいんだけど、でも当時のビジュアルやデザインがすごくよくて、可愛いとか懐かしい気持ちになるのが好きなので、やっぱり現物見せたくてやっちゃうところがありますね」
――あと、短冊CDの全盛期って音楽業界にまだお金が回ってた時代だったから、結構実験的な試みがされていたりしますよね。
ディスク百合おん 「よくこれ出したなみたいなのがありますよね。やっぱり配信だとそういう面白みが薄れちゃう。フィジカルでリリースしてる面白さがあります。短冊CDに限らずですが、CMソングだって別にCD用にフルサイズで作らなくてもいいのにフルで作ってたり、クレジット見たらすごい人が作ってたり。ステッカーとかのおまけも充実していたり」
Tnaka 「本当お金あったんだろうな(笑)。でもそれで言ったら、『Tnaka IN THE HOUSE』も特別なものを作りたい気持ちがあって。自分は音源を所有していたいタイプの人間なんですけど、世の中の人はそうじゃなくなってきてるじゃないですか。 そんな中で、デザイナーとしてそれでも持っていたくなるCDを作りたいと思って。CDをディグするようになって、いろんなアイディアのCDを見つけて。すごい自由じゃないですか。だから、予算内でどんな特別なことができるだろうというのをいろいろ考えたすえに、ケースにシールを貼って、レインボーの歌詞カードを段々状にしました」
レインボーの歌詞カード
ディスク百合おん 「これはすごい!それぞれカラーで虹になるようにして、本人のビジュアルイメージを歌詞カードで体現できていますね」
Tnaka 「今回は曲のBPMが全部同じで、そことの繋がりもあるんです」
ディスク百合おん 「ジャケットも内容も繋がっている」
Tnaka 「そう。歌詞カードに掲載されている写真のポーズもそれぞれ似てるけど、微妙に違うんです。一枚一枚(独立した作品として)成立もしてるんだけど、トータルでも一つの作品という感じにしたいと思って。でも、業者さんにこういうふうに特殊カットしてもらうのは大変ということだったので、自分で裁断機で一つずつ切りました(笑)」
――DIYなんですね。
Tnaka 「だから全部、若干違うんですよ」
――それはすごい。アルバムを作るに際し、曲のBPMを統一したのは理由があるのですか?
Tnaka 「ライヴでは以前から曲と曲の間を切らず、シームレスなDJミックスの感じでやっていたんですけど、それを突き進めたくて。それでアルバムを作り始めた時から、全部同じBPMでいこうって決めていたんです」
ディスク百合おん 「テンポ的にどのくらいですか?」
Tnaka 「138です」
ディスク百合おん 「130台が踊りやすいと言われていますよね。ビジュアル面もサウンド面も飽きずに聴けるようにできてるんですよね。思わず最後まで聴いてしまう。ライヴもそんな感じがしました。飽きない工夫があるというか、グルーヴをキープしつつ、夢中にさせて、フィナーレを迎える。そこがうまいなと思った。だからアルバムとしてフルで聴いてほしいCDですね。1曲ずつ分けて聴くのではなく」
Tnaka 「そうそう。CDは配信と若干違うんですよ。曲間が無いから、ミックスCDみたいに曲の頭に前の曲のうしろが一瞬残るようになっています。配信は1曲1曲切れているんですけど」
ディスク百合おん 「ノンストップで踊れることを見据えてCDを作っている!」
Tnaka 「だからCDでゲットしてほしいですね」
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――TnakaさんはCDというものを大切に考えていらっしゃるんですね。では最後に、今後の短冊8cmCDシーンに何か望むことはありますか?
ディスク百合おん 「さっき言ったように、DJが増えてほしいですね。一過性のものではなく、レコードとかカセットみたいにしっかり根付いてほしい気持ちがあるので、そのためにはやっぱり伝道師がいる。そこを踏まえるとCDJが新しく出てほしいというのがあります。中古で自分で修理しながら機材を賄うっていうのはハードル高いし、8cmCD用アダプターもちゃんと装着しないと会場のCDJを壊してしまうリスクがあるので。次はそれが実現するといいなというのはあります」
Tnaka 「私は短冊CDが初めて世に出された2月21日と、短冊CDの日の7月7日、毎年2回短冊CDをリリースしているんです。今は、普段仲良くしているようなアーティストさんたちと一緒に出そうよって言ってやってるんですけど、 自分たちも出したいというアーティストさんがたくさん出てきて、短冊CDがもっと身近になってくれたらいいですね。私たちにとっては懐かしいというよりも当たり前になりつつあるんです」
ディスク百合おん 「当たり前にしたいですね。一時的なブームじゃなくて」
Tnaka 「レコードが好きな人がいるのと同じように短冊CDが好きな人がいるというふうになったらいいですよね」
ディスク百合おん 「我々が楽しくやっていれば“短冊CD、いいな”ってなると思うから、努力というよりは我々が楽しみながら面白いことができていればいいのかなという気がします」
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取材・文/小暮秀夫