アコースティック楽器の“生音”が持つパワーにこだわり、勢いのある熱い演奏で聴き手の心身にエネルギーを注入する“チャージ系アンサンブル・ユニット”、
TSUKEMEN。ヴァイオリン2本にピアノというユニークな編成で、クラシックから映画音楽、アニメの主題曲、そして自作のオリジナル曲に至るまで、多種多様な楽曲を縦横無尽に弾きこなしていく彼らは、日本の音楽シーンおいて音大出身者によるクロスオーヴァー的なユニットが意外と少ないこともあって、今後の活躍が期待される注目の存在だ。
今回はメジャー・デビュー盤となる
『BASARA』のリリースを機に、それぞれの想いを語っていただいた。
――まず、ユニット結成の経緯について教えてください。
TAIRIKU(vn) 「僕とSUGURUは桐朋音大の同期で、1年生の頃から2人で演奏活動をしていたのですが、あるときコンサートの主催者から“ゲストを1人呼んでほしい”との要望があって、僕の高校の同級生だったKENTAに声をかけました。桐朋にもいいプレイヤーはたくさんいたのですが、あえて彼に頼んだのは、音楽へのアプローチが僕やSUGURUとは全然違っていたから。僕が情熱的に演奏に没入していくのに対して、KENTAはいい意味でクールで、客観的に演奏を見ていられる。そういう異なるタイプの人間が加わった方が、音楽的に面白くなるだろうなと考えたんです」
KENTA(vn) 「僕はそのとき初めてSUGURUと一緒に弾いたんですけど、すごくノリが合って楽しかった。TAIRIKUとの共演も高校以来だったので、久しぶりにやりあってる感じがたまらなかったですね」
SUGURU(p) 「そのコンサート1回限りのつもりだったのが、たまたま今の事務所の社長の目に止まり、“3人で音楽活動をしてみないか?”と言われて、ユニットを結成することになりました」
――ヴァイオリン2本にピアノという編成は珍しいですが、どんな点がこのユニットの強みだとお考えですか?
TAIRIKU 「低音域が薄くてアンバランスになりそうだと思われるかもしれませんが、そういうイメージを逆手に取っていきたいと思っています。ありきたりの響きにはならないので、そこが僕らの特徴の1つですね」
SUGURU 「伴奏していると、2人のヴァイオリンの演奏スタイルの違いがよくわかるんですが、TAIRIKUは太くて丸みがあって、ゴツッとした感じ。一方のKENTAは細いけれど、シャープでキレがいい。そういう個性のぶつかり合いも、楽しんでもらえると思います」
KENTA 「やっぱりエネルギッシュさが僕らの武器ですね。自分たちの録音を聴くと、ほかのアーティストと比べても“勢いじゃ、オレら負けねぇ!”って思いますから(笑)」
――今回のアルバムには、映画音楽やアニメの主題曲なども入っていますが、アニメはお好きですか?
KENTA 「アキバ系のレベルにまではいけませんけど、3人ともかなりのアニメ好きですね。『天空の城ラピュタ』の登場人物のマネをしてふざけたり、『ドラゴンボール』に出てくるコアなセリフを言い合って遊んだりしてますよ(笑)」
SUGURU 「ですから『創聖のアクエリオン』を取り上げることは、満場一致で速攻決まりました。ただ、大編成のために作られた曲を3人で表現するのは大変でしたね。編曲していただいた長生淳さんには“ガチでアレンジしてほしい”とお願いして、僕たちの方からもいろいろと要望を出した結果、今回のアルバムの中でもイチオシと言ってもいいくらいの素晴らしい出来となったので、皆さんにぜひ聴いていただきたいです」
――皆さんが作られたオリジナル曲もありますが、作曲は以前から手がけていたのですか?
KENTA 「自分たちで音楽を生み出せるアーティストに育ってほしいという事務所の社長の意向で、前作のCDで初めて取り組んで、これで2回目です」
SUGURU 「作曲をするようになってから、クラシックの作品を演奏する際にも、作曲家が楽譜に込めた意図に以前よりも意識が向くようになったりして、取り組み方も変わりましたね」
TAIRIKU 「自分を見つめ直すいい機会となっています。これからもいろいろなタイプの曲を書いてみたいです」
――レコーディングはいかがでしたか?
