子守唄といえば、このシリーズの他にも『ほーら、泣きやんだ!』というシリーズのCDが10年にわたるベストセラーになっていたり、雑誌『Lingkaran』(ソニーマガジンズ)のプロデュースによる童謡コンピ
が話題になっていたり、伊藤ゴローのプロデュースによる『reaching series no.3 おやすみなさい』がリリースされて好評だったり……。最近では、長きにわたり歌い継がれるものだからこそ、高いクオリティで後世に残したいというコンセプトで制作される作品もあるようだ。ゆりかごを揺らすように、ゆっくりとしたテンポの子守唄。その心地よさは、子供だけでなく、大人も一緒に楽しめるものになっている。そこで、『りんごの子守唄』のシリーズを完結させた本作のプロデューサー、鈴木惣一朗に話を聞いてみた。
――赤盤・青盤に続く3部作の完結編となるわけですが、ビートルズをサカナにどんな子守唄としてまとめようと思って制作に臨んだのでしょうか。
「今回の白盤に関しては、“アフター・ザ・ビートルズ”の曲でできないかなと。ビートルズが終わった70年代の10年間、つまりジョンが死ぬまでの10年間、ぼくは強烈にビートルズを意識していたんですよ。ビートルズが4倍になったような気分でね。ビートルズ自身もビートルズを強烈に意識していた10年間だった。で、ソロ作品までも含めて“リンゴの子守唄”のシリーズを完結させませんかという提案をぼくのほうからレコード会社の担当者にしたんですよ。しかも男女混声デュオでね。でも、関連性のないデュエットはやめようと。メンタルな触れ合いが多少はないと意味がないと。お互いが好きな人は一緒にやらせる。あとは声質とか、歌のフェロモンの合う人。たとえば
(湯川)潮音ちゃんと
曽我部(恵一)くんは、お互いにリスペクトしあっていて2人ともジョンが好きだから組ませようとか」
――ビートルズ解散後の4人のソロの曲はそれこそ膨大にあるので、その中から曲を絞っていくのはかなりたいへんだったのではないですか。
「曲選びは、最初に考えたものがいろんな理由でなくなっていったんですが、最初からゆずれない曲もあった。ジョージの「Be Here Now」です。これをカヴァーした人はいないんじゃないかな。ぼくはこの曲が入っている『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』が一番好きだったんですよ。とくにB面。当時、高校のときによく聴いててね。夕暮れにかけながら寝てたりとか。レイジーだし、ミドル・テンポのものが多いし、スワンピーだけど子守唄みたいにずっと聴いていたから」
――選ばれた曲を見て、ポール派の惣一朗さんにしてはジョンの曲が多いのが意外でした。
「赤盤・青盤を作っていたときに気づいていたんだけど、ポールの曲は完成度が高くて料理できないんですよ。ジョンはどちらかというとアレンジも甘いし、コード進行も似てるから、子守唄にするとすごくいじりやすい。だからジョンを主軸にしたんです。〈Love〉で始まって〈Happy Xmas(War Is Over)〉で終わるというフォーマットは最初の段階から決まっていました。冒頭の曲と最後の曲は最初に決める主義なんですよ。アルバムを
細野(晴臣)さんと
アン・サリーという父性と母性のデュオによる〈Love〉で始めていって〈Happy Xmas(War Is Over)〉で終わるなら、中身の器はできるだろうと。〈Happy Xmas(War Is Over)〉では、今までの赤盤・青盤へのつながりを、愛でまとめようみたいな感じのすごくベタなことがやりたくなってね。ぼくの頭の中にあったのは
『ラスト・ワルツ』。あのライヴでは「アイ・シャル・ビー・リリースト」を
ボブ・ディランをメインに全員で歌うけど、それをレコーディング上でやってみようかなと。“「War Is Over」を歌ってもらえますか?”とそれぞれのアーティストに聞いたんですよ。こういう企画アルバムにしたってそれは一つのメッセージだし、ぼくはそれを歌ってほしいと。要するに感じてほしいと。ある程度具体的に歌っていかないとやっぱり伝わらないから」
――赤・青・白と3部作を完成させてみて、あらためて思うことはありますか?
