フレックス、アレックス、クレイグ・T、ベイ・Cという4人からなる
T.O.K.は、ヒット曲を量産し出した10年ほど前からジャマイカのダンスホール・シーンのフロントラインに立ち続けているグループ。R&Bから影響を受けたコーラス・ワーク、垢抜けたステージングはそれまでのジャマイカにはなかったものであり、彼らの登場がダンスホール・シーンの変化も促すことになった。そんな彼らが3作目となるアルバム
『アワ・ワールド』をリリース。今回ライヴを行なうために来日していた4人を直撃したのだが、ジャマイカ人らしからぬ(?)真摯で真面目な立ち振る舞いにびっくり。連日の取材攻勢の疲れも見せず、ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれました。
――まず、ニュー・アルバム『アワ・ワールド』の内容について教えていただきたいんですが。
ベイ・C「今回はとてもパーソナルで、T.O.K.のいろんな側面が詰まってるんだ。レゲエ、ダンスホールはもちろん、メント(ジャマイカ風のカリプソ)、R&B、ヒップホップ……僕らが普段聴くものを盛り込んだ感じだね」
――7インチ・シングルで表現できないものをアルバムに込めてる?
全員「そうだね」
アレックス「45(7インチ・シングルのことをジャマイカではこう呼ぶ)がダンスホールの現場でアピールするものだとすれば、アルバムはアーティストとしての自分たちを表現するものだと思ってるんだよ」
ベイ・C「アルバムを出すことで自分たちの歌を聴いてもらう機会も増えるからね。でも、量よりも質が重要。出せばいいってもんじゃないと思うし」
フレックス「自分たち自身をアナザー・レベルに持っていくものという意味でもアルバムは重要だと思ってるよ」
――あなたたちの魅力のひとつに独特なハーモニーがありますが、T.O.K.が出てくる前のジャマイカの音楽シーンにはなかったものですよね。どういうところからこのハーモニーは生まれてきたんでしょうか。
アレックス「子供の頃からの影響も大きいと思う。みんな聖歌隊で歌ってたし、そのほかにMTVで流れていたR&Bのグループ――
SHAIとか
ボーイズIIメン――にも影響を受けてるんだ」
――そのスタイルは結成当初から確立されてたんですか。
ベイ・C「T.O.K.が結成されたのが92年で、最初のシングルを出したのは96年なんだけど、その4年間の間にだいぶいろんなことを学んだよ。R&Bのエッセンスを盛り込みつつ、ジャマイカ人である自分たちのハードコアな部分も入れたいと思ってきたしね」
――ジャマイカ国外のマーケットに対してはどんな意識を持ってるんですか。
アレックス「もちろん意識してるよ。スタジオで曲を作ってる時も“この曲はあの国の人が喜ぶんじゃないか?”なんて考えることもあるし、ジャマイカだけにこだわってるわけじゃないんだ。たとえば(今回のアルバムに収録された)〈アフタヌーン・ポルノスター〉なんかは世界中の女の子が共感してくれると思うよ」
――日本だとT.O.K.を通してレゲエを知るリスナーも多いと思うんですよ。
ベイ・C「本当に光栄だね。誰かの人生に影響を与えることになるわけだから、表現者としては言葉にできないほどの喜びでもある」
フレックス「その意味では謙虚にいなきゃいけないとも思う。さらにいい影響を与えられるようにありたいと思うね」
――責任感を感じることもある?
ベイ・C「責任というよりも、自分たちの根本が変わらないことのほうが重要だと思う。オレらの根本にあるのは、みんなに楽しんでもらうこと。それと、自分に忠実であること。そこだね」
――日本の場合、T.O.K.を通じてジャマイカという国を知る人もいるんじゃないかと思うんですよ。
クレイグ・T「凄いことだよね(笑)」
アレックス「ジャマイカの観光局に感謝してもらわないとな(笑)。光栄なことだと思うよ。メディアで紹介されているジャマイカのイメージって治安の悪さのようなネガティヴなものかもしれないけど、オレらの音楽を通してジャマイカという国に興味を持ってもらったら嬉しいね」
――今のジャマイカのシーンについては、どう思います?
ベイ・C「ものすごくハードコアになってきていて、楽しい部分がなくなってきてるね。ハードコアすぎてラジオで流すことを禁止されるようにもなってきてるんだ」
フレックス「どんなサイクルになろうとオレたちは流されない自信があるんだけど、今回のアルバムは今のジャマイカに嫌気が差してる人にはもってこいのアルバムと言えるかもしれない。いろんな要素が入っていて、10年後も20年後も聴けるものだからね」
――最後に、アーティストとしての最終目標を聞かせてください。
フレックス「楽しくて最高の音楽でミュージック・ヒストリーに名前を残したいね。それと、目指しているのはグループ・ヴァージョンの……」
ベイ・C「レゲエにおけるボブ・マーリィのような存在に、ダンスホールというスタイルのなかでなりたいと思ってるんだ」
――僕は今回のアルバムでその階段をまた一段昇ったと思いますよ。
ベイ・C「リスペクト! 光栄だよ」
取材・文/大石 始(2009年6月)