自分にとってなにが気持ちいいのかを見極める3年間――“抜けの良さ”を求めたYOUR SONG IS GOOD『Extended』

YOUR SONG IS GOOD   2017/05/10掲載
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 これまでのイメージを覆し、ベース・ミュージックへの急速な接近を果たした前作『OUT』から3年半という月日を経て、カクバリズム設立15周年という記念すべき年に、レーベルの長兄であるYOUR SONG IS GOODが6thアルバム『Extended』をドロップ。昨年12inchシングルとして発表されたレゲエ・テイストのバレアリック・チューン「Waves」を中心に、全7曲49分が収められた今作は、『OUT』で得た“ダンス・ミュージック的視点”をさらに拡張しながら、初期のYOUR SONG IS GOODを思わせるオーセンティックなバンド感も併せ持った内容となっています。トライ&エラーを重ね辿り着いたというこのアルバムについて、サイトウ“JxJx”ジュンに語っていただきました。
――アルバムの話をする前に、19年目にしてついにバンドのホームページが完成したという話をさせてください。
「そうなんですよ、ついに(笑)」
――なにかこだわりがあって作ってこなかったというわけではなかったんですか?
「うーん……なんで作ってなかったかっていうと、最初はバンドっていうより、カクバリズムっていうこの集合体みたいなものを打ち出したかったんですよね。それで気がついたら、ものすごく時間が経っていた(笑)」
――まさか、このタイミングでホームページ開設というアナウンスがあるとは思ってなかったです(笑)。
「そしたら、カクバリズムのほかのバンドとかは普通にバンバン作ってました(笑)」
――ホームページ開設とともにリリースが発表された『Extended』ですが、まずはタイトルである“Extended(=拡大)”という言葉について。“突き詰める”という方向性ではなく、伸ばしていく、拡大していくっていう言葉が、すごくYSIGらしいなと思いました。
「すぐに見つかった言葉ではなかったんです。3年くらいかけて見つけたテーマで。今回の7曲は、形は違えども、“抜けの良いものにしたい”っていうテーマが共通してあったんですよね。でも、“抜けが良い言葉”って、そのままな言葉が多いんですよ」
――抽象的というよりも、すごく直球な、説明してしまっているような言葉が多い。
「そうです。それだと、本来の意味での抜けの良さ、その先に存在するであろう空間、余白を感じさせてくれるような感覚がない気がして。で、なにかいい言葉がないかなと思っていたときに、よくダンス・ミュージックの12inchで使われている“Extended”っていう言葉がピンときたんですね。原曲から拡張された部分に、空間や余白を感じて、そこを“抜け”と捉えたと言いますか。このくらいの距離感のほうが、自分たちの考える抜けの良さみたいなものを代弁してくれてるような気がして。少しややこしいですけどね。本来“Extended Play”でEPなのに、今回は“Long Play”でLP、アルバムなわけで(笑)」
――“7曲49分”というトラックと収録時間からも前作『OUT』からの影響を感じることができましたが、音楽的にも前作を“拡張”していくようなイメージだった?
「そういう捉え方もできますよね。別のコンセプトじゃなくて、あのアルバムの続きを作りたかったというのはあるので」
――なるほど。では、アルバムに至るまでの話を聞かせてください。『OUT』ツアーの延長戦のような形で行なわれた〈OUT TOURS Continue 2014 -Oneman Show-〉の渋谷 CLUB QUATTRO公演で、昔の楽曲、具体的には『Come On』収録のレゲエ調の楽曲「HOT GRAPEFRUIT」がすごく良かったのが印象的だったんです。ベース・ミュージックに接近した効果がこういうところにも出るのか、と。
「まさにそうですね。ベース・ミュージック通過後の、もう少し広義な意味で、あのアルバムで得た“ダンス・ミュージック的な視点”で昔の曲を見つめなおしたら、ちょうどいい元ネタがいっぱいあったんですよね。そういった違う観点から自分たちの曲を拾い上げることができたんですね。〈HOT GRAPEFRUIT〉はインスト・ラヴァーズ・ロックといった感じの曲ですけど、リズムがしっかりしていたので、“Extendedしがい”のある曲だなと思って」
――Extendedしがい(笑)。
「そういったアプローチもできるんだなっていうのは、ひとつポイントではありましたね。『OUT』は有機的なものとスクエアなノリを合体させる面白さっていうのがすごくあったんですけど、そのなかに情報量がかなりあったんですよね。で、やはりダンス・ミュージック的な強度をより上げていくときに、もっとシンプルなものにしなきゃと思って。伸ばすべきは、あのタイミングで得たスクエアな部分なのか、もともと僕らが持っていたオーセンティックな部分、いわゆるバンド然とした部分なのか、そこの取捨選択を探っていたんですよね。そのなかで先に進むきっかけのひとつとなったのは、昔の曲も新しい視点で演奏できるんだってことでした」
――たしかに、今作を聴いた後に前作『OUT』をあらためて聴き直してみたら、発表当時よりも圧倒的にスクエアな印象を受けました。
「そうなんですよね。あの時はその面白さ、新鮮さにハマっていたんだと思います」
――2016年には今作にも入っている「Waves」が12inchでリリースされました。いわゆるスローモーでレゲエ的なアプローチの楽曲だったので、QUATTROでの印象と繋がったように感じたのですが、バンドの方向性としてはこの3年半は迷いなく進んできたんですか?
