ショーン レノン キメラ・ミュージックを語る

ショーン・レノン   2009/02/18掲載
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 ショーン レノンが、自身のレーベル“キメラ・ミュージック”を設立。レーベル・コンピレーション盤『Chimera Music Release No.0』を発表し、コーネリアスのメンバーや母オノ・ヨーコなどとともにお披露目ライヴを日本で行なった。そんなショーンに、レーベルとライヴを中心に話を訊いた。




――そもそもコーネリアスとのコラボレーションは、どんな流れで実現したのでしょうか。

 「僕は『ファンタズマ』のころからコーネリアスの大ファンで、いっしょにやりたいという思いは、ずいぶん昔からあったんだ。自分で言うのはちょっと気がひけるけど、たぶんコーネリアスもずっと僕のファンでいてくれているような気がしていてね。僕の『イントゥ・ザ・サン』は『ファンタズマ』と出た時期が近いし、ジャケットも両方オレンジ色が入っていて似ているし、曲のコード進行なども含めてどこか同じテイストをもったアルバムだなと思っていた。しかも2人ともビーチ・ボーイズのファンだったり……。偶然だけどね。ただ、いつどこで何をやろうかっていうきっかけがなくてさ。それが、あらきゆうこさんと清水ひろたかくんが本田ゆかさんのバンドに入ってくれたことからコーネリアスとも近い関係になることができ、何度か会って食事をするうちに友達にもなれて、今回彼が〈You Feel Right〉のリミックスをやってくれたことから一気に物事が動いていったんだ。彼らとやれて、とても光栄に思っているよ」


――レーベルのアーティストが一堂に会してパフォーマンスを披露するという今回のライヴのアイディアは、どんなところから生まれたのですか。

 「昔、モータウンがやっていたスタイルがいいんじゃないかなと思ってね。バンドは固定されていて、歌手が次々に登場するという。その形をキメラ・ミュージックでも取り入れられたらいいんじゃないかなと思ったんだ。キメラは小さいレーベルだしね。リハーサルはすごくたいへんだったけど、お客さんもバンドも、見るものがどんどん展開していって、変化があって、いままでにはない楽しみ方ができるショウになったと思うよ」


――日本との関わりがますます深くなってきましたが……。

 「日本で活動したいという思いは以前から強かったんだ。僕には日本人の血が半分流れているし、日本は第二の故郷のように感じている。日本のことが大好きなんだ。でも、意識的にというよりも、川の流れに乗ってきたらここまできたっていう感じ。去年、HONDAのテレビ・コマーシャルの仕事をやったり、IF BY YESの本田ゆかさんがコーネリアス・グループのあらきさんや清水くんとバンドをやるようになったり、また日本の出版社から僕の絵本(講談社刊『ちょうどいいほん』)が出ることになったりしてね。こういうのを英語では“星が並んだ”って言うんだけどね」


――いろんなアーティストがメジャーを離れ、ショーンさんのようにインディ・レーベルを作ったりインディに移籍したりという傾向がどんどん強まっていますが、そのような動きについてはどう思いますか。

 「とても自然な流れだと思う。音楽がデジタル化され、大きなレーベルに所属していないと音楽が作れないような時代ではなくなったんだ。本や絵だとまだ難しい部分もあると思うけど、僕のように自分のやりたい音楽を自分のやり方でやっていきたいアーティストは、インディ・レーベルのほうがしっくりくるんだよ」




V.A.『Chimera Music Release No.0』
1. The World Was Made For Men(THE GOASTT)
2. ASK THE ELEPHANT!(YOKO ONO PLASTIC ONO BAND)
3. You Feel Right(Cornelius Remix)(IF BY YES)
4. Rainbow In Gasoline(THE GOASTT)
5. You're Something Else(IF BY YES)
6. Hamlet's Theme(Sean Lennon)
7. Small Talk(Kemp and Eden
8. Smoke & Mirrors(Sean Lennon)
9. If By Yes(IF BY YES)
10. Papership(Kemp and Eden)
11. Elsinore(Sean Lennon)
12. Come Here Chimera(Sean Lennon
13. CALLING(YOKO ONO PLASTIC ONO BAND)
14. Freed(Sean Lennon)

――『Chimera Music Release No.0』には、ヨーコ・オノ/プラスティック・オノ・バンド名義で母親のオノ・ヨーコさんも参加していますが、プラスティック・オノ・バンドが久しぶりに復活したのには何か理由があったのですか。

 「(ちょっと迷いながら)本当のことを言っていいのかな……。今回のコンピレーション・アルバムがある程度完成してきたときに、母に聴いてもらったんだ。そうしたら、“複雑な要素もあるし、不思議な感覚も入っていて、とてもショーンらしい素晴らしい作品だと思うわ”と誉めてくれたんだけど、ひとつだけ“このレコードにはエネルギーが足りない”と指摘してくれた。で、“そのエネルギーは私なら出せるわ”ってね。母は僕のことをよく知っているから、ここは助けたほうがいいと判断したんだろうね。このコンピレーション盤にプラスティック・オノ・バンドが入っていなかったら、たしかに物足りないものになっていたし、母が参加したことによって完璧なものになったと思うよ。でもこれにはちょっと面白い話があってね。実は、母が参加してくれると言ってくれたのは、アルバムのミックスの3日前だったんだ。“明日レコーディングするから、ミュージシャンとスタジオをすぐに押さえて”って急に電話で言われて、時間がないので僕はもうすごくあわてちゃってさ。たまたまスタジオが空いていてなんとかレコーディングができたんだけど」


