70年代の英国ロック・シーンのなかで、天才肌でカリスマ性をもつ華麗なるキーボード&ヴァイオリン奏者として重要な役割を果たしてきた
エディ・ジョブソン。79年にスーパー・プログレッシヴ・ロック・バンド、
U.K.で今や伝説と化した来日をしているが、それ以来30年ぶりに5人組新プロジェクト、UKZを率いて来日公演を行なった。今年54歳の彼だが、自信に満ち色彩感に富んだ演奏を繰り広げたライヴを観、高い創作意欲や明晰なポリシーを放つインタビューの機会を得て、驚くほどに魅力的な人物であることをあらためて確認できた気がする。現在の彼はレーベル、グローブ・ミュージック・メディア・アーツを主宰しUKZのデビューEPを発表、また来日に合わせて、よりシャープで広がりのある音像を生むU.K.の3枚のアルバムの新リマスター盤を発表している。
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――新プロジェクト、UKZは、かつてのU.K.とは異なる、もっとスポンタニアスでダイナミックな感覚を打ち出した別のバンドと僕は思っていますが、貴方のUKZにかける思いのようなものを話していただけますか?
(エディ・ジョブソン/以下同) 「20年以上もアルバムは作っていなかったんだけれども、テレビ番組や映像の音楽などをずっと手掛けてきたので、テクノロジーのことに関してはかなり理解してきたつもりだよ。それで、今作るものは、70年代のプログレッシヴ・ロック的なものの再現ではなくて、今の時代にあったコンテンポラリーな音楽をやるっていうのがこのUKZの一番の目的なんだ。だから、キーボードにしても昔のハモンド・オルガンやピアノやシンセサイザーというよりも、サンプリングやディストーションなどといった現在のテクノロジーを駆使したインダストリアル風でハードなエッジを効かせたものを主軸に置いていて、新しいキーボードの在り方を求めているのがこのプロジェクトなんだ」
――4人のメンバーを選んだ理由と各人の魅力とは?
「おおむね素晴らしいプレイヤーのもとには素晴らしいプレイヤー同士が集まる傾向にあるので、まず自分の知っているベスト・プレイヤー、
テリー・ボジオや
アラン・ホールズワースのビデオを観て、そこから彼らが誰とやっているのか調べていったんだ。そこで最初に見つけたのがテリーと一緒にやっていたギターの
アレックス・マクヘイサックだった。その次に、今度はアレックスが誰と一緒にやっているのか調べていって見つけたのが、ドラムスの
マルコ・ミネマンで、素晴らしかったよ。ストリング・ギターの
トレイ・ガンに関しては、もちろん
キング・クリムゾンのメンバーであることは知っていたんだが、面識はなかったんだ。でも、
KTU(トレイ・ガンと
パット・マステロットのクリムゾン組がフィンランドのアコーディオン奏者、キンモ・ポーヨネンと組んだユニット)の演奏を観て、歳のわりにはコンテンポラリーなことに挑戦しているのが興味深く、声をかけたんだ。ギターとヴォーカルのアーロン・リッパートは以前から知り合いのボストンのバンドのメンバーだが、素晴らしいプレイヤーだよ。そういえば5人の国籍が違っていて、イギリスの僕のほかは、ドイツ、オーストリア、アメリカ、ベルギーとまさに国際的なバンドだね(笑)。それゆえ、結成して最初の9ヵ月間は、一度も会わずに各人がそれぞれの活動地にいて、メールだけのやりとりから個別の音源、映像、写真を作り、その後に僕のLAの家に初めて集まってすべて合成して製作したものなんだ。これって凄い今風の作り方だよね(笑)」
――先日のライヴで演奏したキング・クリムゾンの曲「太陽と戦慄パート2」は、予想した以上に素晴らしかったし、ご自身のものになっていると思いましたが。
「じつは昨年の9月、
ロバート・フリップ抜きのキング・クリムゾン・プロジェクトで一緒に〈レッド〉とか〈太陽と戦慄パート2〉とか〈エレファント・トーク〉などを演奏したんだ。70年代には『USA』でヴァイオリンやピアノを弾いたこともあるし。もともと、U.K.というバンドは、キング・クリムゾンの延長線上から派生したバンドで、77年にロバート・フリップ、
ジョン・ウェットン、
ビル・ブラッフォードそして僕の4人で当初はリーグ・オブ・ジェントルメンという名前で活動し始めたんだ。だが、すぐにフリップが抜けちゃって、代わりにアラン・ホールズワースが入り、それがU.K.になったというわけ。だから、キング・クリムゾンのメンバーだったと言っても間違いではないよね(笑)。フリップは、後で
リーグ・オブ・ジェントルメンというバンド名を使ったけどね」
――
カーヴド・エア、
ロキシー・ミュージック、フランク・ザッパ・バンド、そしてU.K.のメンバーとして70年代活動されてきましたが、今から振り返ってみて、当時の英国の音楽状況は貴方自身の眼にはどんな風に映っていますか?
「60年代後半から70年代後半あたりまでの英国は素晴らしい時代で、ビジネスの構造上、アーティストたちが斬新で革新的なことをやれる余地が与えられていたんだ。けれども70年代後半あたりからロックが巨大な産業になってしまうと、アーティストのそうした自由が奪われてしまい、型にはまったビジネスが闊歩し、金もうけが先行してしまうという状況に陥ってしまった。一つがヒットすると、同じようなものを増産する体制が支配し、斬新なものが生まれていく道が閉ざされていってしまうというふうにね。そして、それは今でも続いていると言えるよね。だから、本当にやりたいことをやるためには、音楽制作だけでなくデザインからマネージメントまですべて一切を自分自身の手でやるという方法を選択せざるを得ないと思うんだ。UKZの場合がまさにそれに当てはまるよ」
取材・文/石川真一(2009年6月)
取材協力/And Forest Music(
www.andforest.com)
All photos by Naoju Nakamura