「実際、〈Waves〉に至るまではかなり試行錯誤しました。具体的にはテンポ、ハウスのBPMである123〜4であったり、あるいはディスコっぽい120あたりだったり、をいろいろ試していたんですけど、これといった決め手に欠けたまま2、3年が経過して(笑)。その時点で、スクエアな面白さっていうのも可能性としては残ってたので、“そっちにいくか……でもきっとすごい楽しいから戻ってこれなそうだな……そうなるともう7人もメンバーいらないんじゃないか”って」
――あははは(笑)。とくにYSIGの場合、ライヴはかなりフィジカルな現場なので、BPMを落とすっていうのはすごく勇気がいることだったんじゃないかと思うんです。
「偶然なんですが、リハでなんとなしにレゲエのグルーヴをあらためて取り入れてみたらすごく良かったっていうのが大きくて。テンポが遅くても強烈なリズムのせいで、しっかりドライヴするという。ゆるいんだけど、ダンス・ミュージックとして成立している、と。あとは、ある意味、鍵盤の裏打ちだったりリフレインする定型のベースラインは、オーセンティックなフレーズとしても機能していながら、手数の少なさや展開のなさでもって、スクエアなアプローチとも言える。どちらに行くべきか迷っていた時に、その両方を絶妙な感じで成立させることができたといいますか。この感じが、やりたかったことの答えだ!って気付いて。だから、〈Waves〉の方向に行けたのは大きかったです。結果、スクエアなのか、オーセンティックなのか、という迷いにまさかの形で“落とし前”をつけてくれました」
――「Waves」でいえば、スロウなんだけど、すごく大きなうねりのなかでビルドアップしていくような、ミニマル的なアプローチになっているじゃないですか。ここが『OUT』との大きな変化じゃないかなと感じました。
「そうですね。このサイズのうねりは『OUT』にはなかったですね」
――大きなクレッシェンドを描くっていうのは、ライヴでの実効性も意識されてのものなんですか?
「実効性に関しては、やってみないとわからないっていうくらいの感じだったとは思います。で、〈Waves〉をライヴで演奏してみてわかったんですが、ゆっくりと時間をかけて熱を帯びていくっていうやり方は、非常に効果的でした。瞬間的な沸騰も面白いですが、駆け上がり方の違いなだけで、ラストにたどり着くところは同じでしたね。演奏している途中から“この感じこの感じ”という手応えをメンバー間で共有できていたような気がしてます」
――リスナーとしてもプレイヤーとしても、気持ちいいから延々と聴いていられる、演奏していられるような曲だと思うんですけど、尺を決めるのはすごく難しかったんじゃないですか?
「この曲、繰り返し演奏していると……“展開するのはいまだ!”っていう瞬間があるんですよ。ただ、それが何小節目だったのか覚えてない(笑)。9分ある曲を思い出すために何回もやり直したりして……だから3年もかかったんでしょうね(笑)」
――アルバムとしては、この「Waves」ができたことによって、同じくレゲエ調だったりミニマルなテイストを持った「Cruise」や「New Dub」へと展開していった?
