激しい“連絡”の応酬を経てバンドとしての新たな一歩を踏み出した在日ファンクの新作が登場!

在日ファンク   2012/10/02掲載
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 世界は“連絡”で回っている。連絡がなければ、政治も仕事も教育も友情も恋愛も成り立たない。連絡がなければ人は動けない。連絡がなければ人は分かりあえない――前作『爆弾こわい』を発表後、精力的なライヴ活動に加え、岡村靖幸によるリミックス盤をリリースし、深夜の人気コメディ『ウレロ☆未完成少女』テーマ曲の提供やゲスト出演、さらにはももいろクローバーZ有安杏果にコラボ楽曲を提供するだけでなくライヴでも共演するなど、ますます活動に勢いを増している在日ファンクだが、そんな快進撃の裏では、愛憎にまみれた“連絡”の応酬が繰り広げられていたという――在日ファンクのリーダーでありヴォーカルの浜野謙太と、ギターの仰木亮彦の二人に話を訊く。


――『爆弾こわい』を発表してから、バンドとしては破竹の勢いで活躍していたと思うんですけど。
浜野 「『爆弾こわい』は俺が全曲書いてたんですけど、ちょっといろんなものを背負いこみすぎてたところがあって……いや、俺自身が荷を軽くしたいとか泣き言を言ったわけじゃなくて、メンバーから“ハマケンだけには任せてられない!”みたいな、クーデターのような意見が出たんですよね」
――え!? クーデター?
仰木 「ライヴの時にハマケンが背負いすぎてるっていうのは、これまでにすごくあったんですよね。かましてやりたい願望というか、最初からドカンと派手にやりたいっていう思いが強すぎて、そのくせ早くバテるみたいな(笑)」
浜野 「たしかにライヴをやるたびに、“本当はもっといいバンドなはずだ!”って反省が残ってたんですけど、それは元を辿れば俺が気負っちゃって、なんか出オチみたいにしちゃったりするからだったんですよね」
仰木 「だからライヴでそうならないためにMCも、分担して他のメンバーが喋ったりとか、徐々にハマケンの荷を軽くしていこうっていう傾向が出てきた。そういうところから今回のミニ・アルバム『連絡』の構想が少しずつ生まれたっていうのはありますね」
――これまでハマケンがリーダーとして引っ張っていくカタチだったのが、バンドとしての自立心というか、メンバー全員が、これまで以上に在日ファンクというバンドに真正面から取り組んでいく姿勢が顕著になったというか。
浜野 「そう、僕が想像していた以上に、メンバーみんなが“自分のバンド”って思ってくれてた(笑)。ただ、イメージとしては、みんなに“もっと好きにやっていいよ”って感じで任せてるわけじゃなくて、ホントはもっと自分ひとりだけでやりたかった……あまりにみんなが言ってくるから、仕方なく民主化を進めた……っていうことだは言っておきたい(笑)。ホントは許したくなかった!」
――そこはまだJ.B.的なマインドが残ってるんですね(笑)。「ブーツィーの野郎、出しゃばりやがって! クビだ!」みたいな。
浜野 「とはいえJ.B.よりは優しいですよ。だって、メンバーに曲を作らせておいてクレジットを自分の名前に変えたりしないし(笑)。その点ウチは、ちゃんとクレジットは“仰木亮彦”のままにしてあげてる」
――してあげてる、って(笑)。しかし、その絶対君主の牙城が、今まさに崩壊しつついると。
浜野 「そうそう、世相とともにね。ジャスミン革命ですよ」
――(無視して)今回の『連絡』は、ハマケン以外にも、仰木さんやトランペットの村上 基さんもソングライティングを手がけていていることもあって、これまでの在日ファンクとはまた違う側面が窺えるようで。これまでは曲のテーマ自体に劣情感みたいなコンプレックスをエネルギーにしてファンクを生み出していたとこはあったと思うけど、今やそこは通過して、別のエネルギーからファンクを発しているように思えたんですよね。
浜野 「あ、たしかにそれはそうかも。ファーストとかはコンプレックスむき出しだったかもしれないですね。でも、今回、仰木が〈嘘〉を書いてきたのは、“在日ファンクの良さって、そういうところじゃないんじゃない?”って言ってるようにも聞こえたんですよね。かといってそれがユルい曲なワケじゃないし。辛辣なところもあるし」
仰木 「〈嘘〉に関しては詞も全部自分で作ったんですけど、言葉って責任が重大っていうか、具体的に意味合いが絞られていくじゃないですか。そういう中でハマケンにどういうことを歌ってほしいかって考えたんですが、今までのコンプレックスみたいなものから出来た曲とは違うものしか僕には書けなかった。だけど、それが今までの曲と並べてみた時に案外うまくフィットしていて、歌い手のハマケンも気に入ってくれたんですよね。歌う人にとっては言葉の選択はすごく重要だから、それこそ自分自身に嘘はつけない。それを他の人が作ることで、視野というか角度というか、広がるところはあったかもしれないですね」
浜野 「最初はパンチねぇなって思ったんだけど、聴いていくうちにどんどん在日ファンクにハマっていって。僕の中で〈嘘〉は……今回のアルバムの制作中に新婚旅行でパリに行ったんですけど」
――唐突に新婚のノロケ話ですか(笑)?