「去年、ビートルズの
『LOVE』が出たときにポールがインタビューで、“ビートルズは汚いことを歌わずに、愛と平和を歌った”みたいなことを言っていましたが、その発言を聞いて、この企画の根本的なことを言われたような気がしたんです。子守唄っていうのは結局、愛と平和でしかない。『LOVE』を聴いてそれを強く実感させられましたね。こうして3枚作ってみて思ったのは、ポールは手ごわいということ。ジョンとかジョージは女性的なので母性的にララバイになりやすい。でもポールの曲は当たりが優しいのに自分でやろうとすると辛口なのが多くてね。ポールのそのマッチョなところがいいなと思ってるんですけどね」
取材・文/藤本国彦(2007年11月)
子供の頃からの音楽体験の重要性は近年では医学的にも検証され、その認識は日に日に確かなものになっている。それによって、作り手側も呼応する動きがある。“子供だけでなく、大人も楽しめる音楽と映像を……”をコンセプトに、ベビー&キッズ向け専門のレーベル、
HiHiRecords(ハイハイレコード)の発足がその最たるもの。子守唄を語る上でこのレーベルは欠かせない存在で、ベストセラーとなった『ほーら、泣きやんだ!』シリーズも本レーベルからのリリースされている。このシリーズは全タイトルを含めて、50万枚以上のセールスを記録。実用CDと考えてみたら破格のセールスだ。その驚きの効果のほどは、本レーベルの
オフィシャル・ホームページにて動画でも確認できる。そして、本レーベルから、
Kiroroの
金城綾乃もアルバム
『キロロのほーら、泣きやんだ!』を発表。本作は、彼女の人柄が表われた温かみのあるピアノが印象的な作品だ。『ほーら、泣きやんだ!』のシリーズ以外にもバラエティ豊かな作品がラインナップされているので、このレーベルの今後の展開にも注目してほしい。
■ HiHiRecordsの公式サイト :
http://www.hihirecords.com/index.phtml【CDJ.comによる 子守唄CDセレクション 】
「Love」をアン・サリー+細野晴臣、「Oh My Love」を
ハナレグミ+
原田郁子、「Imagine」を
YO-KING+
土岐麻子、「Look At Me」を湯川潮音+曽我部恵一、「All Things Must Pass」を
中納良恵+
星野源……と、ビートルズ解散後のメンバーの楽曲を男女デュエット形式で、かつ子守唄アレンジでカヴァーされた『りんごの子守唄』シリーズの最終盤。赤盤(女性編)、青盤(男性編)とあわせて聴きたい一枚。
医療法人愛育会福田病院理事長・医学博士の福田稠が考案&プロデュース、編曲&演奏を
神山純一が担当し、10年以上ベストセラーとなっている好評シリーズのベスト・セレクション。「星に願いを」や「風の谷のナウシカ」などの他に、クラシックでは定番の「モーツァルトの子守唄」や、日本のポップスでは
宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」などが収録。タイトルどおりの効果に驚きます。
雑誌『Lingkaran』とキューンレコードの共同制作による“おしゃれ”な童謡コンピの第1弾。“クオリティの高い作品を提供したい”というコンセプトの元、
ゴスペラーズ、
ナチュラル ハイ、
矢野顕子&
坂本美雨、湯川潮音、
野宮真貴、
鈴木祥子、
かの香織らが参加。シリーズ第2弾として、いしわたり淳治(元
スーパーカー)が監修に加わった、ロックな童謡コンピ
『Rock for Baby』も第2弾として発売中。
高野寛、
嶺川貴子、
ハナレグミ、
MOOSE HILL &
原田郁子、
イノトモ、
KAMA AINA、
高田漣、
内田也哉子、
エマーソン北村、
坂田学らが参加しているリーチング・シリーズの第3弾。リーチングとは、生まれた赤ちゃんが音や物に興味を示す行動のことで、本作は“新しい子守唄”をテーマに全曲が新録されている。このCDを聴いた赤ちゃんが温かい気持ちになり、“安心して眠れる”という子守唄集だ。