「まさにそうですね。ここからほかの曲がバリエーションとして生まれていったような感じです。〈Cruise〉に関して言うと〈Waves〉に内包されてるバレアリックなテイストをさらに強調してみたり。で、〈New Dub〉だけ少し特殊で」
――〈New Dub〉だけ特殊というのは?
「さっき話に出た2014年のQUATTRO公演のラストで、じつは新曲としてやってるんですよね。もう少しとっ散らかってはいたんですけど。ただ、その後すぐにお蔵入りさせてしまって」
――あー! たしかにアンコールで新曲をやられてましたね。記憶のなかでは、原型はかなりできあがっていたような。
「ほぼ、そうですね。テーマがあって、レゲエのベースラインが延々と続いて、またテーマに戻るっていう作りではありました。でも、果たしてこれが正解なのかどうかっていうのが、あの時点では判断できなくて」
――ほかの曲ができたことで、そこに戻ってくることができた。
「今回アルバムを作っていくなかで、かなりネタがあったんですが、その過程で昔のリハ音源を引っ張り出して聴いてみたら、“あ、この曲アリかもしれない”って。レゲエ的な構造がキーになって。やっぱり〈Waves〉があったからこそ、ですね」
――それこそ、『OUT』ができたことで「HOT GRAPEFRUIT」をあらためて見つめることができたような感じですね。「Mood Mood」はパーカッションのリフに7拍子のピアノを乗せて、そこからさらにいろんなパートのリフが重なっていく構造になっています。
「人力トライバルハウスをやろう、なんて言いながら、これもライヴではわりと早めの時期にやっていた曲ですね。今回のアルバムでは、パーカッションを前面に出したいっていうのがありまして。『OUT』で松井 泉君が合流してくれて、バンドに新しいグルーヴが加わることによって昔の曲も生き返って。こうなったら、パーカッションが主役の曲を作らないとな、と。それで最初に“この曲の主役はパーカッション。ヴォーカルみたいな感じで、よろしく”ってデモを持っていったんですけど、最後の最後にそこを上書きするようにエレピの7拍子リフを全体に散りばめるという。松井君は呆然としてましたね(笑)。あれがなくても曲にはなってたんですけど、最後にダメ押しで入れちゃいました」
――ははは(笑)。たしかに、アルバムを通じて松井さんをものすごく酷使しているなっていうのは感じました。
「実際、とても活躍してもらいましたね」
――……でも、サポート・メンバーなんですよね。
「じつは、もう正式メンバーだと思ってたんですよ。でも今回のアルバムのクレジットを見たら、“サポートメンバー 松井 泉”って書いてあって。同じくサポートでクレジットされているゴセッキー(後関好宏)の1曲と、全曲参加の松井君と、この枠に表記するには、参加曲数が違いすぎるって爆笑してたんですけど(笑)」
――そもそも、アー写にも入ってますしね(笑)。
「もう20年同じメンバーでやってきて、一時期はすごくこの6人ってことにこだわってたんですけど、最近はそういうのが全部ほどけちゃって。今はたまたま、このメンバーで写真を撮ってますけど、ゴセッキーがここにいてくれてもいいし。なんかもう結構自由な感じでいいかなって(笑)。そんな感じで楽しくやってます」
――アルバムの話に戻ると、前半3曲では『OUT』以降のスタイルを強く打ち出しつつ、後半の「Double Sider」「Palm Tree」「On」は、昔のYSIGっぽさがすごく出ているなと感じました。ゴセッキーさんが参加している「Double Sider」は、「NETTAI BOY」的とでも言えそうなナンバーで。
「キラーなマイナーチューンっていう意味はそうですよね」
――今年2月のCLUB LIZARDでのライヴ時に、インフルエンザにかかってしまったショーティさんの代打として、ゴセッキーさんを迎えてライヴをやりましたよね。
「本当に急遽お願いしたんですよ。“3日後くらいなんですけど空いてますか?”って。それでも快諾してくれて、リハで合わせていたら、〈Double Sider〉がものすごいよかったんです」
――「Double Sider」が元々あって、偶然ゴセッキーさんと合わせてみたらよかったという形なんですか?
