孤独っていうのはデフォルトなんだなって。孤独を淋しく不安に思う時もあれば、それに気づかずに平和に暮らしてる時もあるっていう、それだけの違いじゃないかなって。
――ベスト・アルバムのお話を伺う前に、まずは2011年をざっくりと振り返っていただこうかと思うんですが、まず「Gift 〜あなたはマドンナ〜」は、土岐さんが近年突き詰めていた“80年代的なムード”の集大成とでも言える作品だったかと思います。
土岐麻子(以下同) 「そうですね。去年は
『乱反射ガール』というアルバムを出しましたけど、あのアルバムは、自分の原点であったり初期衝動みたいなものに立ち返って、それを作品に表してみようというものだったんですね。憧れ倒した時代感だとか受けた衝撃とかっていうものを現代のものとして発表したいっていう思いが強くあったアルバムなんですけど、そこをもっと深く探っていこうっていう矢先に<Gift 〜あなたはマドンナ〜>のお話をいただいたんです。ホントに偶然としか言い様のないお話で、EPOさんにはこちらからお願いしてとかじゃなくて、CM制作サイドの方も私がEPOさんのことをインタビューで語ってるっていうことも知らなかったようですし、制作の方たちがたまたま私を選んでくださって。ここ最近の私の思いが通じたのか、何か深い縁を感じましたね」
――そのあとで『TOKI ASAKO "LIGHT!" 〜CM & COVER SONGS〜』がリリースされますが、やはり3月11日以降は……。
「何も手につかなかったですね。いろんなものがキャンセルになったり延期したりして、延期のスケジュールが決まるにも時間がかかったり、いろいろ考えましたけど、それは次の仕事のためにっていうわけではなくて、もっと先の、それこそどうやって生きていけばいいんだろうとか、来年どうなってるんだろうとか、自分のことだけじゃなく、まわりの状況がどのようになっていくのかなって。だから、具体的な自分のスケジュールとか音楽性のことはなかなか考えられなくて。私って今まで人としてどういうふうに生きてきたのかなとか、何を大事に生きてきたのかなとか、2ヵ月ぐらいは結構悶々と考えてましたね。これからは自分が何をしたいかじゃなくて、何ができるのかっていうところ、音楽しかできないからこれしかできませんっていうキレイゴトではなくて、職種を変えたとしても自分が何をした時にしっくりくるかとか、何をした時に自分の満足が得られるのかとか、そういうことまで考えてましたね」
――そこからどういった流れで音楽へのモチベーションを高めていったんでしょう?
「十何年もやってきて、音楽をやることが当たり前のようになっていたんですけど、自分の要点みたいなもの、何が必要でこれをやっているかっていうことを考えて……その時に思ったのは、“街の中で生きる”っていうことだったんですね。街っていうのは比喩になるんですけど、街=コミュニティの中の一員としてみんなのエネルギーを感じながらモノを作り上げていくことに戻って、音楽もみんなで作り上げていって、土岐麻子の名義でやってはいるけれど、“これが土岐麻子のすべてです”って見せているっていうよりは、土岐麻子というプロジェクト・チームですよね。やっぱりマネージャーであってもレーベルの人であってもみんな対等に向かい合ってると思うので、私もその中の一人としているっていう感じ方。そういう考えがうっすらとミニ・アルバム(『sings the stories of 6 girls』)には反映されたかなって思いますね」
――今までさまざまな女性像を楽曲に映し込んできた土岐さんですけど、『sings the stories of 6 girls』に出てくる女性像はより生命力を感じさせてくれるんですよね。
「そうかも知れないですね。この作品を作るにあたっては、もうひとつ、“孤独って何だろう?”っていうことも考えたんですね。何かを失ったり傷ついてショックを受けた時って孤独を感じるじゃないですか。“孤独になってしまった、どうしよう?”って、失ったものを取り戻そうとするんですけど、なくなったものは帰ってこないから、他のもので埋めようとしたりして。それで、“孤独の反対語って何ですかね?”ってTwitterでつぶやいてみたんですけど、いろんな人がいろんな答えを返してくれたんです。“家族”っていう言う人もいたし、人それぞれ孤独観っていうのが違うんだなっていうのがおもしろかったし、そこで私が思ったのは、孤独っていうのはデフォルトなんだなって。孤独を淋しく不安に思う時もあれば、それに気づかずに平和に暮らしてる時もあるっていう、それだけの違いじゃないかなって。誰かと付き合ったりすることによって気持ちがひとつになったとしても、それはまやかしなんじゃないかとか(笑)。そういう考えをできるだけ薄く伸ばして作ったのが『sings the stories of 6 girls』ですね」
