リヴァプールとウィガン出身の4人組ギター・バンド、ザ・トルバドールズ。彼らが作り上げたデビュー・アルバム
『ザ・トルバドールズ』は、甘くキラめくメロディとアコースティック・ギターを基調としたバンド・サウンドが存分に詰まった作品だ。
「アルバムは、何年経ってもリスナーに“今の旬”みたいな感覚で聴いてもらえる作品にしたかったんだ。それと、聴いてる人を旅に連れていくような思いにさせたくて、曲ごとに旅の過程が見える、そんなアルバムにしたくて。1曲目が〈ホエア・ザ・レイン・フォールズ〉でラストを〈ウィンドフォール〉で終えるって曲順は、最初から決めてた。〈ホエア・ザ・レイン・フォールズ〉はずっと歌い続けている曲だし、僕らの自己紹介に最適な曲だと思ってる」 (マーク・フリス/vo、g、p、hca)
みずみずしく爽快なトルバドールズの楽曲からは、ビートルズや
ホリーズ、
ラヴや
ブライアン・ウィルソン、
ペイル・ファウンテンズ〜
シャック、そして
ラーズ、
ストーン・ローゼスといったルーツが見て取れる。本作にも収録されている、彼らのイギリスでの1stシングル「ギミ・ラヴ」を名プロデューサー、ジョン・レッキーが手掛けたというのも思わず納得。もちろん、彼らはそうしたルーツを、ただなぞっているわけではない。ブリティッシュ・ポップ、ネオアコ、ソフト・サイケデリックというキーワードをきちんと昇華し、自分たちの音楽としてクリエイトしている。アルバムの隅々に、20代前半の彼らのフレッシュさがみなぎっているのだ。
「曲作りで一番大事にしてるのは、やっぱりメロディ。キャッチーで頭にずっと残るようなもので、それにヴァリエーションも多くなきゃダメだと思ってるよ。あと、自分がそのとき好きな音楽を素直に表現していきたいんだ。今は、アコースティック・ギターをメインに使ってるけど、ひとつのことをずっとやり続けたいとは思っていない。今はエレキも弾くし、そのうちタンバリンだけ叩いて歌っているかもね(笑)」 (マーク)
もうひとつ彼らのサウンドを印象づけるものとして挙げられるのは、見事なまでのコーラス・ワークだろう。
「自分たちが影響を受けたバンドがハーモニーを重視してるからね。ビートルズもラヴもそうだし。コーラスは、自分たちには大切なものだね」 (トニー・ファーガソン/b)
今のポップ・ミュージックはエレクトロニックなものが多いが、その中で彼らはいいメロディとシンプルなバンド・サウンドという、いわばトラディショナルなやり方で自分たちの道を踏み出した。音楽シーンの中での自分たちの立ち位置を、彼ら自身はどうとらえているのだろう。
「僕らは、世の中のトレンドや他のバンドが何をやろうと一切気にしないんだ。それにリヴァプールは、ラヴや
キャプテン・ビーフハートとか、グッドサウンドに影響されてる人が多い場所なんだよ。そこは、自分たちらしさとして残しておきたくてね」
(マーク) 「自分たちは、ラジオ向きでありながら良質な音楽を作るのに成功したんじゃないかと思ってるよ」
(エルモ・ニーノ/ds) さて、“SUMMER SONIC '08”出演に続き、先頃2度目の来日を果たした彼らだが、その間にギタリストのジョニーが脱退し、新たにルークが加入した。メンバー・チェンジについて、そしてこれからのトルバドールズの目標を、最後に訊いてみよう。
「ジョニーは、ガールフレンドが妊娠してもうじき子供が生まれる。結婚するし、これからの人生を選択しなきゃいけなかったんだよ。それで、リヴァプールで一番腕のいいギタリストのルークを入れたんだ。彼もソングライターなので、いずれ曲を持ってきてくれるかもね(と、ルークの方を見る)」 (マーク)
「(恐縮気味に)今のところ僕がトルバドールズにもたらしたのは、自分のギターを持ってきたことくらいだよ(笑)」 (ルーク・トムソン/g)
「そうだな(笑)。いやいや、彼が入ったことによって、バンドがよりタイトないいサウンドを鳴らすことができるようになったよ」 (エルモ)
「それは、僕らのライヴを観てくれた日本のファンなら分かってもらえたはずさ」 (トニー)
「あと将来の目標は、よりビッグになりたいし、結成のときから目指していた、普遍的な音楽を作り続けるバンドになりたいと思ってるよ」 (マーク)
取材・文/土屋恵介(2008年11月)