「そうですそうです。実はあそこはオルガンのソロだったんですけど、ゴセッキーがあまりにも最高だったので、それはやめて、もうすぐにでもSAXでレコーディングに参加してもらうしかないな、と。結果、素晴らしいソロを吹いてくれましたね」
――ケガの功名じゃないですけど。
「完全にそうですね。思わぬ出会いが生まれたという」
――時系列としては、ゴセッキーさんがすでに入った状態で曲を作っていたからこそ、CLUB LIZARDでの代打が実現したのかと思ってました。
「昔だったらこんな急激な人の出入りは考えられないですけど、バンドが良い感じに適当になったので、こういう奇跡が生まれました(笑)。この状況を面白がってくれたゴセッキーには、本当にありがたいと思っています」
――ジュンさんがバンマスを務めて、モーリスさんと松井さんが参加しているNHK「バナナゼロミュージック」のハコバンにもゴセッキーさんは参加されていますよね。いろんなジャンルの音楽を真正面から捉えてプレイする機会っていうのは貴重だと思うので、そこから影響を受ける部分もあるんじゃないですか?
「んー、すごく楽しいんですけど、音楽的なところは、どうだろうな……たしかに、聴いたことはあってもやったことのない曲ばかり演奏してますからね。で、実際にプレイすると、その曲の建物のなかに入っていくような感覚があるんですよ」
――じつは内装こうなってるんだ、みたいな。
「内見してる感じで(笑)。なるほど、こういう理由でこうなってるんですねっていうのはありますよね。……あ、わかった!一番影響があったのは、譜面を書くようになったことですね(笑)」
――あははは(笑)!これまではまったく書いてなかったんですか?
「すべて口で説明してましたね。譜面を書くことで、効率的に伝えられるようになりました。それこそさっきの〈Waves〉では迷子になって大変なことになってましたが、何小節やったらキックが抜けるとか、そういう部分が可視可されましたね(笑)」
――ものすごい基本的なことだけど、めちゃめちゃデカいじゃないですか(笑)。少し話が逸れてしまいましたが、これらの楽曲が昔のテイストをはらんでいるというのは、意識して接近していった?
「ただ普通に昔のテイストの曲をやってるだけだととバンドとして後退してしまうんじゃないか、つまんないことになっちゃうんじゃないかっていう迷いや恐れはあったので、最初は意識はできてなかったかもしれないですね。だんだん見えてきたと言いますか。〈Waves〉以降、バリエーションを作っていくなかで、やっぱりポイントは、『OUT』以降で得たダンス・ミュージック的視点があるのか、ないのか、っていうところ。とにかくここなんですよね。制作作業を経ていくなかで、どうやら基本構造がオーセンティックなモノでも、ダンス・ミュージック的な視点があることによって、その曲の持っている自分たち的に新鮮に面白がれる部分をちゃんと引き出すことができるっぽいぞ、と。思いっきり斬新な構造じゃなくても、感覚として新しい落としどころを作れるかもしれない、という考えに至っていったというか」
――結成以後、どんどん新しい方向に向かっていった“目が離せない”バンドという印象が強いので、アルバムのなかで見せた原点回帰ともいえるスタイルはすごく新鮮でした。もちろん、ライヴでは以前の曲もたくさんやっているわけですが。
「いやー、新しいことを探りつつなので、なかなかシビれましたよ」
――そのあたりは、ジュンさんのなかだけでなく、メンバー全員の共通認識として持てていたものなんですか?
「このバンドはやっぱり、演奏してみてしっくりくるかどうかっていうのが基準なんですよね。時間はかかるんですけど、演奏しながらみんなでその感覚を体感していったところがありました。で、今回、これまでの作品と確実に違うのは、テンポに対して、ものすごくシビアだったっていう。適温を目指すといいますか。〈Double Sider〉もアルバムのなかではテンションが高いほうですが、これまでの曲とは確実に温度が違いますね。そういう部分も、バンドとして新鮮にやれた要因だったかもしれないです。〈Palm Tree〉もまさにそうです。どの曲も、テンポ感はものすごく探りましたね」
――「On」も、言ってみれば『YOUR SONG IS GOOD』を思わせるようなトロピカルなテイストですよね。この曲もまた、新たな視点を得ることでまた違った面白みを得ることができた?
