「♪ 'Lincoln County' - The Kinks ♪ おばあちゃんになっても ずっと聴き続けてると思う」──とかなんとか。
バニラビーンズの外はね頭担当=リサ(りちゃこ)のTwitterアカウント(@cha_maru)をフォローしているみなさんの間では、新旧洋邦問わずあらゆる“ステキ”をキャッチする彼女の音楽的感度はすっかりおなじみかと思いますが、そんな彼女が愛してやまないグループのひとつが
ノーナ・リーヴス。ということで、今回の対談シリーズのトリは、かのバンドのフロントマンである
西寺郷太が登場!
堂島孝平とのデュオ=
Small Boysでアイドルの仲間入りも果たし(?)、いまやバニラビーンズとライバル関係になった(??)彼に独自のアイドル論/バニビ論も展開していただきつつ……というところで、さっそくドキドキの対談をお届けしましょう!
「(『バニラ・ビーンズIII』を聴いて)木の子さんの詞が飛び抜けて僕的にはグッと来る。特に〈チョコミントフレーバータイム〉は、この中ではダントツで好きです。音楽として素晴らしいなあって」(西寺)
──えー、そもそもどういう縁で、というところから話を始めましょうか。
郷太「もともと同じレーベル(徳間ジャパン)でね」
リサ「お知り合いになれたのは3年ぐらい前ですかね?」
郷太「そうそう、そのぐらい。もちろん、その前から存在は知ってたんですけど、僕としたら、いつ仕事を頼まれんのかな?っていう(笑)」
リサ「(笑)」
郷太「ライヴの楽屋とかではマネージャーさんやバニビのふたりから“いつかお願いします”っていう話にはなるんだけど、なかなか実際には話が来ないから、“ただの嘘ちゃうか”ってね(笑)」
リサ「すみませーん(笑)」
郷太「でも、こういう対談って、自分のなかでなんで自分が呼ばれたのか納得できない場合、断ることが多いんだけど、リサちゃんはノーナが好きだってTwitterでもよくつぶやいてくれるし、“今朝の1曲目〈Revolution〉”とかね、そりゃあ、こっちもちょっと嬉しいなと思って(笑)」
リサ「よかった〜。ありがとうございます! ノーナは、徳間のスタッフの方から“リサちゃん絶対好きだよ”って言われてCDをいただいたんですよ。聴いてみたら超衝撃で。そのときいただいたアルバムが
『GO』だったんですけど、“こんな音楽があるんだあ、もっと早く知ればよかったな”って」
郷太「もっと大きい声でお願い〜(笑)」
リサ「それからライヴも何度か観させていただいて」
郷太「最初に会ったの、文化放送だったよね。あるときラジオ出演が終わって帰り際に、徳間のスタッフが“下の階にバニラビーンズが収録で来てるんだけど、最近ノーナを聴いてハマってるみたいだから、できれば会いにいってあげてよ”って言うんで、こっちから挨拶しにいったんだけど、意外と普通の対応だった(笑)」
リサ「ずっと会いたかった人だったので、“会えるよ”って言われて超緊張してたんだと思います(笑)」
郷太「そっか、今誤解溶けたわー(笑)」
リサ「すいません、シャイなもので(笑)」
郷太「でもまあ……スタート地点でこんなこと言うのも変ですけどめちゃくちゃカワイイですよね、バニラビーンズのおふたりは」
リサ「ありがとうございます!」
郷太「当然っちゃ、当然だけど(笑)。そういえば、今日みたいに明るいなかで会うっていうのも珍しいよね?」
リサ「あっ、お昼にお会いするのは初めてですね」
郷太「だからもう、正直言えばいまけっこうドキドキしてる(笑)。そういう意味では好印象なんだけど、音楽的には……」
リサ「音楽的には!?」
郷太「オレね、すっごく変わった聴き方をするクセがついちゃってるというか、何もないとそれはそれなんだけど本人やスタッフの方から一度でも“いつかお願いします”って言われた瞬間から、作り手、プロデューサーとしてのスイッチが入っちゃうんです。そうなると、もう音楽として普通に聴けないんですよ。例えばプロ野球の監督経験者が、ゼネラル・マネージャーか誰かに“来年このチームの監督を頼みたいと思っています”って言われた状態でそのチームの試合を観にいってる感じで。すごく、細かいところに目が行っちゃうというか、“自分だったら、どうするかな”とかって考えながら聴いたり、見たりするモードにどうしてもなっちゃうっていうのが正直なところあるんですよ」
