人気アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』のC.C.役などで名を馳せる声優として活躍している、
ゆかな。彼女が“シンガー・ソングライター”として、メジャー・レーベルからじつに10年ぶりとなるアルバム
『Blooming Voices』を発表した。本作は、ドラマやアニメの主題歌などでよくある“テーマありき”の作り方ではなく、自作自演の自由な発想で制作された“アーティスト性”のあるアルバムだ。そこで、本作から滲み出ている音楽に対する“こだわり”について彼女から話を訊いた。
「どこまで伝え切れるかは分からないけど、いま私が持っているモノ、いま私がやれる範囲で精一杯あがいたつもりです」
凛とした佇まいに、覚悟を決めたその表情。ゆかなから漂う雰囲気には、ある種のオーラが感じられた。モノを生み出す表現者としての矜持とでもいおうか……。
人気アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』のC.C.役などで名を馳せる声優のゆかなが、10月29日にアルバム『Blooming Voices』をリリースした。珍しくない有名声優の歌手活動だが、本作は、ゆかな自身にとって大きな意味を持つ一枚となる。なぜならこのアルバムは、彼女にとって10年ぶりとなるメジャー・レーベルから発売される作品だからである。
この10年というもの音楽活動はインディーズを通してやってきたというゆかなは、これまでの状況を振り返る。
「毎年のようにメジャー・レーベルからアルバム発売のオファーはいただいていたんです。たとえば“君の声にはこういう楽曲が合うからどうだろう”とか“誰それがあなたをプロデュースしたい”といったように。本当にありがたい話だったんですが、ある不安があってお断りしていたんです……」
その不安の根底には、彼女にとって決して曲げることのできない表現者としてのプライドがあった。
「以前メジャー・レーベルからCDを発売していたとき、皆さんが私に期待して下さる部分と、私が向いていたい方向に違いがあったんです。ファンの方や聴いてくれる方には“これが私の全てです”と言いたいのに、心からそう言えない。けど、人前ではそう言わなければならない。そのズレが埋めきれなくなって、自分だけで音楽活動しようと……」
作詞作曲をつとめる彼女の生み出す世界観は独特だ。静謐さと叙情感の中に、人間が生きていくための勇気や英知が語られており、メインの楽器はピアノとアコースティック・ギターといったシンプルなサウンド。そしてリズムはスロー・ナンバーかミディアム・テンポときている。身を楽に委ねてしまえば、じつに心地よい陶酔のような高揚感と、苦しみの先はある希望があると悟ることのできる楽曲だ。しかし、非常に秀逸な作風であるが、売れることを前提には作られていない。そのギャップこそが、彼女がメジャーを離れた理由でもあった。
「これが私の世界観で、これしかできないと悟ったんです。ただ今回は、私のやりたいことを“そのままやりましょう”と声をかけていただいて、タイミングや縁を感じてやらせてもらいました。全体のテーマは、強いて言うなら歌詞の中にも出てくる“枯れてもまた咲く”といった、自分自身を映し出したものが含まれているかもしれません」
メジャーへ再進出した思いまでが、この作品には投影されているというわけだ。
全12曲中6曲はインディーズ時代含め過去のメジャータイトルや提供楽曲。残り6曲は書き下ろし。彼女は作詞作曲にとどまらず、アレンジや使用楽器の選定、またブックレットやジャケットのイメージまで、アルバムに関するほとんどのことをプロデュースした。つまりは、彼女にしか表現できない世界観が溢れている。完璧なる、ゆかなのエンタテインメントの世界と言えるだろう。
「歌だけではなく、曲だけではなく、すべてがトータルで作品であって。リスナーの方に私の魂を分かりやすく感じ取ってもらいたいなら全てに気を遣うべきだと思うんです。やるならば、すべての責任を自分で背負いたいですから」
ハンパではないこの誇りと覚悟。しかし、この作品のクオリティは素晴らしく、彼女の発言どおり聴く価値のある作品だ。
■ゆかなオフィシャル・ページ/StarChild:
http://www.starchild.co.jp/artist/yukana/取材・文/石塚 隆(2008年10月)