「〈On〉は一番最後にできた曲なんですけど、元ネタとしてはもっとクールでスクエアなテクノ的なイメージだったんですよね。でも、録音する直前に、コード展開をタイトにして、ひとつのループの幅を縮めることによって、“これだ!”っていう発見があったんです。そのことで、リズムのパターンが明確になって。エレピのオーセンティックなフレーズを人力でループさせることで、異なるものに変換していくような感じ、ようするにディスコリエディットを生演奏したようなっていうアイディアなんです。このアイディアはずっと挑戦していたんですけど、やっと感覚的にピッタリとハマって。実際、やってることはバカバカしいんですけどね。ソロっぽいフレーズなのに、数秒間進んだらまたもとに戻るっていう、演奏しているとすごく不思議な感覚に陥ります。そこが面白いんですよね」
――ループしていくなかで、少しずつ熱量を帯びていくとか変化を与えていくみたいな構成は、ひとつずつ合わせながら確認していくんですか?
「そうですね。僕が一番冷静に聴ける場所にいるので、リクエストして。ここからハイハットをオープンクローズにしようとか」
――その微妙なニュアンスの変化、音の抜き差しっていうのはすごく難しいですよね。こう変化をつけるとどうなるのかっていうのを、ひとつひとつ検証していかなきゃいけないわけじゃないですか。それはたしかに3年半かかりますよね……。
「そうなんですよ、わかっていただけますか(笑)。非常に地味な作業してましたね。しかも、人力のダンス・ミュージックなんですけど、実はサラッとやろうっていうのも非常に重要なポイントで。人力でやってます、って声高に叫んでひっかかりを作るというよりは、普通にやっているような温度にしたかったんですよね。これもやりながら気がついたところなんですが。そこが抜けの良さにつながるんじゃないかという発想ですね。〈Waves〉でそのテイストをある程度掴むことはできたんですけど……実際にバリエーションを作っていく作業はやっぱり難しかったような気がしてます」
――前回登場していただいた時に、リハを中断して居酒屋で今後について会議をした結果、最終的に“おもしろいことをやっていこう”っていうふわっとしたところに帰結したっていうのがすごく面白かったんですけど、こうやって話を聞いていると、今回はものすごくロジカルにトライ&エラーを重ねていたんですね。
「抜けの良い感じ、って言葉を連発してただけな気もしていたので、だいぶフワっとな方向だったはずなんですが、こう冷静に考えてみるとロジカルなこともしてましたね(笑)」
――いわば帰納法というか、いろんな事例から答えを導き出していくような考え方じゃないですか。こういうやり方は、バンドとしては新しいものだったんですか?
「やっぱり『OUT』以降の方法ではあるんですけど、今回はよりその感じが強かったのかもしれないですね。〈Mood Mood〉なんかは、そもそもは極めてトラック的な考え方ではあったんですけど、バンドでやることの面白さっていう部分もあって、そこが割り切れないというか」
――完全にトラック然としてしまうのではなく、少し汗をいているようなく部分も入れたい。
「やっぱりスクエアとオーセンティックのバランスなんですよね。そこがないと、すべての辻褄が合わないような気がして。どうしようもなく感覚的なものなんですけどね。その曲の文様を捉えていくというか、そのキワ部分のかすれ具合を調整していく、みたいな感覚に近いかもしれない」
――そういうディテールを意図的に作り上げていくっていう作業は、本当に気が遠くなるような世界ですよね。やっぱり前作から3年半っていうスパンは想定外でしたか?
「『OUT』で方法論を見つけたと思ったので、パッといけるかなと思ってたんですけどね(笑)。“抜けの良さ”の追求って、これ今さらの説明になりますが、自分の“気持ちいい”っていう概念と向き合う作業だったんですよね。そこがぐらぐらしてしまうときっとダメだろうなと思って。自分にとって、なにが気持ちいいのかっていうのを見極める3年間だったかもしれないですね。まず最初にコレは自分のツボなのかどうなんだ?っていう自問自答的な部分からスタートして。そこから先はトライ&エラーをひたすらに繰り返していく。エグいやりかたでした(笑)」
――前半3曲と後半3曲で色が違って、ラストで「Waves」に帰結するっていう構成は最後に決めたんですか?