郷太「まず思ったのは、木の子さんの詞が飛び抜けて僕的にはグッと来るってことですね。特に〈チョコミントフレーバータイム〉は、この中ではダントツで好きです。音楽として素晴らしいなあって。シンプルに言えば、アイドル音楽をナメてないって言うか、全身全霊でバニビの世界を完成させているなって」
リサ「木の子さんは、前回の
『バニラビーンズII』を作る時に、どんな人に歌詞を書いて欲しい?ってスタッフに訊かれて、リサとレナがふたりとも“書いて欲しい!”って名前を挙げた人だったんですよ」
郷太「へぇー、それは絶妙だねー。やっぱり歌詞は重要っていうか、同じ人が書き続けてくれるっていうのはいいことですよ。あと、こういうバンド・サウンドでやるっていうのも珍しいですよね」
リサ「このアルバムが初めてだったんです、全編バンド・サウンドっていうのは」
郷太「あっ、そう。いまはDTM── デスクトップで完結させる音楽が多いし、それで素晴らしいものもあるんだけど。バニビが次にどういう方向へ向かっていくのかさておいて、今回のようなバン ド・サウンドは他の多くのグループとの大きな差別化だし、売りだと思うよ。で、こういうことも、周りのみんなが応援してくれるからこそできることだと思うから、それも人徳というか、バニ徳?(笑)の表れだと思うなあ」
リサ「今度、このメンバーでライヴもやるでんすよ。“どうなるんだろう?”って楽しみなんですけど」
郷太「難しいだろうけど、やるっていうことはすごいことだと思うよ。とはいえ、聴くファンのなかには(バンドでも打ち込みでも)大して関係ないって思ってる人もいるんかも知れないけどね(笑)」
リサ「えーっ!」
郷太「作る側の意見としては、大変さはわかるし、珍しいよねって思うけど、聴く側からしたら“化学調味料の入ってないラーメンを作りました!”って宣言しているみたいなもので、むしろアイドル音楽は“どうせラーメン食べるならガツンと”的な、衝撃を大切にする部分もあるからガンガン化学調味料が入ってるほうが美味いって思う人もいる。今風のビシッとした打ち込みサウンドがしっくりくるっていう人からすれば、そこは別に……なのかもって。それがアルバムを通して聴いて感じた本音かな。とは言え、これはふたりにとっていいチャレンジだっただろうし、今後、生と打ち込みがもっとミックスされたアルバムが生まれていけば選択肢が増えるというか……そう、このアルバムを聴いたとき、最初から最後まで割と似てる音像だなって思ったんだよね。でもまあ、それも狙いだろうし、もともとリサちゃんが
ビートルズとか
キンクスとか好きだっていうことに繋がってるから、生バンドでやるっていうのも必然性があるし」
リサ「なるほど〜」
──プロデューサーらしい視点での意見です。
郷太「やっぱり僕の場合、アイドルをオーディエンス目線で楽しんで恍惚に浸るみたいなのは、プロになってからできなくなってるんですよね。たとえば現状のアイドル音楽再評価ブームの先駆けとも言える(
RHYMESTERの)
宇多丸さんはラッパーということもあり、切り口、視点というところから対象に接近してゆく方法な気がするんです。もちろん、宇多丸さんは自分の手で“最高のアイドル音楽”を作ろうと思えば作れる人なんだろうけど、やっぱりデザート感覚とでもいうか、自分が作ってるヒップホップと表面的には遠いところにあるからこそ楽しめてるってところがあるんじゃないかな、とかって想像するんですよ。自分の場合だと、やっぱりポップ・ミュージックのど真ん中にいたい、と思いながら十代からもがいてきた経緯があるんで、どうしても作詞作曲家・プロデューサー目線になってしまう。これは悲しい呪縛なんです(笑)。とはいえ、これだけたくさんアイドルがいるなかで、個々のキャラクター設定にしても、キャッチーさだとか、バニラビーンズはそこがよくできてるし凄いなあって」
