リリー・フランキーが中心になって2006年4月に結成されたTOKYO MOOD PUNKS。バンドの主宰イべント“ザンジバル・ナイト”を中心にマイペースな活動を展開してきた彼らが、ついに初音源となるシングル「ジェイミー」を発表した。力強いバンド・サウンドと真摯なメッセージが胸を衝く今作についてリリー・フランキーに話を訊いた。 ヴォーカル&ギターのリリー・フランキーを中心に、富澤タクa.k.a 遅刻(g/
グループ魂)、笹沼位吉(b/
SLY MONGOOSE)、松田“chabe”岳二(perc、key/
CUBISMO GRAFICO)、松下 敦(ds/
ZAZEN BOYS)という錚々たる顔ぶれが集う、噂のバンドTOKYO MOOD PUNKSが初音源となるシングル「ジェイミー」を発表した。タイトル曲の「ジェイミー」はシンプルかつ力強いバンド・サウンドを前面に押し出した、きわめて正攻法ともいえるミディアム・テンポのロック・チューン。スピーカーの向こう側にいる聴き手に向けて直接、歌いかけるようなリリー・フランキーの真っすぐな歌声も印象的だ。
「基本的にやってることは
リリメグ(※安めぐみと組んだアコースティック・デュオ)と似ていると思う。自分の“願い”や“憤り”を歌にするっていう。弾き語りじゃなくて、あえてバンドというスタイルをとったのは、可能性の広がりです。たとえば歌詞が持っているエグ味をコクに変えることができたり、バンドの音って、やっぱり、すごい力があるから」
誠実な筆致で綴られた「ジェイミー」のリリックは、心の病に苦しむ実在の知人に向けて書かれたもの。〈何かを強く愛して/逃げ出すな/お願いだ〉──そこには諧謔めいた表現はもちろん、ヒネりの利いた言い回しも、いっさい存在していない。
「こういう歌詞を持っていくと、メンバーがものすごく照れちゃうんだよね。でも大人だからこそ照れてる場合じゃないだろうと。いつまでも照れとお洒落に囲まれててどうするんだって。俺も若い頃は同じようなことを歌うにしても、もっといろんな装飾を歌詞に加えてたと思うけど、この歳になって、自分が伝えたいことをいかにそのままの形で相手に伝えられるかがパンクだと思うようになった。飾らずに内面をさらけだすことで、恥ずかしい思いもするし、そのぶん自分が受ける精神的なダメージも大きい。特に今は本当に絶望的な時代だから、“破壊”よりも“救い”の方がアナーキーな行為だと思うんだよね」
小学生同士の会話にも“KY”なんて言葉が頻出し、互いの距離を推し測り、本音と建前をきっちり使い分けることが、国民レベルで浸透してしまった昨今、“あるがままの自分をさらけだす”ということは、彼が語るように、ある意味、アナーキーな行為といえるのかもしれない。
「表現としては紙一重なんだけどね。その見極めを間違えると、説教くさかったり、気恥ずかしいだけのものになってしまうから」
ジャケなし、盤面剥き出しという、潔いまでに簡素な今作のパッケージも、“初回限定デジパック! 豪華ブックレット&DVD&フィギュア&トレカ&握手券&(以下、延々)付き”なんて過剰な仕様を施した作品が次々とリリースされる音楽業界の現状からみれば、とてつもなくアナーキーなものといえよう。
「いろんな人に聴いてほしいから、なるべく安い値段で出したいなと思って、レコード会社に“3曲入りで900円がいい”って言ったら、“その価格設定だとジャケットが刷れません”って答えが返ってきてね。だったら、印刷しなくていいよって(笑)」
実は4月16日というリリース・タイミングにも大きな理由があったのだという。
「五月病の時期が来る前に出したいなと思って。生きることに疲れ果ててしまったり、未来への希望をなくしてしまった、ひとりでも多くの人たちが、この曲を聴くことで、少しでも楽になってくれたら、バンドを組んでこうやってCDを出した意味があるよね」
取材・文/望月 哲(2008年4月)