アシックスジャパンが、働くすべての人を応援するショートドラマシリーズ『シゴトはもっと楽しめる』の第二弾作品を公開した。中村獅童、砂川脩弥、兒玉遥らが出演し、気鋭の映像作家、チェンコ塚越がメガホンを取ったドラマでは、とある建設現場を舞台にさまざまな人間模様が描かれる。このドラマの主題歌になったのが、2002年生まれのシンガー・ソングライター、友成空による「未来電話」。ドラマとぴったりリンクした主題歌が生まれた背景について、彼に話を聞いた。
友成 空
ショートドラマシリーズ「シゴトはもっと楽しめる」特設サイト
――全6話のショートドラマを拝見して、どのエピソードも終盤にかかる「未来電話」がすごくいい雰囲気を出しているなと思いました。
「ホントにすごくいいタイミングで曲がかかりますよね。あの瞬間が僕もめっちゃ好きです」
――今回アシックスジャパンとのタイアップになりますが、どのようなリクエストを受けて制作されたのでしょうか。
「企画の初期段階でオファーをいただいて、そのときは大まかなコンセプトと“建築業界で働く人たちの背中を押したい”というメッセージがあるとお聞きしました。ムービーのストーリーなどはまだなかったので、主題歌は比較的自由に作らせていただきました」
――「未来電話」というキーワードはどこから?
「じつはこの曲、もともとは自分のために作り始めたものだったんです。そうしたらちょうどアシックスさんからお声がけいただいて、この曲が合うんじゃないかと」
――そうだったんですね。この曲を作るきっかけがあったんですか。
「あるとき友達が話していたことがすごく印象に残っていて、僕の背中を押してくれたので、曲にしたいと思ったのがきっかけでした。その友達が言うには、人生にはいろんな選択や分かれ道があって、その選択の先に今の自分がいる。来た道を振り返ったとき、人はどうしても自分の選択があっていたと思いたくなるものだけど、その友達は“どの選択をしたって、きっといい未来が待っていたんだよ”と言うんです。たとえば、もしも僕が音楽の道を選ばずに、学者になっても、スポーツ選手になっても、いい未来が待っていたよと。そうやっていろんな選択肢の先にあるいい未来の想像を広げていけば、この先どんな選択肢があっても、ワクワクしながら選べるって言うんです。僕、それはすごくいい考え方だなと思って」
――確かに大人になると、自由に将来の夢を見るのは子どもの特権だと思いがちだけど、大人も子どもも、いい未来が待っている可能性は同じようにあるはずですよね。
「そうなんですよ、僕もそのことに気づいて感動しました。あともう一つ、その友達が言っていた印象深い話があります。それは、悩んでいた過去の自分に向けて、今の自分が“あのとき頑張ったね”とか“あのときこうやって悩んだおかげで今があるよ”と伝え続けていれば、いつか未来の自分も今の自分にそうやって言ってくれるんじゃないかというもので。それを聞いたときは不思議な話だなと思ったんですけど、どこかしっくりくる感覚もあり、曲作りの最中にふと思い出しました。それで、もし未来の自分の声が聞こえてくるとしたら、電話を通じてかなと」
――なるほど、それで「未来電話」に。
「そうなんです。電話というのはあくまでも比喩的な意味合いなんですけど」
――友成さんはアレンジも自身で手掛けられていますが、サウンドのイメージは歌と一緒に思いつくんですか?