リサ「嬉しいです!」
郷太「あとはやっぱり、ふたりとも音楽が好きなことが伝わってくる。それこそリサちゃんはビートルズとかも好きだっていうし、そういう奥行きっていうのかな……ノーナ・リーヴスとか、
掟ポルシェさんとか、
杉作J太郎さんとか、そういう人たちのおもしろさもわかってくれるアイドルだし(笑)。ところで今回のアルバムは、ふたりから“こういう曲がイイ”とか注文を出したりしたの? それともバニラビーンズにって集められた曲を録ったっていう感じ?」
リサ「基本的には集まった曲がこれだよって言われて録ったものなんですけど、今まで歌い方とかも無機質な感じというか、あまり感情も込めずにっていうのが基本的なコンセプトではあったんですけど、今回はどう歌いたいとかっていうことも自分たちで考えながら歌ったのが大きく違うところですかね」
郷太「お互いでディレクションするの?」
リサ「最終的なジャッジはディレクターさんですけどね。でも、私たちがイイと思ってたものでだいたい決まりますね」
郷太「なるほど」
リサ「だから楽しかったです。1回録ったけど、そのあと聴いたらビミョーだったところとか違う日に歌い直しさせてもらったり、今までそういうことまったくやったことがなかったから」
郷太「今までは、タッタッタッと済ませるみたいな」
リサ「そう、1曲録ったら、できた〜って感じで」
郷太「“III”っていうぐらいだからアルバムは3枚目だよね?」
リサ「そうですね。3枚の間にミニ・アルバムとかベストとかもあって。とくに今年はいっぱい出しました。シングル3枚とDVD1枚とアルバムっていう」
郷太「イイことやんかー」
リサ「そうですね。郷太さんは、私たちがやってるカヴァーとかってどう思います?」
郷太「なんか、今までいっぱいやってない?」
郷太「だいたい、『バニラビーンズII』とか『バニラビーンズIII』とかっていうタイトルもツェッペリンっぽいよね(笑)」
リサ「ツェッペリンは数字が付くタイトルは“III”まででしたよね」
郷太「そうだね(笑)。ツェッペリンの4枚目は読めないシンボルマークみたいなのがタイトルなので、都合“IV”って言われてるけど。まあ、そういうロックのイディオムというか、ネタみたいなのが入ってるっていうのも、バニラビーンズのおもしろいところだよね。〈キラーキュイーン〉とか」
「私、ベースをやってみたくって。全然触ったこともないんですけど。ベースがカッコいい曲って好きなんですよ。ギュインギュィン言ってるようなやつ」(リサ)
郷太「バニラビーンズになる前のリサちゃんはどういう暮らしをしてたの?」
リサ「バニラビーンズになったときは大学1年だったんですけど、普通の大学生でした」
郷太「レナちゃんのほうは昔っからアイドルになりたかったんだよね?」
リサ「そう。でも、私は全然。ファッションが好きだったのでモデルになりたいなあとは思ってたんですけど」
郷太「道とか歩いててスカウトとかされなかった?」
リサ「されました。でもまだタイミングじゃないかなあ……って思ってたときに、モデルになれるよって言われて今の事務所に誘われて入ったらバニラビーンズにさせられたんです(笑)。社長に騙されました(笑)」
郷太「騙された〜、て(笑)」
リサ「“アイドルにならない?”って誘ったら抵抗あって断られると思ったのか、私がモデルやりたいんですよって言ったら、 うちもモデルみたいなものだからって言われて、だったらいいかなって思って。それで、普通だったら雑誌の編集部に挨拶行ったりするじゃないですか。なのに、最初のスケジュールが全部ボイトレとダンス・レッスンだったんです。あれ? おかしいなって。それで気づいたらCD出すってことになって」
郷太「おもろいわー(笑)」
リサ「でも、今の事務所に誘われずにそのまま人生を歩んでたら音楽をやってなかったし、騙されて良かったなって思いました(笑)」
──中学とか高校の頃にバンドやろうとかっていうことはなかったんですか?
