“この男は一体何者なんだ!?” TUCKERのライヴを観るたびに、頭の中には“!”マークと“?”マークが浮かぶ。彼はエレクトーン奏者でありながら、激しいステージングで知られ、“ハードコア”なプレイを披露。超絶的なテクニックを持つターンテーブリストでもあり、ステージ上にてドラム、ベース、ギターを弾いてループさせ、一人で演奏することもあるし、時にはがらくたやおもちゃすら楽器にしてしまう。しかも、ヒップホップやドラムンベースのパーティに登場するだけでなく、活躍の場も国内外で、場所を選ばず神出鬼没。この男が通った後には常に驚きと謎が残される。そんな彼のルーツとは――
「最初に弾いた楽器はギターですね。高校時代は家で延々と
ジョニー・ウィンターのコピーをしていて、その後、うちの母ちゃんが実家にあったエレクトーンを弾いてるのを見て、面白いなと思ったんです。最初はふざけて弾いていたんですけど、エレクトーンの面白いレコードを見つけて聴くようになって、ハマっていったんですけど。すでにその世界のエキスパートがいる楽器をやっても芽が出ないだろうし、人があんまり弾いてない楽器を探していたこともあって、これはちょうどいいな、と。ターンテーブルは、そのへんの知識がまったくなかったんですけど、渋谷の中古レコード屋でバイト中に流していた(米国の今はなきターンテーブル集団)
Invisible Skratch Piklzのバトル・ビデオを観ているうちにすり込まれて……」
ステージ・ダイヴ、逆立ちなど“優雅な”エレクトーンを演奏する姿とはおよそ結びつかないアグレッシヴなプレイが収録された初DVD作品
『QUIET RIOT』を観れば、言葉と同様に放射状に放たれる彼の表現のベクトル一つ一つが徹底的に突き詰められ、その先で反転する。次から次へと語られる彼の世界は一見複雑に入り組んでいるようでいて、実は非常に明快。万人が“アクセス可能”なほどにポップかつユーモラスな表現へと昇華されていることが一目瞭然なのだ。
「ノイズとか、そういう音楽の世界も好きなんですけど、実験めいたことをそれこそ実験っぽくやると分かりづらくなるので。……たとえば、ギャル男が客席にいたとしても、盛り上げたいというか、実際にあったことなんですけど、ライヴを観たギャル男から“ヤバかったっす!”って言われて、こちらもヤバかったっていう(笑)。そんなふうに、最初から気に入ってくれるとは想像できないオーディエンスにも評価してもらえることはうれしいし、そういう間口は広くしたいな、と。ただ、お客さんに歩み寄りすぎてもおかしなことになるので、そのバランスを保つことが自分のテーマですね」
本作には代々木公園やソナー・フェスティバル、ロンドンのクラブやCSテレビのスタジオ・ライヴ、はたまた、ショート・ムービーにビデオ・クリップ、ガレージ・バンド、ジャッキー・アンド・ザ・セドリックスやマニー・マークに帯同した海外ツアーの模様などがぎゅっと凝縮。激しく弾き倒して、火すら点けてしまうエレクトーンの演奏を中心に、そのほかの楽器も使いつつ、イージーリスニングからダンス・ミュージック、ハードコア/ヘヴィメタルまでをカヴァーするジャンル不問の音楽性は、聴き手の心と身体を揺らし、観る者を狂喜させる。では“!”と“?”の中にある、TUCKER自身からのメッセージとは――
「大人が若者に“これはカッコイイでしょ”って差し出すものとは違うものを提示していきたいんです。みんな、既成の概念に縛られてるというか、枠にあてはめられちゃう世の中なんで、そんな風潮に対する怒りと、ただただ、好きなことをやり続けるっていうことを見せたいな、と。エレクトーンにしても、僕が最初見た時はカッコイイ楽器だとは思わなかったけど、やっていくなかで自分の一部として、強引にカッコイイものとして打ち出していったわけで。そういう事が面白かったりするし、そうやって自分らしさを出すことがいいことだとみんなにも理解して欲しいですね」
取材・文/小野田 雄(2007年4月)