“F.I.H. ハーモニカコンテスト”で総合グランプリを獲得した実力派クロマチックハーモニカ奏者、
山下伶が新作
『Candid Colors』をリリースした。印象的なのは、映画音楽、洋楽ヒット、賛美歌、タンゴ、
美空ひばりや
荒井由実の名曲、オリジナル曲など、多彩な曲を1枚のアルバムに収めた全方位性だ。そこには、クロマチックハーモニカの魅力を多くの人に知ってほしいという思いがある。
――メジャーからの2作目、レーベルを移籍して最初のアルバムとなる
『Candid Colors』は、前作とは大きく内容を変えていますね。前作はサウンドのベースがブラジル音楽で、オリジナル曲とともに「Wave」や「黒いオルフェ」といったブラジル音楽の名曲を採り上げていましたが、今作は映画音楽、洋楽ヒット、日本の名曲など、選曲が多彩です。
「前回は
今井亮太郎さんにプロデュースを依頼して、“ブラジル・サウンドにクロマチックハーモニカが入ったら、どうなるか”というテーマのもとにCDをつくりました。その後、全国各地をコンサートやライヴでまわるなかで、“クロマチックハーモニカって、どこまでいろんな曲ができるんだろう?”という期待のようなものを皆さんがもっているということがわかり、次の機会があったら、“いろんなジャンルの曲をハーモニカでどう表現できるか”というCDにしたいと思っていたのです」
――ジャンルが幅広いので、どんな人でも、収録曲のどれかは知っているでしょうね。
「そうですね。コンサートやライヴで演奏し、練り上げてきた曲も、けっこう入っています。〈川の流れのように〉は、いつもコンサートのラストのほうでやるんですけど、毎回、泣かれるかたがいて、“この曲の入っているCDがほしい”というお声は聞いていたんです」
――もとは歌詞のある曲で涙を流す人がいるというのは、メロディとハーモニカの音色の相性とか、音楽的な理由もあるのでしょうね。
「
美空ひばりさんという大スターが歌っているのを聴いてきたので、そっちに寄せるか、ハーモニカらしさを出すか、迷ったんですけど、今回は“歌うように”という方向にしてみました」
――選曲は、どのようにしたのですか?
「曲によって、選んだ理由はさまざまです。〈ブエノスアイレスの冬〉は、“F.I.H. ハーモニカコンテスト”というハーモニカの全日本コンクールのときにクラシック部門で1位をとった曲で、入れるのなら弦楽器のアレンジに凝りたいという思いが以前からありました。今回、
m.s.t.の持山翔子さんが本当にすばらしいアレンジをしてくれたので、やっと入れることができました。〈君の瞳に恋してる〉は、コンサートのアンコールで、みんなで歌うイメージがありました。先日(11月2日)、新潟の見附にある800人のホールで吹きながら歩いたんですけど、すごく盛り上がって、皆さんに笑顔で帰っていただきました。〈海を見ていた午後〉は、じつは昨年、横浜に引っ越しまして、ヨコハマ愛です(※歌詞の舞台が横浜・山手)」
――ハーモニカの音色が郷愁を醸す「Cavatina」は、楽器のイメージと曲がぴったりで、アルバムのオープニングにふさわしいと思います。この曲や「Minor Swing」などはギターのYUTAKAさんとのデュオですが、ハーモニカとギターは相性がいいですね。
「ハーモニカは音が持続したところで哀愁とかを感じるのですが、ギターは爪弾くから音が減衰して、その違いがうまくマッチするんですかね。ハーモニカの音色が埋もれてしまわないところもいいと思います」
――YUTAKAさんの作・編曲による「花縁 Hanaenishi」は、日本情緒の漂う曲です。
「2015年に、初めて熊野三山をまわらせていただくことになったとき、YUTAKAさんにつくってもらった曲です。山々に響きわたるようなハーモニカの曲がほしいとお願いしたら、できてきたのは吹いていて泣きそうになる曲だったので、これを熊野の地で吹けるのはうれしいなと思いました。いつかCDに入れたいと思っていたら、今回、那智大社の1700年祭にお呼びがかかって、この曲も奉納することになったので、この機会に入れることにしました」
――
山本剛さんのトリオとライヴで共演した「我が心のジョージア」では、アドリブのソロも展開しています。
「それまでは、つくられたものをどう表現するかということを考えていたんですけど、最初に剛さんとやったとき、“今日しかないんだから、楽しめ、バリバリ吹け”みたいな感じで言われて、そこからちょっと殻を破ることができた気がします。アドリブは難しいように考えていたんですけど、“頭で考えるんじゃなくて、音で感じればいい”と言われたので、そこから考えが変わりました。リハもなしで演奏して、あとで録音を聴いたとき、“こんなふうに吹いていたんだ”と思いました」
――桐朋学園芸術短期大学ではフルートを学んでいたのに、クロマチックハーモニカに行き着いたのはなぜですか?
「フルートは音域が3オクターブですが、私はヴァイオリンの
寺井尚子さんが好きだったので、寺井さんのようにもっと低音域を出したいなと思っていたんです。フルートを演奏していて、自分らしさを追求しつつも、なにかちょっと違うなという違和感があったんですね。クラシックなどの、きれいな、おとなしめの音楽に使われることが多かったので、もっと幅広い音楽をやりたいなと思っていたときに、偶然、フルートよりも低い1オクターブが出る16穴のクロマチックハーモニカの音を聴いて、ビビッときてしまいました」
――フルートはステージで独奏することがなかなかないですよね。ハーモニカは一人でも表現しやすいように思います。そういった面に惹かれたことはないですか?
「それは、もちろんありますね。自分の可能性じゃないかなと思います。あと、この楽器のおかげで、東京交響楽団のなかにも入れていただくことができました。ハーモニカはいろいろな楽器と、いろいろな編成で演奏できる楽器だと思います」
――これから、どんな活動をしていきますか?
「コンサートに来てくださるかたは、ほぼ全員が“初めてクロマチックハーモニカを聴きました”とおっしゃるんです。ハーモニカと聞くと、自分たちが河原で吹いていたハーモニカをイメージするかたもいれば、“こんなかっこいい楽器があったんだ”と驚かれる若いかたもいます。とにかく、たくさんの人に、実際に聴いてもらいたいですね」
取材・文/浅羽 晃(2017年11月)
“メジャーセカンドアルバム「Candid Colors」リリース記念LIVE”
2017年12月3日(日)13:30〜 神奈川 横浜 横浜市社会福祉センターホール
入場料: 4,000円 (全席自由)
“メジャーセカンドアルバム「Candid Colors」リリース記念LIVE in 和歌山”
2017年12月10日(日)14:00〜 和歌山 LURU HALL
CHARGE: 4,000円 (フリーソフトドリンク付き)
Info:
http://rei-yamashita.com/live/