8月5月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム
『ROCK’N’ROLL』を発表する
矢沢永吉。30年以上もの長きにわたり日本のロック・シーンをリードしてきたリヴィング・レジェンド、E.YAZAWAに影響を受けたアーティストは、それこそ枚挙に暇がないのだが、今回、登場してもらった“アイゴン”こと
會田茂一も熱狂的な“矢沢チルドレン”の一人。ロック・バンド
FOEで活動する一方、
木村カエラや
BONNIE PINK、
POLYSICSなど幅広いアーティストの作品を手掛ける売れっ子プロデューサーでもある彼に、愛すべき“永ちゃん”の魅力から、プロデューサー的観点から聴いたニュー・アルバム『ROCK’N’ROLL』の感想まで、ざっくばらんに語ってもらった。
あくまでも個人的な感覚ですけど、
“笑える”ようになって初めて
本物のファンになれたような気がします
──アイゴンさんが矢沢永吉というアーティストに本格的に興味を持つようになったのはいつぐらいからなんですか?
會田 「実は結構遅くて、90年代に入ってからなんですよ。ある日、永ちゃんを“笑ってもいい存在なんだ”って気付いたことがあって。それを機にのめり込むようになったんです。“笑ってもいい”っていうのは語弊があると思うんですけど、要するに自分の中で、永ちゃんは長嶋茂雄や勝新太郎と同じような偉大なスーパー・ヒーローなんです。あまりにもカッコ良すぎて笑うしかないっていう。あくまでも個人的な感覚ですけど、笑えるようになって初めて本物のファンになれたような気がします」
──それ以前にも矢沢さんの音楽は耳にしていたわけですか?
會田 「そうですね。中学生の頃とか先輩が聴いてましたんで。当時は2コ上の不良の先輩が永ちゃんを聴いて、1コ上の先輩は
アナーキーを聴いてるっていう感じでした。自分にとっては、年上の人が聴く音楽というような印象がありました」
──憧れつつも、なかなか踏み込めない感じというか。
──アイゴンさんは10代の頃、ザ・コレクターズのローディを務めていたんですよね。
會田 「週に2日はコータローくんの家に入り浸っていたので、そこで永ちゃんの魅力を徹底的に教え込まれましたね。歌やステージングはもちろん、発言まで、徹底的に。そのうち、今度は僕が、イッチャン(
LOW IQ 01)だったり、周りの友だちに永ちゃんの素晴らしさを伝えるようになって、みんなでライヴDVDを観て盛り上がるようになったんです」
──実際、ライヴに足を運ぶようになったのは?
會田 「たぶん94年からです。最初は、年末恒例の日本武道館ライヴにコータローくんと一緒に行きました。しかも公演最終日だったんで、開演前からお客さんの盛り上がりが凄くて。あっちで永ちゃんコールが上がれば、ファンの人が自発的に“むこうも頑張ってるから、こっちも負けずに頑張りましょう!”って永ちゃんコールを始めたり。あの光景は本当に感動的でしたね。矢沢永吉という一人の人物のために、こんなにも多くの人たちが熱くなっているんだって」
大袈裟な言い方になっちゃうんですけど、
永ちゃんがいてくれるからこそ、
自分も頑張れるんです
──初めて観た生のステージはいかがでしたか。
會田 「とにかく圧倒的でした。当時の僕らは小さなライヴ・ハウスで大暴れするようなライヴしかやっていなかったんですけど、それを永ちゃんは武道館レベルの大きな会場でやっているわけですから。ステージの端から端まで走り回って、シャウトして。当たり前だけど、自分らとはスケールが違うなって(笑)。昔の曲をさりげなく配置する曲順とか、そのあたりも上手いなと思いました。でも、やっぱり一番感じたのは、曲の良さですよね。みんなが熱狂している、あの雰囲気の中に身を置いて永ちゃんの曲を聴くと、すごく胸にこみ上げてくるものがあって。なんて凄いメロディ・メイカーなんだろうと思いました」
──イメージの強烈さゆえ、そこって意外と見過ごされがちなところではありますよね。
會田 「作曲家として純粋に凄いと思うんですよ。メロディに天才的な閃きを感じるというか」
──個人的に好きな曲は?
會田 「〈PURE GOLD〉です。本格的に好きになりはじめた頃の曲だということもあるんですけど。永ちゃんの曲でいえば、僕はメロディが際立つシンプルなアレンジの曲が好きなんです」
──ニュー・アルバムの『ROCK’N’ROLL』も、そういう意味では、徹底的にシンプルな音作りが心掛けられていますよね。
會田 「ここ最近のアルバムの中で、いちばんギターがバリっと聴こえる印象を受けました。永ちゃんの声とギターがせめぎ合ってる感じが、すごくよくて。それは僕がギタリストだからなのかもしれないですけど」
──アイゴンさんは木村カエラ、BONNIE PINK、髭(HiGE)、GO!GO!7188、POLYSICSといった、さまざまなアーティストの作品を手掛けられていますが、プロデューサー的な観点から、今回のアルバムを聴いてみて、どんな印象を持ちましたか? 會田 「時代を読む感覚に優れている人なんだなと改めて思いました。今は聴き手もシンプルなものを求めているようなところがあるし、実際、永ちゃんのファンも、こういうライヴ感のある曲を聴きたかったと思うんですよね。アップ・チューンはもちろん、〈未来をかさねて〉とか〈君と・・・〉みたいなバラードもライヴで歌う姿が明確にイメージできますから」
──たとえば、木村カエラ・ファンに矢沢永吉の魅力を伝えるとしたら?