リサ「なかったですねえ、全然。ピアノは習わされてましたけど。行くのがすごくイヤで」
郷太「どのくらいやってたの?」
リサ「3歳から18歳ぐらいまで」
郷太「結構やってるやん」
リサ「でも、行くのが本当にイヤで、行く前にリアルにおなかが痛くなるみたいな(笑)」
郷太「それこそ、今度バニビ・バンドでライヴやるときにピアノやったらいいじゃん」
リサ「でも、譜面があれば弾けるぐらいのものなので」
郷太「いいんじゃない。オレ思ったけど、ここまでバンド・サウンドでやってるんだったら自分でも楽器やればいいのにって」
リサ「やってますよ、楽器! 新しいアルバムで」
郷太「あれでしょ、そんなデッカい声で言うけどリコーダーでしょ(笑)。ま、それもいいけど(笑)、そうじゃなくって、ピアノとかキーボードとか。レナちゃんはレナちゃんでギター弾くとかね」
リサ「私、ベースをやってみたくって。全然触ったこともないんですけど」
郷太「似合うんじゃない? 背も高いし」
リサ「そうですか! 私、ベースがカッコいい曲って好きなんですよ。ギュインギュィン言ってるようなやつ」
──見てみたいです!
Small Boys
郷太「ふたりといえば、オレもここ最近、堂島孝平とSmall Boysっていう、ほんと申し訳ないほどワケのわからないアイドル活動やってるんだけど(笑)、ノーナは3人だけど、例えば3人以上とふたりは決定的に違うよね。というか……大人数の女の子グループがあふれる現状のアイドル・ブームからしたら、2人組ってオイシイよね。めっちゃ個々が目立つやん」
リサ「写真ひとつにしても目立ちますよね」
郷太「でしょ。5人とかでドーンとこられると、いまひとつ個々がわからなかったりするけど、バニビは髪型とかでもキャラつけてるし。ともかく、“わかる”っていうのは素晴らしいことだと思う。あとはまあ、ふたりだと簡単にライバル関係になるから。たとえばSmall Boysだと作詞作曲の数とか割と均等になってるんだけど、自分が途中まで作った曲を堂島に渡して続きを作ってもらったり、その逆があったり。あとは、ダンスをしても3人以上だと誰かひとりが間違えると多数決でそいつが間違ったってことになるけど、ふたりだとどっちも正しいっていうかさ、そういう難しさがあるのかな?」
リサ「息を合わせるのとか」
郷太「そうそう。二人組っていうのはそういうかけひきみたいなのが常にあるからおもしろいなあって。ヘンな話、アーティスト写真撮るまでにジムに通って1kg痩 せようとかね(笑)。ふたりは特にどうかなって。人数がいればボヤけるけど。なんか、ふたりでパッと立ってみたら、俺たちでも堂島って意外とガタイいいな とか、意外とオレ顔小さいなとか、つか、改めて目細いなとか(笑)、おんなじ衣装を着て立ってたりすると余計に差がわかるから、張り合いが出るというか……。Small Boysですらよ(笑)」
リサ「(笑)。バニビはあまり張り合うようなことはないんですよ。写真撮って、バランスよくいい感じに揃ってればOKかなっていうぐらいで」
郷太「ものすごくSmall Boys目線で訊くけど(笑)、ビデオとか録ってるときって、モニターとか観ながら、“今のところレナがちょっと早いね”とかっていうやりとりして録り直しとかすることあるの?」
リサ「やりますやります」
郷太「練習のときはやっぱり鏡の前で踊ったりする?」
リサ「しますよ」
郷太「アハハハハ、そりゃそうだよね(笑)。いやもう、こうなると完璧にこっちが後輩だから。ド後輩。いやもう、根本的に振り付けとか覚えられるのすごいよね」
リサ「いやあ。でも、私達の場合、ダンスというよりもポーズだし」