――制作にあたっての心持ちは若干ディープなところもありましたけど、作品としては非常にポップなものになりましたね。
「そうですね。深く考えてはいたけれども、そうやってTwitterでつぶやくようなことを歌詞にしても伝わらないし、そういう裏側はキラキラとした音楽のなかで徐々に気づいてもらえたらラッキーぐらいでしか思ってないんです。音楽にする時はやっぱり今までと変わらず、誰もが自分の心を映しやすい風景みたいなものを思い描きながら作ったんですけど、ただ、今までと違うのは、自分って何だろうとか、自分はどういうふうに生きていきたいんだろうって考えたこと。それによって歌の主人公の具体的な人物像っていうのが見えてきたんですよね。物語としてはすごくシンプルだったりわかりやすいものだったりするんですけど、今までよりも具体的になったと思います」
最近では何をやっても大丈夫というか、多少驚かれても自分の音楽観はブレないって思えるようになりました。
そろそろベスト・アルバム『BEST! 2004-2011』の話を……というところで、作品の内容を簡単にご紹介しておきたい。前歴である
Cymbalsが解散し、
『STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う〜』でソロ・デビューを果たしたのが2004年。CMソングやカヴァー、客演など含めて、気がつけば200曲以上にのぼるレパートリーのなかから、オリジナル曲を中心に22曲をセレクト、新録曲2曲をプラスしたのがこのアルバムである。ジャケットの似顔絵やブックレットのひょうきんなイラストは彼女自身が描いたものである。
――すごく挑戦的なジャケットだと思います。
「挑戦的ですよね(笑)。“ベストでこれ?”って感じですけど。照れ隠しもあるんですかね(笑)。ベスト、それもオールタイムだから、土岐麻子のイメージを要約したヴィジュアルにしないといけないような気がしたんですけど、それを徹底するにはいろいろとエネルギーや時間が必要で……」
――当初のイメージはどんなものだったんですか?
「最初に思いついたのは、十二単(笑)。収録曲が24曲の予定で、ディスク1に12曲、ディスク2に12曲っていう意味で十二単、一曲一曲が衣になってるっていう発想で(笑)。私がやってきた音楽って、時代感を飛び越えちゃってるじゃないですか。2004年から今までいろんなニュアンスのものを出してきて、最近では80'sぽいもの、その前は70'sっぽいものにもちょっと憧れてっていう。だから、いきなり平安時代まで飛んじゃう感じでもいいかなって(笑)。でも、それをやる時間があまりなくて、じゃあ何がいいかなって思った時に、適当に写真を撮ってジャケットにするっていうのもなんか違うような気がして。で、ふと思い出したのが、私がレコーディング中とかに楽譜とか歌詞カードの隅によく書いていた落書きだったんですね。何を書くっていうわけでもなく、気づくと出来上がってしまっていたような、それをマネージャーがおもしろがって持って帰って、何かのときに使えるかもねって保存してくれてたんです。それじゃあっていうことで、曲もベストだけどイラストもベストにしようと(笑)。落書きだけじゃなくて、大学でバンドをやってた時に書いたインビテーションカードの絵だったり、モバイルサイト用に書いたものだったりも全部集めてみました」
――でも、ジャケットの似顔絵は似てないですよね(笑)。実物のほうが美しいと思いますが。
「書き慣れてくると、だんだんデフォルメされてくんですよ。プロの漫画家さんの絵とかでも、最初は縦長なキャラクターも、15巻ぐらいからどんどん丸くなってくるじゃないですか(笑)」
――『ドラえもん』とかそうですね(笑)。
「そうそう。その現れだと思います(笑)」
――それはそうと、カヴァーなども含めてレパートリーが200曲を越えてたという。7年あまりの間で、いろんなミュージシャンと絡んできましたよね。
「今回振り返ってみて思ったのは、これだけの縁に恵まれたことに対しての感謝の気持ちですね。これだけたくさんの人と出会ったんだなって。知人からの縁もあるし、憧れから繋がった縁もあるし、これこそが宝だなって思いました」
――徐々に作品の世界が広がっていって……思いのほかドラマチックな7年、いや、もうすぐ8年ですね。
「たしかに7、8年の出来事じゃなかったような気がします。自分の曲をこんなに聴く機会ってほとんどなかったので、ちょっと恥ずかしいなって思うところもありますけど。たとえば、2005年の