會田 「難しい質問しますね(笑)。なんだろう……カエラちゃんにしても、たぶん彼女のファッション性だったりカリスマ性だったり、そういうところから入った人って、いっぱいいたと思うんです。でも、そこでリスナーは彼女がやっている音楽の魅力に気づかされるわけですよね。実際、カエラちゃんはいろんなジャンルのミュージシャンとおもしろい音楽を作っていますし。それと同じで、永ちゃんの音楽も一度ハマったら抜け出せないくらいの奥深さがあるんですよ。実際、僕もそうでしたし。掘れば掘るほど、音楽のおもしろさを発見できる。それはやっぱり歴史が培ってきたものだと思うし。あとは、やっぱりライヴですかね。とにかくライヴを観てほしいです。あんなに盛り上がれて感動的なライヴって、そうそうないと思うんですよ」
──では最後に。ミュージシャンとして活動するうえで、アイゴンさんが、矢沢永吉から、もっとも影響を受けたのはどういうところですか?
會田 「永ちゃんの名言でもある、“エニウェイ、やるしかない!”という姿勢ですね。実際、僕の携帯メールは“え”って押すと、自動的に“エニウェイ”って出るようになってるんですよ(笑)。こないだも、プロデュースをしてる、ある女性シンガーに“エニウェイ、やるしかない!”って励ましのメールを出しました(笑)。永ちゃんが次々、新しいことにチャレンジしてる姿を見てると、ボーッとしていられないなと思うんです。すごく大袈裟な言い方になっちゃうんですけど、永ちゃんがいてくれるからこそ、自分も頑張れる。そういう意味でも、やっぱり永ちゃんは僕にとって、いち音楽家を超えた永遠のスーパー・ヒーローなんです」
取材・文/望月哲(2009年7月)
撮影/相澤心也
アイゴンのこだわり矢沢グッズ
●PRO-Keds E・YAZAWA MODEL I LOVE YOU ,OK
1975年にリリースされた1stアルバム『I LOVE YOU ,OK』のジャケットで矢沢が履いているスニーカー、PRO-Keds“ロイヤル”のシグネチャー・モデル。ソロ・デビュー20周年を記念して限定販売された。インソールやタンには“E.YAZAWA”のネーミングが、ヒールには“I LOVE YOU ,OK”の文字が入っている。
「普段から穿いてるんでボロボロなんですけど。コータローくんは同じ靴を大切に保管していたみたいで、僕が穿いているのを見て、椅子から転げ落ちそうになってビックリしてました(笑)。“お前、穿いてんのかよ!?”って(笑)。実際、穿いてこその愛情ってことで(笑)」
●E.YAZAWAオフィシャル・バッグ
矢沢永吉オフィシャル・ショップ、DIAMOND MOONにて数年前に購入した大型バッグ。ボディやジップに施されたワンポイントの“E.YAZAWA”マークが渋い。裏地には“E.YAZAWA”マークのモノグラムが大胆に!
「シンプルでクールなデザインに惹かれて購入しました。ちょっとした旅行に行くときに愛用しています。もちろん足元はPRO-Kedsで(笑)。娘が産まれたとき、産婦人科に奥さんの着替えや生活用品を届けるときも、あえてこのバッグを使いました。いざというときに欠かせない勝負アイテムです」
【會田茂一プロフィール】
1989年、明治学院大学在学中よりライヴ・サポート、レコーディングなど、ギタリストとしての活動をスタートさせる。その後、朝本浩文とのRAM JAM WORLD、LOW-IQ 01とのACROBAT BUNCH、柚木隆一郎とのEL-MALOなどの活動を経て、1999年、佐藤研二(b)、小松正宏(ds/from bloodthirsty butchers)とともに、ソロ・プロジェクト、FOEをスタート。2003年にはベーシストの高桑圭(GREAT3)とHONESTYを結成。また1997年頃からプロデューサー、アレンジャー、リミキサー、映画の音楽監督としての活動も本格的に進め、高い評価を得る。木村カエラのヒット曲「リルラリルハ」をはじめ、彼女のアルバム楽曲の作曲&プロデュースや、近年では髭(HiGE)、GO!GO!7188、スネオヘアー、POLYSICSのプロデュースも記憶に新しい。
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■オフィシャル・サイト
http://www.aidagon.com/