真心ブラザーズの
YO-KINGが約3年半ぶりにソロ作品を発表。ニュー・ミニ・アルバム
『スペース〜 拝啓、ジェリ―・ガルシア〜』は、“いかにして幸せな人生を送るか”という全人類が抱えているであろう普遍的なテーマに対する考えを明快かつ痛快に綴ったナンバー。カップリング曲の「ライセンス・トゥ・精神世界」は、そのものズバリ、精神世界をテーマにしたナンバーだ。 きわめて意味深なタイトルをもつこれらの楽曲に込められたメッセージとは? YO-KINGに話を訊いた。
――久々のソロ作品がリリースされます。
YO-KING(以下、同)「しかも久々の“物申す”的な内容ですからね。喜ぶ人はすごい喜ぶと思う。一行一行、歌詞を噛み締めてくれれば」
――まさに満を持して発表する、という感じで。
「物申す的な曲って、やっぱり時代が追いついてこないと出せないんですよ。この曲もテーマは5年ぐらい前からあったんだけど、最近になって、やっと僕に時代が追いついてきたかなと(笑)。ポップスって結構、出しどころが大事なんですよ。20代だったら、こういう曲を勢いで出せちゃえるんだけど、40代も中盤に近づくと、なかなかね……。やっぱり言霊の力が分かってくると怖いよね。自分が発した言葉って最後は自分に返ってくるから。“バカヤロウ、ふざけるな”って言ってたら、自分がそう言われちゃうからね、周りから」
――巡り巡って。
「そう。言葉はブーメランみたいなものだから、“ありがとう”って言っておくと、誰かから“ありがとう”って言われるんですよ。若い頃はなんでも言えたんだけど、今はネガティヴなこととか怖くて言えない。ましてや、それを歌詞にして他人に向けて歌っちゃうなんて本当にムリ。特にメッセージ系は冷や冷やしますね。スピリチュアルなことを書けば書くほど」
――でも、今回のシングルはタイトルしかり、収録曲の「ライセンス・トゥ・精神世界」しかり、スピリチュアルなことがテーマになっていますけど、決して精神世界に没入することを推奨する曲ではないですよね。
「そう。むしろ逆。ある本に書いてあったんだけど、スピリチュアルなことを考える時間って日常の20パーセントぐらいにしといたほうがいいんだって。でも精神世界が好きな人って、歯を磨いたり、ご飯を食べたりすることよりも、そういうことを考えてる時間を優先しちゃうでしょ。8割精神世界で2割が現実。それで身体も心も良くない方向に向かっちゃう。だから僕は今作では、皿を洗ったりすることのほうが大事だよと言ってるんです」
――健やかに過ごすためには、普通の生活をいかに丁寧に過ごすかが大事っていう。
「本当にそういうことですよ。精神世界のことを学ぶのも大事だけど、そこは20パー以下にしときなよって。だったら外に出て人と会ったりとか、美味しいものを食べたりとか、自分にとって楽しいことをしたほうが全然、幸せに繋がると思うんですよね」
――でも、往々にして精神世界にハマっちゃう人ってドップリいきがちですよね。
「たしかに興味深いことではあるからね。だからこそ、楽しく軽やかにインプットしていったほうがいいんです」
「具体的に興味を持ったのは90年代の終わりぐらいですね。もちろんジェリー・ガルシアとグレイトフル・デッドにはその前から興味はあったけど、あまりにも存在が巨大すぎて、どこから手を付けていいのか分からなくて。大きなキッカケになったのは僕の周りにいるデッド好きの人たち。大きな声で“俺はデッドヘッズだ”とか言わないんだけど、みんな素敵なおじさんで」
――別に絞り染めのTシャツを着てるわけじゃなく。
「そう。でも、みんなデッドが好きなの。それで、“この人たちを惹きつけてやまないグレイトフル・デッドってどういうバンドなんだろう?”と思って、当時、出たボックス・セットを買って、解説を読みながらじっくり聴いてみたの。そうしたら、やっぱりすごく良くて」
――具体的に、どのあたりに良さを感じたんですか?
「すごく自由なところかな。今、この瞬間に出している音を全員楽しんでるんだろうなっていうのが伝わってくるんだよね。コーラスもCSN&Yとかに比べると適当なんだけど、そこがまたいいんだよね。ほら、よく
細野晴臣さんが“おっちゃんのリズム”って言うでしょ? あれと同じ感覚をデッドにも感じたんですよ」
――微妙な“揺れ”というか。
「そう。あれが気持ちいいんですよ。だから最近はレコーディングしていても、うまいテイクじゃなくて、気持ちよく揺れてるテイクを選んでるし。そのほうが聴いてて面白いんですよね。人が演奏してる感じが伝わってきて。今回、3曲目に入ってる<愛しき日々>も、すごくリズムが揺れてるんだけど、これがいいんだよね。3〜4テイクぐらいまでの揺れとか迷いが、今はすごく気分です」
――“迷い”もイキですか。
「もちろん。だって60年代とか70年代のロックのアルバムとか聴くと、すごく迷ってるじゃない。Bメロ行く手前で、もたってたり(笑)。たぶん、スタジオでアイコンタクトしながら“どうすんの? どうすんの?”とかやってるんですよ。そういうのが最近、たまらなく愛おしい。それって今回のタイトルになったジェリー・ガルシアの“スペース”という思想にも繋がるんですよ。スペース=度量、振り幅があるから何事も楽しむことができるっていう。“譜面がないからできない”とか言ったら、その時点で終わっちゃうからね。目の前にある状況を受け入れて、いかにして楽しむかっていう」
――いま作っているというフル・アルバムも、そういう雰囲気のものになりそうですか。
「完全にそうですね。やっぱり人ですよ。ヒューマン・ネイチャー。 “ザ・人間”というか(笑)。温もり、成功、失敗、迷い、汗とか、今度のアルバムでやりたいのはそういうことですよね。カチッとはしてないけど、
ボブ・ディランの
『ブロンド・オン・ブロンド』みたいに長い間、何度も繰り返し聴けるような滋味深いアルバムを目指してますから」
取材・文/望月哲(2010年7月)