故郷・仙台への思いがたっぷり込められた遊佐未森のニュー・アルバム『淡雪』

遊佐未森   2012/01/18掲載
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 豊かな叙情性をたたえた旋律、美しく洗練されたアレンジメントとハーモニー、“どんな状況にあっても、明るい明日を想ってほしい”という真摯な願いに満ちた歌詞。前作『銀河手帖』から約2年半ぶりに届けられたニュー・アルバム『淡雪』遊佐未森は、シンガー・ソングライター / 音楽家としての際立った個性をストレートに表現してみせた。仙台・青葉通りを歌った「欅〜光りの射す道で〜」をはじめ、故郷への思いもたっぷり込められた本作。「このアルバムを作ったことで、弾みがついた」という彼女にとっても、きわめて大きな意味を持つ作品になったようだ。


――祈りにも似た深い思い、そして、心が華やぐようなポップネスがひとつになった、素晴らしい作品だと思います。アルバムの制作にあたって、何かイメージしていたことはありますか?
 「前作の『銀河手帖』をリリースしてから、“次はどうしよう?”ってずっと考えていて。最初は“花”というキーワードを漠然と思い描いてたんです。聴いてくださった方の心に花が咲くような、それが何かいいことに繋がっていくような作品にしたいな、と。でも、震災が起きて、自分のふるさと−−宮城、仙台なんですが−−が大変な被害を受けたことで、曲作りも中断してしまったんですね」
――「みやぎびっきの会」(※)のチャリティ・コンサートをはじめ、被災地での活動も頻繁に行なっていて。
 「震災のあと、初めて被災地で歌ったのが(本作にも収録されている)<いつでも夢を>だったんですね。歌い始めたとき、お客さんの表情が変わって、悲しみの思いみたいなものがバッと伝わってきて……」
――歌い手としても、大きな経験ですよね。
 「そうですね。“この大変なときに何をしたらいいんだろう?”ってみんなが考えたと思うんですよ。でも、何度か被災地で歌わせていただくうちに、心の中に音楽が満ちていくことは素敵なことじゃないだろうか、というところに行き着いて。そういうところから、“花”のほかにもうひとつ、“夢”っていうテーマが浮かんできたんです」
――まさに「花と夢」という楽曲も収録されていて。
 「“花と夢”って抽象的かもしれないけど、人の心に希望をもたらしてくれると思うんですよね。花は瓦礫の中でも咲く力を持っているし、こういう状況の中でも夢を見ていてほしいという思いもあって」
――それがアルバム全体のテーマにつながった、と。1曲目の「欅〜光りの射す道で〜」から始まりますが、これは遊佐さんの故郷である仙台を歌った曲ですね。
 「どうしてもこれを1曲目に歌いたかったんです。私は物心つく前から歌っている子どもだったし、故郷が音楽性を形作ってくれたところもあると思うんですよね。これからも、いつも心の中に故郷を思って歌っていくということを再確認できたし。仙台の人たちが聴いてくれたときに、少しでも明るく明日を思える歌にしたいという気持ちもありました」




――叙情的なメロディを持つ「Snow Rose」も心に残りました。この曲の歌詞にはアルバムのタイトルでもある「淡雪」という言葉が出てきますね。
 「この曲を書いたのは去年の5月なんですが、じつは3月からずっと曲が書けなかったんですよね。特に歌詞が難しかったんです。みなさんもそうだと思うんですけど、なかなか言葉が決まらなくて。でも、よく行くお花屋さんで“淡雪”−−という、どこか和風な雰囲気のバラなんですが−−を見つけたとき、“やっぱり、書こう”と思えたんです。すぐには書けなかったんですよ、実際は。でも、絶対に歌を作っていこうという強い気持ちになれて」
――やはり、きっかけは“花”だったんですね。
 「そうですね(笑)。毎日の小さな出来事、そのひとつひとつが何かのきっかけになって、音楽につながってるんだなって」
――一方では、「カラフル!」「風の自転車」といったキラキラしたポップ感を持った曲も印象的でした。
 「悲しいときだからこそ、元気な曲をちりばめたかったんですよね。<カラフル!><風の自転車>は『大!天才てれびくん』(NHK Eテレ)の曲なんですけど、番組の中で歌ってくれた鎮西寿々歌ちゃん、浅賀玲音くんが持っている明るい光をフィーチャーしたいなっていう気持ちもあって。アルバム自体も、聴き終わったときに“よし!”って思えるようにしたかったし、なるべく分かりやすく作りたかったんです。普段だったらオブラートに包んだり、詩的な表現を選ぶところでも、よりストレートに伝えるということを意識して」
――なるほど。メロディやハーモニーについても、遊佐未森さんの個性がまっすぐに出てると思いました。
 「そうかもしれないですね。<風の自転車>のコーラスをレコーディングしているとき、“どんどん遊佐未森っぽくなるなあ”って、ひとりでちょっと心の中でウケてたり(笑)。何て言うか、ずっと続けてきたことが自然にちりばめられてると思うし、自分自身、それを楽しんでたところもありますね。もちろん“新しいものを作っていきたい”っていう思いもあるんですけど、一方では“スタンダードに近づきたい”という気持ちもあって。いろんな要素が自然と混じり合ってるんじゃないかなって」
――今年はライヴを通して、『淡雪』をたくさんの人たちに伝えていく1年になりそうですね。
 「今年はホントに、いっぱい歌いに行きたいと思ってます。いつもの<cafe mimo>もやりますし、それ以外にも計画していることがあって。詞曲を作ることもすごく楽しいんですよ、いま。このアルバムが出来たことで弾みがついたところもあるし、新しいこともやっていきたいと思ってます」


取材・文/森朋之(2012年1月)
※みやぎびっきの会
さとう宗幸、中村雅俊、稲垣潤一など、宮城出身のアーティストたちが、県内の小中学校の楽器修復費補助、子どもたちの夢の実現を後押しするために発足したプロジェクト。
【ライヴ・スケジュール】

<mimori yusa concert tour 2011-2012 ≪Band Style≫>
1月21日(土)@東京ラフォーレミュージアム
1月29日(日)@大阪なんばHatch

<cafe mimo 〜桃節句会〜Vol.12>
4月7日(土)@名古屋・千種文化劇場
4月14日(土)@東京・南青山MANDALA(girls only)
4月28日(土)、29日(日)@東京・草月ホール

<mimori yusa concert tour 2011-2012 ≪Duo Style≫>
6月2日(土)@札幌・時計台ホール and more…
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