郷太「それもスタイルいいから、キマるんだろうしね」
リサ「Small Boysは踊るんですか?」
郷太「それがねえ、踊ってて(笑)。って言っても、アルバムのトレーラーを作るときに踊ったんだけど、全部の曲をダイジェストで繋いでるから、部分部分だけ覚えて、いっぺんにはやってないんですよ。でも、たぶんそのビデオが好評になると思うので、1曲丸々覚えなきゃいけなくなる(笑)」
「人と違うことをやってたからこそファンがついたり、長くやることによってそこがよりわかるようになってきたりとか、バニビのいる場所の特殊さみたいなのもどんどん理解されてると思う」(西寺)
郷太「リサちゃんが今好きなアイドルっていうのは誰になるの? やっぱり交流のある
東京女子流とかはいいなって思う?」
リサ「女子流ちゃんたちは親戚みたいなものですね。すっごく純粋でホント良い子たちなんですよ。自分たちが彼女たちぐらいの歳だった頃とは全然違いますね(笑)。すっごく純粋で、素直で、悪いこと何も知らないみたいな(笑)。会うといつも“レナさーん、リサさーん”みたいな感じで。だから妹みたいな感じです。あの子たちが何食べたい何欲しいって言ったら全部買ってあげたくなっちゃう(笑)」
郷太「一度、〈やついフェス〉で(女子流とバニビが)共演したのを観させてもらったけど、バニビはすごくお姉さんって感じだったよね。
光GENJIみたいだった(笑)。バニビが大沢&内海的な(笑)」
リサ「他にも仲の良いアイドルで可愛いコはいっぱいいるんですけど、女子流ちゃんたちはまた別ですね。きっかけはレナがすっごく応援してて……」
郷太「レナちゃんはアイドルでありながらアイドルマニアなんだよね。アイドル・オーディションとか受けて落ちたりしてるんだよね?」
郷太「でも、良かったよね。こうやってふたりでやってて目立ってるから。今ってさあ、いろんなアイドルたちが出揃った感じだし、自分も女子アイドルのプロデュースで声がかかることが増えてきてコマのひとつになってるという点ではちょっとドキドキする状況になってきたなって思ってるんだけど、バニラビーンズもそのなかのひとつとして、アイドル戦国時代のなかでは東北の伊達政宗ぐらいのところはいってると思うんだよね(笑)」
リサ「えーっ(笑)」
郷太「いやいや適当だけど(笑)。戦国武将に例えると、京都のそばにいないからいいというか……。その結果はいろいろあるけれど、人と違うことをやってたからこそファンがついたり、長くやることによってそこがよりわかるようになってきたりとか、バニビのいる場所の特殊さみたいなのもどんどん理解されてると思う」
──ホント、バニラビーンズの5年間は、試行錯誤や挑戦の連続でしたからね。
リサ「みんながおもしろそうだね楽しいねっていうものを発信したいねっていうのがバニビのチームのなかにはあると思います。私たち自身もそうなんですけど、 他と同じことをやってもなあって。変わらない良さもあるし、そこも大事なんですけど、やっぱ挑戦していくことのほうが進歩に繋がるんじゃないかなって」
郷太「まあ、いつオレのところに話が来るのかって言いましたけど、自分が本当に思ってるのはそういうことじゃなくて、誰でもいいから固定して歌詞を書く人がいると、もっとストーリーが見えてくるかなって、バニビに対しては思いますね。最初の木の子さんの話に戻るけど、そういう優れた作詞家の一本の線は大切かな、と。僕は作曲家でもあるし、むしろ昔は“自分は作曲家だ、メロディ・メイカーだ”って思ってたから、詞は誰かに書いてもらえばいいって思ってたけど、ちょっと変わってきてるんだよね。自分が体で覚えてきた理屈として、最近は“作曲っていうのは指環みたいなもの”だと思ってるんですよ」