「まず全体として青色のイメージがありました。僕の中で未来は青っぽいイメージなんです。最初にコードを刻むピアノのリフができて、それにメロディをつけて、歌詞を乗せて、いろんな楽器を追加してアレンジを固めていきました。シンセサイザーの音は1990年代の人が想像した未来的なイメージを意識しています」
――電話のベルが鳴ったり、リズムが秒針のように聞こえたり、音からいろんな光景が広がります。
「電話の音は2種類を使い分けました。黒電話のベル音は過去の自分が電話を取るシーン、ケータイの待ち受け音は未来の自分が電話をかけるシーンをイメージして、音から時代背景が伝わるようにしています」
――面白い。考えてみたら10年前と今を比べると、世の中で鳴っている音がぜんぜん違いますよね。
「いろんなものがどんどん変わっていきますよね。ちょっと話がずれちゃうんですけど、僕は小さい頃、エレベーターの開閉ボタンが大好きだったんです。“開”と“閉”の色が違っていて、押すと白熱電球みたいな光がついて。バスの降車ボタンをカチッと押すのも大好きで、“絶対僕が押す!”って言ってました」
――今のボタンは“押した感”があんまりないですよね。
「そうなんですよ、今はLEDのきれいなボタンに変わったところが多いけど、昔のボタンもよかったなって……なんか変なこだわりなんですけど(笑)」
――そういう変化に気付けるから、この曲が生まれたんでしょうね。
「そうかもしれないです。僕はまだ22年しか生きてないけど、それでも時代の変化は感じるし、ノスタルジーを覚えるようなことが日々の中にたくさんあるので」
――歌詞は連作小説のように展開していきますね。
「1番は過去の自分の目線、2番は未来の自分の目線で作りました。その後、ブリッジの部分はまた次元の違う、天からの目線みたいな感じで書いています。歌詞を書く時点ではまだムービーのプロットをいただいていなかったのですが、ドラマも目線を変えながらストーリーが展開するので、うまく合ってよかったなと思います」
――ショートドラマではいろんな人の立場から“働く”ことを描いていますが、友成さんは働くことについてどのようなお考えをお持ちですか。
「僕自身は音楽活動を始めて間もないですし、社会についてまだまだ分からないことだらけなんですけど…。僕の周りは今、進路を決める状況にいる友人がたくさんいて、就職活動の話をよく聞きます」
――みんな明るい未来を思い描けているでしょうか。
「そうですね……あくまで僕個人の感覚ではありますが、今の時代はネットでちょっと調べるといろんな情報が出てくるので、その難しさがあるかなと思います。自分の心の声を聞く前に、どんどん情報が押し寄せてくるから、先入観や固定観念を振り払うのも簡単じゃなくて」
――そうですよね、その部分は以前よりずっと難しくなっていると思います。この曲には、そういうリアルな不安も落とし込まれていますよね。
「そう思います。やっぱり同年代の話を現在進行形で聞いていることは大きく影響しています」
――ドラマの中で印象に残ったシーンはありますか。
「砂川脩弥さんが演じられた若手主任のエピソードが、特に好きです」
――若さゆえのやる気が空回りして、職人さんたちとぶつかっちゃうシーンは臨場感がありますよね。砂川さんのイキり方がすごくリアルで、見ていてヒヤヒヤしました(笑)。
「(笑)。あのシーンを見ると、どの仕事にも共通する部分があるんだなと思います。たとえば自分は楽曲を作りますが、制作に向かうときは、自分が始めなきゃ何も始まらない、物語を自分で始めるんだという自負があります。そういう気持ちで始めるんだけど、自分一人の力だけで完結することはなくて、楽曲を作ったあとは、楽器の演奏を入れてもらったり、映像を付けてもらったり、売り出してもらったりと、たくさんの方々の力をお借りしている。自分を含め、それぞれの現場にいる一人ひとりが大切なピースで、全員そろって初めて完成するんですよね。その意味で、中村獅童さん演じる上司が言う“おれたちはひとつのチームだ”という言葉にすごく共感して、ホントにそうだよなって思いました」
――歌詞には「×印の今日だって明日は○」というフレーズがありますが、友成さんも普段そういうことを考えますか?
「すごく考えます。何かを進めなきゃいけないのに、一日中やる気が出なくて何もせずに終わるとか、そういう日も多々あるんです。そういうときは心のカレンダーに×印をつけるような気持ちで眠るんですけど、また日が変わって一曲できたりすると、あのゴロゴロしただけの日も無駄じゃなかったんだろうなと思う。そんなふうに、過去につけた×が実は○だったことが未来に判明することもあると思う。そんな実体験もこの歌詞に含まれています」
――「未来電話」は日々頑張っている人の背中を押してくれる楽曲ですが、友成さんが日々の生活の中で背中を押されるようなきっかけや支えとなるものは何ですか?
「自分一人で抱えきれないようなことがあったり、落ち込むようなことがあったりすると、帰り道にあえてちょっと遠い駅まで行って、歩きながら家族に電話をかけます。その電話が普段から僕の支えになってくれていますね。それも“電話”だなって、今気付きましたけど」
――直接話すよりも電話の方が話しやすいんですか?
「そうですね、直接話すのはちょっとハードルが高いけど、電話だといろいろ言えそうだなって気分のときがあります。電話は声だけだから気楽というか、それくらいの距離感があったほうが言いやすいこともある気がします」
――電話だと話すことだけに集中できる部分はあるかもしれないですね。
「あと電話越しのコミュニケーションは、お互いの表情が見えないので、伝えたいことの7〜8割しか伝わらなくて、実はそれがいいところだと思います。自分の抱える黒い感情やモヤモヤを生身の人間同士で受け渡すんじゃなくて、電話を介すことでワンクッション挟んで伝えられるような気もして」
――友成さんにとって電話は一つのキーアイテムなんですね。
「きっとそうなんだと思います」
――これからのシーズン、新しい生活に向けて動き出す人も多いでしょうし、「未来電話」がみんなの日々に寄り添う曲になると思います。
「ぜひ多くの方に聴いてもらって、いろんな状況にいる方たちの背中を押せる楽曲になってくれたらと思っています」
取材・文/廿楽令子