KENTA 「編曲の上がりの都合などで、レコーディング前に煮詰める時間が十分に取れなくて、スケジュール的にとてもタイトでした。録音しながら決めていくこともあって、演奏するたびに情報がアップデートされていく感じでした」
TAIRIKU 「テイクを重ねるごとにどんどんよくなるので、よけいに“もう1回弾かせてほしい”という気持ちが強くなって、時間をめいっぱい使って録音しました。録音は3日間連続だったんですが、3日目が終わった時には、もうヘロヘロでしたね」
SUGURU 「それに、3人同時で録っているので、1人がコケたらアウトなんですよ。“ああ、今、せっかくうまくいったのに……”なんてこともあったりして」
KENTA 「でも、ミスした人を責めたりはしないんです。ミスした人間がヘコんでると、残り2人が“大丈夫、大丈夫。もう1回いこう”“次はオレももっとうまく弾くから”みたいな感じで声をかける。そういう仲のよさが、この3人がうまくいっているポイントですね」
――最後に、今後の抱負を教えてください。
SUGURU 「TSUKEMENには、クラシックや映画音楽やジャズなど、いろいろな入り口がありますが、どこから入ってきてもジャンルの壁を感じることなく、あらゆる音楽をごちゃまぜ状態で自然に楽しんでもらえるようになりたいと思っています」
TAIRIKU 「自分たちのサウンドのカラーを明確に打ち出していきたいです。それと、僕らがやっているのはインストなので、世界中で聴いてもらえるようになりたいですね」
KENTA 「そのためにも、それぞれの個性をもっと伸ばしていきたいですね。“きれいにまとまっていて、うまい”というのではなく、お互いの個性をぶつけ合ってエキサイティングな音楽を作り出していきたい。そして1人でも多くの人に元気を与えて、みんなの心が豊かになれる“場所”に自分たちがなれたらいいなと思っています」
今回のアルバム『BASARA』には、メンバーが作曲したオリジナル曲が収録されています。ご自身の曲についてそれぞれ語っていただきました。
TAIRIKU「星唄」
「星のようにキラキラしたものをちりばめたイメージで、少しでも希望が伝えることができれば……という思いで作りました。僕は今のところ、まるまる1曲が思い浮かぶことはなくて、ふとした瞬間に断片が浮かんでくるのですが、この曲のサビの部分が浮かんできたのは、子供の頃に思い描いていた夢や、ディズニー映画を観ている際に湧いてくるような感情をイメージしていたとき。それがなんと風呂場の脱衣所だったんですよ(笑)。ちょうど服を脱いでいるときに“あっ!”みたいな感じで……。そのときはすぐに忘れてしまいましたが、しばらくして同じメロディが再び浮かんできたので、これを使うことにしました」
KENTA「虹色の翼」
「ヴァイオリンが旋律楽器のせいか、僕はメロディが最初に浮かぶんです。そのあとでコードを付けていく感じですね。何かからインスピレーションを受けて作曲することはなくて、メロディが浮かんでくるのは、ボーッとしているとき。お風呂に長く浸かるのが好きなんですけど、そういうときに思いつくことが多いですね。調子がいいと、1曲まるまるできてしまうこともあります。そうして浮かんできたメロディのなかから“続きが書きたいな”と思うものを選んで、完成させています。この曲のタイトルの“虹色”には、演奏するときに、3人で響きのいろいろな色彩感を出しながら、憧れや希望を表現したいという思いを込めました」
SUGURU「BASARA」「RAIN」
「前回のアルバムでは、ピアノがヴァイオリンを支えるような曲が多かったのですが、本当は3人が対等に絡み合うのがベストじゃないかと思い、アルバムのタイトル曲ともなった『BASARA』ではそういう方向を目指しました。僕は
菅野よう子さんの作品が大好きで、彼女の楽曲にインスパイアされている部分もありますね。『RAIN』はNHKのドキュメンタリー・ドラマ『少女たちの日記帳』のために作曲したもので、もともとはヴァイオリンが出てくる後半部分のみだったのですが、今回のCD収録に際して、前半のピアノ・ソロを加えました。この曲のヴァイオリン・パートを書いてくださった長生さんに“心から湧き出てくるものを大切にしたほうがいいよ”とのアドバイスをいただき、その言葉に従って、題材に対する自分の思いをそのまま形にした曲です」