『Debut』とかは、自分の中で力が入りすぎていたなって思うし、この曲はこの音でとか、このテンポでとか、絶対にこれはこうしたいっていうイメージがアレンジの領域までハッキリとあって。何か自分の中のイメージをアレンジャーさんやプレイヤーに実現してもらおうっていう考え方だったんですよね。そうしないと自分の音楽観がブレてしまうんじゃないかって思ってたんですよ。今思えば自信がなかったことの顕れだったと思うんですけど、そういうふうに聴いていくと、作品を重ねていくごとにどんどん自分が自由になっていってる気がして。いろんなこと……
『TALKIN'』でいえば、<青空のかけら>とか<COME ON A MY HOUSE>をカヴァーしたかと思えば、
toeと一緒にやってたりとか、サウンド的にはバラバラな方向性になったりしてたんですけど、それでも一枚のアルバムとして成り立っているし。外仕事をいろいろやらせてもらって、自分のいろんなヴァリエーションに気づいたっていうのも大きいんですけど、たくさんアルバムを作っていって、自分の限界というか、自分のブランドっていうのを自分で決めすぎずにどんどん広げていくことができたなって。最近では何をやっても大丈夫というか、多少驚かれても大丈夫、自分の音楽観はブレないって思えるようになりましたね」
――ベストには新録が2曲収録されていますが。
「新録を入れたのは、現在進行形ですよっていう意味を持たせたかったからなんですね。その2曲も、ベストに入れるから、今までやってきたことの総まとめみたいな曲にしようってことではなくて、単純に今興味のあることをやろうと思って作ったものなんですよね。どういう層に届けようかとか、そういう曲調のものを出して行かなきゃいけないだろうとか狙わずに、こういうのをやりたいなとかこの人と一緒に歌いたいなとか、そういうことを優先していくと、すごく自然な形で次に繋がるなってことをこの7年で気づいたし、その方向で作りました。秦(基博)くんと歌った<やわらかい気配>も、こういうフォーキーなものって私の曲で意外となかったし、
さかいゆうくんが作ってくれた<heartbeat>もそう。この曲は、とにかくバンドがおもしろかったんですよ。ハマ(・オカモト /
OKAMOTO’S)くんもベースで参加してくれたし、大好きな
坂田学さんがドラムで、田中義人くんがギターで、アレンジャーである
川口大輔くんがキーボードでっていう、そのメンバーで録った時に、すごくバンド感を感じたんですよね。それぞれが思うようなことをやってくれてて、義人くんも“絶対こういう感じがいいんだよ”っていうギターをこちらがディレクションせずともどんどん入れてくれて、これは絶対おもしろいことになるだろうなって黙って見てたら、曲の中に新しいニュアンスが吹き込まれて。みんな燃えてやってくれてのがバンドっぽいなって思いながら、ちょっと懐かしいなっていう気持ちになりましたね」
――さてはこのレコーディングで次のヴィジョンが見えてきたんじゃないかと、楽曲を聴いただけでも思えるような“イキイキとした感じ”が伝わってきますよ!
「そう、そうなんですよ。だから、次はいろいろとやりたいことがありつつも、そのうちのひとつがバンド感を大切にというか、決まったメンバーで全曲録音するとかっていうのをやってみたいですね。今までは“いろんなヴァリエーションの曲がありますね”って言われるような作品を出してきたので、次はギュッと。同じメンバーで、信頼できる人たちと何ができるのかっていう、『Debut』の時とは正反対に、答えを未知数にしておくやり方でやってみたいなっていう。あと、弾き語りもしてみたい。まだ練習中ですけど(笑)。なんかその、自分だけで成り立つ音楽っていうのもやってみたいし、そうですねえ……やってみたいことはいっぱいですね(微笑)」
取材・文/久保田泰平(2111年12月)
【ライヴ情報】
<TOKI ASAKO LIVE 'Gift 〜god bless you!〜'>●日時:12月23日(金・祝)
●会場:代官山UNIT
●時間:開場17:30 / 開演18:00
●料金: 税込5,000円(ドリンク別オールスタンディング) ※SOLD OUT
<Very BEST of LIVE! TOKI ASAKO ‐土岐麻子について知ることのすべて‐2012 BESTOKIMAX ベスト ! きっと、土岐麻子!グッとくるよね>●日時:2012年2月25日(土)
●会場:品川プリンスホテル ステラボール
●時間:開演17:15 / 開場18:00
●料金:税込5,800円(全席指定 / プレゼント付き / ドリンク別)
【オフィシャル・サイト】
http://www.tokiasako.com/