リサ「指環ですか?」
郷太「うん。たとえば、女の子が恋人であり、好きな人から“結婚しよう”と言って指環を貰うとして、屋台で売ってるような1,000円ぐらいの指環とかはさすがにイヤじゃないですか。いくらなんでもそれはちょっとって思うんじゃないかな? でも、うーん、10万円以上ぐらいの指環だと、誰にどんな想いで貰ったかっていうのがすごく大事になってくるのかなと。もしも好きな人からだったら、別に1000万円や1億円の指環じゃなくても、10万円のでも嬉しいんじゃないかなって。それが曲の良さみたいなものかと。もちろん、あまりにもしょぼい曲はあれだけど、ある程度のものだったら一応コミュニケーションは成り立つ、という意味でね」
リサ「はい。わかります」
郷太「これはあくまでも究極のたとえであって、もちろん作曲家としてはそれくらいでいいって妥協するわけじゃないですけれどね。で、結論としては結局はシンプルですけど“作詞にかかってる”ということが言いたいんです。じゃ、さっきの話の続きをすると作曲が“指環”だとすれば、作詞って何かというと“パッケージ、包み紙”だと思うんですよね
リサ「なるほど」
郷太「“指環”が、ちゃんとした美しい台座に入ってるとか、水色のティファニーの包装紙にラッピングされているとか……それって、渡されたときに中身がどうこうっていうより、何か大事なものが入ってるっていうことが伝わりやすいメッセージになる。たとえ1億円の指環でも、ほいっ!てぐちゃぐちゃのコンビニの袋に入れて渡されたら、すっげえイヤだと思うのね(笑)」
リサ「中身の価値も疑っちゃいますよね」
郷太「でしょ。でまあ、歌う人っていうのが指環を渡す人に喩えられるんだよね。恋人。歌い方は渡し方。誰が、どういう風に。もちろんそれが一番大事だし、アイドルは相手に届けるプロフェッショナル。そういうものだと思ってるんですよ。だから、曲ばかりにヘンにこだわって詞の良さにこだわらないのは、せっかく好きな人が、素敵な指環をプレゼントしてくれるのにもったいないんです。曲のレベルをある程度揃えるのはあたりまえ。結局、パッケージを少し見ただけで、 水色だったら、“あ! ティファニーだ”とか、“ルイ・ヴィトンのマークが入ってる!”とか、そういう言葉の美学、ブランド力っていうのが、作詞家でいうところの秋元康さんであり松本隆さんの強みだったのかなと最近思うんだよね。で、指環を作る人よりも、パッケージが上手な人の方が圧倒的に少ない、そんな気がしてます」
リサ「なんか、こうやって改めて郷太さんとお話することがなかったので、すごく勉強になることばかりですね。バニビのことをそうやって話してもらえるのはすごく嬉しいです」
郷太「いやいやいや、俺の言ってることはおでん屋の“うんちくオジサン”みたいなもんだから(笑)。せっかく呼んでもらえたし……。アイドルとしては後輩だけど(笑)、音楽家としては先輩なので。でもまあ、そういうことを考えるのが好きなんだよね。“どういうふうにやればうまくいくかな?”とか、特に自分のことを好きでいてくれる人だったり、教えてって言ってくれる人には、一緒になって考えるのが好きな質だから、ちょっと説教臭くなったけど、そういうめんどくさい人間で、今ちょっと毎度のごとく喋り過ぎに後悔してます(笑)」
──音楽に愛がある人が寄ってくるんですよね、バニラビーンズには!
リサ「そうなんですね。もっと頑張らなきゃ!」
取材・文/久保田泰平(2012年11月)
撮影/SUSIE