浜野 「いやいや、そうじゃないんですけど、パリに行ってみて思ったのは、いろんな人種が抱える事情があると思うんですけど、街自体が美しいんですよね。みんなが一生懸命美しいものを求めて街ができているのが素晴らしいなって、漠然と思ったんです。そんなパリの街を眺めながら新しく出来たミニ・アルバムの音源を聴いてたら、ほとんどの曲は似合わなかったけど、〈嘘〉だけは合ったんですよね(笑)。だから〈嘘〉って曲は美しいんだなって思って。コンプレックスがどうとか、パンチがどうとかいう前に、“美しいじゃないかこの曲は!”って思ったんです。だから美しい曲っていうのは、渇望感がある人とか、傷を負った人とか、そういう人だけじゃなくて、仰木みたいなリア充も作れるし、リア充だって美しいものを求めて作業するっていうのは当たり前だし。音楽をやる上で根本的なところに気付かされたと思うんですよね。だから〈嘘〉は、在日ファンクの方向をいい方向に持っていってくれた曲かなって思うんです」
――ハマケンが作詞した「肝心なもんか」って曲には、〈肝心なのはこすれ合う時 / 響いてくるのが それがハーモニーさ〉っていうフレーズがあって、これ、ものすごく素敵な表現だなって思って。
浜野 「ホントですか? 実際、音もこすれ合って生まれますからね」
――そういう意味合いもあるし、この曲自体が歌詞の中に臓器の名前がたくさん出てきたりするのもあって、このフレーズを耳にした時、セックスの生々しいコミュニケーションを連想したんですけど、セックスもある意味“連絡”ですよね。“連結”でもあるけど(笑)。
浜野 「タイトル『連結』でもいいな(笑)」
――いやいやいや、今から変えないでほしいですけど(笑)。今回の『連絡』には、曲間にメンバーのトークも入ったインタールードが織り込まれた構成になってますが、この演出の意図はどんなところから?
浜野 「メンバーが書いてきた曲が集まった段階で、なんだかシッチャカメッチャカな感じがあったんですよね。“これアルバムにまとめたらどうなっちゃうんだろう?”って思って。自分ひとりで統制してるならいいけど、仰木はこんな曲書いてきちゃったし……」
――きちゃったし、って(笑)。
浜野 「村上(基)は村上で変な曲書いてくるし(笑)。でも、それを覚悟で今回のミニ・アルバムを作ろうってことにしてたから、どうにか繋げられないかなって考えて……在日ファンクもセカンド出して以降、バンド内でもいろいろあって。それはまぁ、7人もいるからしょうがないじゃないですか? そこでただ音楽性の不一致とかって(笑)、問題を簡略化したくなかったんですよね。だから、たくさんミーティングを開いて、細かいことをいちいち話したり、きちんと意見を言い合って」
――うんうん。
浜野 「中でもマネージャーと喧嘩することが多かったんですけど。マネージャーは若いけど優秀で仕事が出来るヤツなんですけど、俺がなんとなく気に入らないのは“これやっとけば及第点でしょ?”みたいに見える部分。俺らは及第点を求めてるんじゃなくて、俺らに真摯に気持ちを伝えてほしいと思ってるから、“あの人はミュージシャンだから言ってることが通じない”とか思われたくなくって。俺はすごく真剣に伝えようとしてるから、新婚旅行先からでも、マネージャーに怒りの長文メールを送りつけたぐらいで。長文でメールを書いたり、ミーティングを何度も開いたりして、なんとか伝えようと努力して。それが上手くいったのかどうかわからないけど、でもバンド内でも本当にいろいろやりとりして。ギャラの話とかも赤裸々に話してる時に、このミニ・アルバムを作ってたんです」
――実際に、激しく連絡が行き来してる(笑)。
浜野 「そう。やっぱ連絡、重要だな!って」
――そういう意味のタイトルだったのか(笑)。
仰木 「連絡って言葉の文字面だけ見ると、業務的な感じがするけど、連絡の仕方によっては愛情表現にもなるし、あたたかいものになるし」
浜野 「ジャスミン革命だってそうだよね? 連絡できたから、革命が起きたわけでしょ?」
――Twitterもやってない人が、わかったようなことを言っちゃってますよ(笑)。
浜野 「話が逸れちゃったけど、とにかく僕が言いたかったのは、インタールードも曲と曲を繋ぐ“連絡”だっていうことなんです」
――なるほどね。そんな激しい連絡の応酬から、バンドとしての新たな一歩を踏み出した在日ファンクは、今後どうなっていくと思いますか?
仰木 「ファーストとセカンドで在日ファンクってものが固まったけど、今回はそれを崩壊させたような(笑)。たしかにとっ散らかってるけど、インタールードも含めて流れになった時に、崩壊しているようでいて、実は、今までよりも表現の枠が広がったカタチでまとまってるような気がしていて。だからこれで、次のアルバムを作りたいっていう気持ちが芽生えてきましたね」
浜野 「うん、このミニ・アルバムがすごく起爆剤になって、すでにサード・アルバムに対する野望が生まれてる。今回無駄なものを出し切ったから、結構身軽になるんじゃないかな?」
――気負わず、純粋にファンクを追究できるというか。
浜野 「言葉遊びってことに偏ってもないし、ホントは社会のことを言いたいんだねっていうような、曲に込める思いもすべてひとつになって。それでいてシンプルっていう。在日ファンクってこうなんだっていうのが、今回の『連絡』でやっと少しわかったような気がします」
取材・文 / 宮内 健(2012年9月)
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