長い間入手が困難になっていたトラヴェリング・ウィルベリーズのアルバム『VOL.1』と『VOL.3』。この2タイトルがリマスタリングされ、未発表曲などのボーナス・トラックを加えたうえに、ビデオ・クリップやドキュメンタリーを収めたDVDとの3枚組、その名も『トラヴェリング・ウィルベリーズ・コレクション』が7月25日に発売されます。今回は発売を記念し、トラヴェリング・ウィルベリーズをご紹介します。
トラヴェリング・ウィルベリーズはレフティ、ラッキー、ネルソン、オーティスのウィルベリー兄弟に、従兄弟のチャーリー・T・ジュニアが加わった5人組。しかし、契約上の関係で覆面バンドとしての活動ではあったものの、ジャケット写真を見てもわかるように、メンバーが誰かは一目瞭然。その正体はというと、
ロイ・オービソン(レフティ)、
ボブ・ディラン(ラッキー)、
ジョージ・ハリスン(ネルソン)、
ジェフ・リン(オーティス)、
トム・ペティ(チャーリー)という豪華メンバーでした。そんなウィルベリーズ結成までのいきさつは、こんな感じだったそうです。
ジョージが、ロイ・オービソンのアルバム
『ミステリー・ガール』のレコーディングに参加していたジェフ・リンに連絡したことからスタート。ジョージはジェフとロイと食事に行き、そこでジョージの新曲の話を聞いたロイも「協力したい」ということで参加することに。その後、ジョージがトム・ペティのセッション(アルバム
『フル・ムーン・フィーヴァー』)に参加した際、トムの家に置いていたギターを取りに行き、この話をするとトムも参加を申し出る。しかし、セッションのためのスタジオが見つからず、ボブ・ディランのスタジオを借りようと頼みに行く。そこでディランも参加することになった。
あまりにも出来すぎた話ではありますが、集まったこの5人は、1988年4月5日にレコーディングを行ないます。その際レコーディングされた曲が、後にトラヴェリング・ウィルベリーズの1stシングルとして発売され、大ヒットを記録することになる「ハンドル・ウィズ・ケア」。もともとはジョージのアルバム
『クラウド・ナイン』からのシングル・カット「ディス・イズ・ラヴ」のドイツ、英国向けの12インチ・シングルのB面用に予定されていたこの曲。曲を聴いたワーナーの社長は、「B面にするには曲が良すぎるので、もったいない。それならばこのメンバーでアルバムを作ったらどうか」と提案。「それじゃ、あと9曲作ってアルバムにしよう」。そう思い立ったことがきっかけとなり、アルバム制作へと繋がっていったのでした。
●
『VOL.1』 1988年10月発売(イギリスでは24日、アメリカでは18日、日本では11月28日に発売)。イギリスでは最高16位、日本では最高46位を記録。アメリカでは最高3位を記録する大ヒットとなり、89年度のグラミー賞では「Best Rock Performance By A Duo Or Group With Vocal」を受賞。アルバムからは「ハンドル・ウィズ・ケア」「エンド・オブ・ザ・ライン」がシングル・カットされました。ツアーの期待も高まっていたアルバム発売直後の12月6日、ロイ・オービソンが心臓発作のため他界(享年52)。スーパー・グループ・バンドでのツアーは幻と化してしまいました。
●
『VOL.3』 ロイ・オービソンが亡くなった後、
デル・シャノンを新メンバーに迎え、2枚目のアルバム制作をしようとするも、デル・シャノンが自殺。結果、『VOL.2』を永久欠番にして、残った4人でアルバムを制作。そして、1990年10月にアルバム『VOL.3』が発売(イギリスでは29日、アメリカでは20日、日本では11月10日)されました。アメリカでは最高11位、イギリスでは最高14位を記録。このアルバムからは「シーズ・マイ・ベイビー」(
ゲイリー・ムーアがゲスト参加。カップリングはデル・シャノンのカヴァー曲でアルバム未収録の「ランナウェイ」)と「ウィルベリーズ・ツイスト」がシングル・カットされました。ちなみにこのアルバムではメンバーの名前が、ブー(ボブ・ディラン)、スパイク(ジョージ・ハリスン)、クレイトン(ジェフ・リン)、マディ(トム・ペティ)に改名されています。
トラヴェリング・ウィルベリーズはこれらアルバムのほかに、1990年にルーマニアの孤児救済を目的とするチャリティ・アルバム
『ルーマニアン・エンジェル〜ノーバディズ・チャイルド』に参加。92年に発売されたジョージの来日公演を収めたアルバム
『ライヴ・イン・ジャパン』のプロデュースが、スパイク&ネルソン・ウィルベリー名義(ジョージが担当)でクレジットされています。また、この時期の各メンバーのアルバムには、ジョージとジェフが参加しているものが多いので、こちらもチェックしてみてはいかがでしょうか?