「アルバムの構成に関しては、これが本当に難しかったんですよね。最後の最後まで〈On〉ができていなかったので、全体がどうやってまとまるのかっていうのがわからなかったんですよ。でも〈On〉ができて並べてみたときに、この形が一番しっくりきました。いくつか候補を挙げましたが、まったく説明もないままだったのに自分のイチ推しとメンバーのイチ推しが満場一致でこの並びで。アルバムを作っていくなかで、みんなが同じ方向に研ぎ澄まされたのかもしれない(笑)」
――製作過程で全員の感覚がどんどんアジャストしていくような。
「参考音源を挙げて、この感じにしたいんだよね、みたいなことはほとんど話さなかったですからね、今回。じつは個人的にはデモ、元ネタを作るときに、映像を見ながら作ってたんですよ。でもその映像を最初にみんなに見せてしまうと、僕が思ってるイメージ以上にならないかもしれないと思って、メンバーにはギリギリまで見せませんでした。自分が作ってきた元ネタに対して、メンバーそれぞれの演奏のテイストやアイディアを重ねていくのが、やっぱりおもしろいと思っていたので」
――そのとおりだと思います。
「極力、その伸び代みたいなものは潰したくなかったんですよね」
――その映像っていうのは、映画だったりそういうものですか?
「ロングボードでサーフィンしてるムービーですね。サーフィンそのものというよりは、その動きだったり、波のくずれていく形だったりがしっくりして」
――波やボートがモーフィングしながら、さらに次の動きへと繋がっていくような。
「そうですそうです。その感じがすごくしっくりきて。これまであんまりそういう作り方はしてこなかったんですけど、自分のなかの“抜けの良い感じ”のいい指針だったりしました。で、その映像をレコーディングの録音ボタンを押す直前に観せるという(笑)。みんな“え?”ってなってましたけど」
――でもたしかに、最初に見せてしまうと、必要以上に寄せていってしまう可能性もありますよね。
「みんなのアイディアが盛り込まれてた状態っていうのが仕上がった段階で初めて、“ここに着地してみようよ”って提示する感じですね」
――そういった大変な作業を経て、“いわゆる最高なアルバム”に仕上がったと。
「いやぁほんと、しみじみ大変でした(笑)」
――ツアーも楽しみです。
「ライヴ用のアレンジもいろいろとやりたいと思っています」
――最後に、YSIGとともに歩んできたともいえるカクバリズムが15周年を迎えて、アニバーサリー・イベントの開催も少しずつアナウンスされ始めていますが、15周年への思いみたいなものはありますか?
「えーっと……ないですね(笑)」
――あははは(笑)!
「まぁ、ここは遊び場みたいなところなので、その感覚はキープしたいですよね。最初の概念、そこは残したいな、と」
――レーベル設立前夜のスタンスがずっと続いているような。
「もちろん人数も増えたりして、ちゃんとしてないとここまで続かないと思うんですが、やっぱりそこが一番面白いところなんじゃないかな、と。15周年でいろいろ行なわれるとは思うんですが、初期の、はじまりのあの感覚がキープできているかっていう部分をあらためて確認できるんじゃないかって思います。っていうのがありつつ、いろいろあったけど……やっぱり思い入れはないですね(笑)。まだ途中なんで」
写真 / 三浦知也
取材・文 / 木村健太(2017年4月)
YOUR SONG IS GOOD
6th ALBUM『Extended』 Release ONEMAN TOUR

yoursongisgood.com

5月20日(土)
愛知 名古屋 CLUB QUATTRO 開場 17:00 / 開演 18:00
お問い合わせ: ジェイルハウス 052-936-6041


5月28日(日)
宮城 仙台 enn 2nd 開場 18:00 / 開演 18:30
お問い合わせ: ノースロードミュージック 022-256-1000


6月3日(土)
大阪 梅田 Shangli-ra 開場 17:30 / 開演 18:00
お問い合わせ: SMASH WEST 06-6535-5569


6月11日(日)
福岡 Early Believers 開場 17:30 / 開演 18:00
お問い合わせ: SMASH WEST 06-6535-5569


7月1日(土)
東京 渋谷 WWWX 開場 17:15 / 開演 18:00
お問い合わせ: VINTAGE ROCK 03-3770-6900


前売 3,800円(税込 / 別途ドリンク代 / オールスタンディング)
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