すうっとわき上がる英国的なポップネスやソウルネス。洒脱とか洗練とかいった形容が冠されることも多い、そんな都会的表現を送り出す
ワークシャイはヴォーカルのクリスタ・ジョーンズとサウンド作り担当のマイケル・マクダーモットからなるデュオ・ユニットだ。彼女たちは3年ぶりとなる新作
『Bittersweet』を発表し、4月には来日も決定。今回、質問に答えてくれたのはクリスタ・ジョーンズ。彼女によれば、新作は大きな転換期を経ての新規蒔き直し作であるようだ。
――今年で結成25年目となりますが、そもそも結成当初はどういう音楽をやりたかったのでしょう?
クリスタ・ジョーンズ(以下、同)「お互い、好きなものと嫌いなものの趣味が共通していたので、好きなものを集めて、好きでないものを排除していったの。私たちはソウル、ファンク、ジャズ、(バート・)バカラックといったものが共通して好きだったので、それを私たちなりのやり方でハイブリッドにやりたかった」
――これまでで、ターニング・ポイントと思えることはあったりするのでしょうか?
「マイケルが(
『スマイル・アゲイン』のレコーディングを終えたその日に)事故に遭ったことをご存知かしら? かなりの大事故で、大怪我をしたのよ。だから、あれが間違いなくターニング・ポイントだったと思うわ。生きているのがどんなに大事なことかが判ったんですもの。今作はその事故以来初めてのアルバムなので、前作よりも考えさせられる内容、もっとずっと深くて、少しダークでコントラストの強い作品になっているわね。幸せと悲しみ、生と死、苦々しさ(bitterness)と甘さ(sweetness)との対比が多い。アルバム・タイトルの『Bittersweet』は、人生そのものを表わしている。苦いと同時に甘くもあるということね」
(C)Photo by Euan Danks
――今作は3曲も他者の曲を取り上げています。そうなった理由は?
「どれも、それぞれに違うわよね。ラヴァーズ・ロック(レゲエ)の〈シリー・ゲームズ〉、
ビョークの〈ヴィーナス・アズ・ア・ボーイ〉、それから〈ウィル・キープ・ストライヴィング〉(米国R&B歌手、
ララの87年曲)と、どれもとても傾向が違うわ。ジャンルの違う曲をところどころに入れて、私たちのスタイルをちょっとお休みさせたかったのよ。私たちはカヴァー曲をやるのが好きなので、選曲には苦労した。できれば(候補に挙げた曲を)全部やりたかったんですもの!(笑)」
――それらの原典はどれも女性が歌った曲ですが、やはり女性が歌った曲の方がカヴァーしやすいですか?
「そうだと思うわ。考えたこともなかったけど、女性の曲の方に共感できるんでしょうね。でも、お風呂の中で
デヴィッド・ボウイの曲を歌うのは好きよ(笑)」
――オリジナル曲の方は、近年書かれたものですか?
「そうよ。私たちは何曲か一気に書き上げるの。昔は、それぞれ曲を書いてそれを持ち寄っていた。でも最近は、とくに私には子供たち(11歳と9歳)がいるし、マイケルはスタジオで作業することが多いので、彼がコード・パターンを考え、私がメロディを考えることが多いわね。歌詞は、2人で一緒に考えるの」
――英国人らしさ、ということに、音楽を作っていて留意することはありますか?
「自然とそうなっているんでしょうね。私たちはアメリカの音楽に影響を受けているけど、イギリス英語のアクセントで歌っているので、何をやっても、英国らしさが出てしまうんでしょう。それに、礼儀をわきまえているところが洗練されていて、ある意味控えめなの。ドタバタやっているのではなくて、テーブルに穏やかに座っている感じ(笑)。それが英国らしさに繋がっているのかもしれないわね」
――ポップ・ミュージック界の喧騒から少し離れ、じっくりと自分たちの表現を作り、アルバムを出したいときに出す。そんなあなたたちに触れて、うらやましいスタンスで音楽活動をしている、と感じる人は少なくないと思います。それについての感想は?
「ありがとう。でも、私たちはこのやり方でしかやれないのよ。いいものを作り続けるには、つねに自分たちが本当にやりたいことをやるしかないの。どうすればお金持ちになれるか、どうすればヒットするか、とかいうことではなくね。私たちはこういうやり方でやってきたかったのよ」
取材・文/佐藤英輔(2010年12月)