【豊田裕子】 “和と洋の融合”をコンセプトに、ニュー・アルバム『CRYSTALIER』をリリース

豊田裕子   2012/04/03掲載
はてなブックマークに追加
 ピアニスト豊田裕子の音楽を聴くと、クラシック音楽の進化の足音が確実に聞こえてくる。前作『Chopin de Cristal(ショパン・ドゥ・クリスタル)』において、ショパンのピアノ作品をオーケストラとの協奏スタイルに編曲、演奏し、独自のクラシック・クロスオーヴァーを提示した彼女が、満を持してニュー・アルバム『CRYSTALIER(クリスタリア)』をリリースした。
 “和と洋の融合”をコンセプトに、国内外の多種多様なアーティストをゲストに迎え、西洋クラシックと日本の名曲群が、繊細に、ときに大胆に溶け合っていく。豊田自身が作曲した作品や、前作よりも実験性の高いものも多く収録されており、彼女の中にある確固とした音世界がさらに伝わり、広がっていくアルバムとなった。


――はじめに『CRYSTALIER』のコンセプトについてお聞かせください。
豊田裕子(以下、同) 「まずは、和と洋の融合ですね。これは、“祈り”という言葉が表現の姿を変えたものでもあります。太古の日本人は、音を神様に捧げていました。“調べ”という言葉がありますが、これによって人々は天と地、神と人、そして自然と人をつなげていたのです。そうした日本人のスピリットを、私が洋楽器であるピアノを通して伝えたいと思いました」
――前作の『Chopin de Cristal』でもそうでしたが、豊田さんは“自然”を重要なテーマとしていらっしゃいますね。
 「東京に住んでいると、自然を身近に感じることがどうしても難しくなります。でも、九州の霧島に行って、そこの水を見たときに衝撃を受けたのです。“この一滴の力って、本当にすごい”と思って、音についても同じようなものがあるのではないかと考えました。“一つの音で何が表現できるか”ということを探求していくうちに、自然との調和について深く考えるようになっていったのです」
――自作曲「Galaxy」と「Crystalier」について教えてください。
 「〈Galaxy〉は夜を意識した作品で、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のイメージをもとに書きました。物語の主人公にとって星空が身近なものになっていくように、聴いていただく方にとっても、星空をとても近い存在に感じていただけるような作品になっていると思います。一方、昼を意識した〈Crystalier〉の作曲当時は、祖母の亡くなった時期と重なっていたので、私の中に“祈り”や“癒し”を求める心境がありました。祈りにもいろいろありますが、ここでは“捧げる”という意味合いや、いなくなってしまった人への想いが強くなっています」
――実験的なサウンド世界が広がるアルバムですよね。音色にこだわる豊田さんですから、音色を作るにあたっては、さまざまな葛藤が出てきたのではないでしょうか?
 「もちろんありました。普通のクラシックとはまったく録音環境が違いますし、戸惑うこともたくさんありましたね。また、ミキシングによって作り出される音色になかなか満足できず、いつも“違う、こうじゃない”と言っていたりもしました(笑)。ミキシングやアレンジの方のセンスや、やりたいこと、プロデューサーの考えも含め、あらゆる意見がぶつかりながら、私のアイディアにプラスされていくことで、どんどん世界が広がっていきました」
――多様なアーティストとの共演も話題になることと思いますが、いかがでしたか?
 「コラボレーションさせていただいた皆さんからは、たくさんの影響を受けました。もともと大好きで、共演するのが夢だった大鼓の大倉正之助さんの神がかり的な音色は、〈月光と与作〉で出したかった“神秘”の表現にすごく力をくださいましたし、和太鼓のTAOさんのパフォーマンス性に満ちた力強いリズムは、命や火といった精神性の高い表現をさらに熱いものにしてくれました。ヴァイオリンのパヴェル・エレットさんの飛翔するような音色は、私の曲をさらに魅力的に輝かせてくれました」
――「月光と与作」「荒城の月とハンガリー舞曲」など、最初は各曲での組み合わせの仕方に驚きましたが、実際に聴いてみると、とても自然な仕上がりになっていますよね。
 「ありがとうございます。おもしろいとか、自然だねといった感想をいただけることがいちばん嬉しいです。“調和”を目指すにあたって、いかに自然につなげていくか、ということは、とても重視して作っています」
――どれもアイディアや工夫に満ちた作品ですが、豊田さん自身、とくに思い入れのある曲はありますか?
 「ミュージック・ビデオも撮った〈月光と与作〉と〈荒城の月とハンガリー舞曲〉、そして〈Galaxy〉ですね。これらは長く時間を費やしてきた作品ですし、“和と洋の融合”というコンセプトが結実した作品になっているので、とくに愛着があります。このアルバムを聴いていただく方々には、気持ちのいい“調和”を感じていただきたいですね。一所懸命に聴くというのではなく、よい香りをふっと吸い込んだ時のような感じで、自然と頑張らずに聴いていただきたいのです。なんとなく聴いているうちに、“気づいたら元気になっていた”というのが嬉しい。それをいちばんに考えて作っています」
取材・文:長井進之介(2012年3月)
■ニュー・アルバム発売記念インストア・イベント
6月3日(日) 15:00スタート
東京・ヤマハ銀座店1F ポータル
問:ヤマハ銀座店2F 楽譜CD売り場 [Tel]03-3572-3135
※詳細はキングレコードのサイトへ。
http://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t2382/
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015