セカンド・アルバム発売後、自然消滅してしまったこのトラヴェリング・ウィルベリーズ。秋には、音楽関係の限定本の出版で有名なイギリスの
ジェネシス・パブリケーションズから、トラヴェリング・ウィルベリーズの限定本が発売されると発表されました。純粋な人の繋がりのみで集まったこの5人によるトラヴェリング・ウィルベリーズの世界を、今回発売された『コレクション』で味わってみてはいかがでしょうか?
■トラヴェリング・ウィルベリーズ関連DISC■●
ジョージ・ハリスン/クラウド・ナイン(1987年)
ジェフ・リン・プロデュース。
●
ロイ・オービソン/ミステリー・ガール(1989年)
「ユー・ゴット・イット」
(ロイ、ジェフ、トムの共作。ジェフ・リン・プロデュース。)
「ア・ラブ・ソー・ビューティフル」
(ロイ、ジェフの共作。ジェフ・リン・プロデュース。ジョージがアコースティック・ギターで参加)
「カリフォルニア・ブルー」
(ロイ、ジェフ、トムの共作。ジェフ・リン・プロデュース)
●
トム・ペティ/フル・ムーン・フィーバー(1989年)
ジェフ・リンとハートブレイカーズのマイク・キャンベル、トム・ペティの共同プロデュース
「フリー・フォーリン」
「アイ・ウォント・バック・ダウン」
「フェイス・イン・ザ・クラウド」
「ランニン・ダウン・ア・ドリーム」
「イヤー・ソー・バッド」
「ハート・オブ・イッツ・オウン」
「ゾンビ・ズー」
(以上7曲がトムとジェフの共作。「アイ・ウォント・バック・ダウン」には、ジョージがアコースティック・ギターとバック・ヴォーカルで参加。ビデオ・クリップにはジェフとジョージが出演)
●
デル・シャノン/ロック・オン(1991年発表)
※1989年から制作開始
「ウォーク・アウェイ」
(デル、ジェフ、トム共作。ジェフ・リン・プロデュース)
「フー・レフト・フー」「レッツ・ダンス」
(ジェフ・リン、マイク・キャンベル共同プロデュース)
「アー・ユー・ラヴィン・ミー・トゥー」「ロスト・イン・ア・メモリー」「アイ・ゴット・ユー」
(ジェフ・リン・プロデュース)
●
ジェフ・リン/アームチェア・シアター(1990年)
「エヴリ・リトル・シング」
(ジョージがアコースティック・ギターとバック・ヴォーカルで参加)
「リフト・ミー・アップ」
(ジョージがアコースティック・ギター、スライド・ギター、コーラスで参加)
「セフテンバー・ソング」「ストーミー・ウェザー」
(ジョージがアコースティック・ギターとスライド・ギターで参加)
●
ボブ・ディラン/アンダー・ザ・レッド・スカイ(1990年)
「アンダー・ザ・レッド・スカイ」
(ジョージがスライド・ギターで参加)