アイルランドはダブリン出身のコナー・J・オブライアン率いる
ヴィレジャーズ(Villagers)は、もしかするとアイルランドのロック・バンドの歴史を変える存在になるかもしれない。と、2ndアルバム
『アウェイランド({Awayland})』を聴いて実感している。内在するジレンマや憤りを、ストレートにぶつけず、フォーキーな作風のメロディやネイキッドな歌にこめることに成功したこの作品から感じ取れるのは、コナーという中心人物が極めてパーソナルな本音をエモーションにしているということだ。国を背負おうとはせずに、あくまで個人の本音を音に練り込む作業。そこにこのバンドの根っこがあり、強さがある。
取材現場に到着して『CDジャーナル』本誌2月号を差し出すと、「あ、もしかして、これがスキンヘッドになった女の子のいるアイドル・グループ?」と、表紙の
モーニング娘。の写真を指差したコナー。いや、あれはまた別のグループで……と説明するや、堰を切ったように話し始めた。というわけで、初来日を実現させたヴィレジャーズのコナーのインタビューをお届けしよう。テーマは“アイリッシュであることの必然とエモーション”。
(C)Rich Gilligan
――日本のアイドルに詳しいのですか?
コナー・J・オブライアン(vo、g)「いやいや。でもあの一件はイギリスでも大きな話題になったんだ。ボーイフレンドの存在がバレて……なんだよね? まったくクレイジーなことだよね。僕らの感覚では信じられないよ。僕なんかは特に押し殺さずに伝えたいほうだからなあ(笑)」
――ただ、あなたのパフォーマンスを見ていると、エモーショナルではあっても必ずしも100%開いている印象はなかったんです。むしろどこか自分の内面と静かに向き合っているような部分を感じました。
「それはその通りだと思う。生のライヴではレコーディング作品よりも実際にはよりエモーショナルになりがちなんだけど、単にエネルギーを爆発させるようなステージは面白くないよね。今のヴィレジャーズは僕も含めてメンバー全員がアイルランド出身者だから、意識が統一されているというのもあるんだけど、だからって力づくで衝動を音に込めては逆効果だよね。アイルランド人て、ただでさえエモーショナルなんだから(笑)」
――それは、アイルランドという国の歴史も影響していると思いますか?。
「それは絶対にあると思う。たとえば僕の家と両親は敬虔なキリスト教徒なんだけど、そういう国のダークな歴史と切り離せない宗教観も、国民性につながっているからね」
「(苦笑)まあ、今でもアイルランド=U2なんだよね。でも、本音を言うとそのパブリック・イメージはいい加減変えたいんだ。たしかに僕の両親くらいの世代は政情不安定のあおりを受けているよ。苦労もしているし、社会と闘おうという意識がすごく強い。それが力になってアイルランドは国家として成長してきた。U2もその最後の世代だと思うんだ。でも、僕らの世代はもう社会も安定しているし、景気もまあまあよくなってきている。エモーションの根っこにあるモチヴェーションが少し違うんだよね。たとえば僕は社会だけの動きにしか関心があるわけじゃない。そこに向かっての不満が最大のエネルギーになっているわけではないんだ。むしろ、自分自身の本音とか個人の内面に向き合うことに興味があるんだよ」
(C)Rich Gilligan
――外に向けてというより、内面に向かう作業ですか?
「そうそう。僕もそうだけど、みんながどういうことを考え、どこでストラグルしているのか、そういうものを描いていきたいんだ。でも、これって世界的に僕らの世代に共通していることじゃないかな。たとえばアメリカの
フリート・フォクシーズとか
グリズリー・ベアも、社会に対峙して意見をハッキリと伝えているけれど、それ以上に個人の内面を言葉と音にこめていると思う。その点ですごく共感できるんだ。これまでアイルランドのバンドっていうだけで、何かと社会のエネルギーの爆発が……みたいに言われてきたけど……あと、
クランベリーズみたいなポップ・バンドとかさ……僕らの世代はアイルランドの若者も意識が変化してきていると思うよ。僕らの周辺では
ボブ・ディランが若い世代から人気なんだけど、結局ディランの持っている個人としてのエネルギーを欲しているんだと思うよ」
――ちなみに、ヴィレジャーズの今度のアルバムを、ディランのこれまでの作品に例えたら何になりますか?
「そうだなあ、
『血の轍』(75年)かな。あの作品の持つヒリヒリするような、でも、温もりのある感じは、実際に目指していたところなんだ。今のディランも素晴らしいから、これからもずっと彼が目標になっていくんだろうなあ、先の長い話だけどね(笑)。まあ、僕も声がガラガラになるまで歌い続けるよ!」
取材・文/岡村詩野(2013年2月)