――ライヴのアンコールでは、プラスティック・オノ・バンドの往年の名曲「ドント・ウォリー・キョーコ」も披露されましたね。

 「あれは、母と一緒に決めたんだよね。リハーサルをあまりやらなくてもすむ曲だから(笑)。いつも冷静な清水くんがあんなにエキサイトしてベースを弾く顔を初めて見たよ(笑)」


――両親の音楽を聴いて影響されたところはありますか。

 「もちろん。両親の音楽はたくさん聴いてきたよ。というより、僕はそのほかにもいろんな音楽を聴いてきたけどね。僕には作曲モードのときと聴くモードのときがあって、聴くモードのときにいろんな音楽を吸収し、作曲モードのときには吸収したものが出ていくんだ。最近は作曲モードに入っているので、家ではあまり音楽は聴いていないけど、今よく聴いているのはラジオから流れるクラシック。とくにシャワーを浴びているときに聴くことが多いかな。今作っているのは、これからキメラ・ミュージックからリリースする作品用の曲だよ。でも、映画用に音楽を作ってくれと誰かに依頼されれば、それ用に作ることになるかもしれないけどね」


――“ご両親”が作った曲の中でとくに好きなものがあったら教えてください。

 「父の曲だったら〈ストロベリー・フィールズ(・フォーエバー)〉かな。母の曲では(しばし考える)〈デス・オブ・サマンサ〉か〈グリーンフィールド・モーニング〉……迷うところだけど〈グリーンフィールド・モーニング〉かな。どっちも“フィールド”という言葉が入っているから(笑)。僕は“フィールド”という言葉が好きなんだ」


――ところで、自分の声があまり好きではないと以前に言っていましたよね。

 「僕はギターやピアノやベースやドラムは自分でも上手にできると思っていて、自信もあるんだけど、歌だけはどうしても自信がもてないんだ。下手だとは思っていないけど、自分で納得がいかない感じがあるんだよね。僕の好きなシンガーも、テクニックで聴かせる人たちじゃないけどさ」


――日本語は上達しましたか。「スコシダケ」と前に言っていましたが。

 「まだ残念ながら、あんまり上達していないんだ。言語学習教材ソフトのロゼッタストーンっていうコンピュータに入れるプログラムを買ったので、シャーロットといっしょにアメリカに帰ってから勉強しようと思っているよ」


――今テレビで流れているHONDAのCMでショーンさんが喋っている“ちょうどいい”っていう言葉は、今年の流行語大賞になるかもしれませんね(笑)。

 「はやったらいいな。素晴らしい考え方だと自分でも信じているので」


――レーベル・コンピレーション盤がまず発売されましたが、キメラ・ミュージックの今後の予定についてはいかがでしょうか。

 「自分たちのバンドだけで7枚のアルバムを出すことがすでに決まっているので、まずは目の前のアルバムからやっていこうと思っている。基本的に僕と本田ゆかさんとシャーロットを中心とした4〜5人の小さいレーベルなので、それだけでもたいへんな作業だけどね。将来、アーティストの数を増やしていけたらいいな」



取材/竹部吉晃・藤本国彦
構成/藤本国彦
撮影/高木あつ子
取材協力:クッキーシーン



キメラ・ミュージックとは?


 キメラ・ミュージックは、ショーン レノン、本田ゆか、シャーロット・ミュールの3人を中心に2008年9月に設立された新レーベルで、「3人の信じる高い価値観を、あらゆるメディアで発信し続けること」を目標として掲げている。キメラ(Chimera)とは、生物学で1つの体内に2つ以上の異なった遺伝子を持った状態を指す言葉で、ギリシャ神話の伝説の生物(ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ娘、または半獣半人)が語源だそうだ。

 所属アーティストはショーン レノン、ショーン レノン&ヴィンセント・ギャロ、THE GOASTT(ショーン レノン&シャーロット・ミュール)、IF BY YES(本田ゆか、ペトラ・ヘイデン、あらきゆうこ、清水ひろたか)、Kemp and Eden(シャーロット・ミュール&イーデン・ライス)、ヨーコ・オノ/プラスティック・オノ・バンドの6組。2009年1月に発売されたレーベル・コンピレーション盤『Chimera Music Release No.0』には、ショーン レノン&ヴィンセント・ギャロ以外の6組の演奏曲が収められている(ボーナス・トラックとして、ショーンによるHONDA CM曲「Freed」も収録)。



    



『ちょうどいいほん』とは?



 これまでにも音楽だけでなく、絵を描いたり、映画に出演したりと、表現・創作活動を幅広く行なってきたショーンが、初の絵本『ちょうどいいほん』を出版。キメラ・ミュージックのお披露目ライヴの数日後に、ちょっとした記者会見が行なわれた。

 絵本は、森に住む主人公の2匹のうさぎが、“幸せ”とは何かという答えを求めて物知りな猫と会話を交わしているうちに、“ちょうどいい”に気づくという話。
「これからの時代、我慢したり贅沢したりするのではなく、“ちょうどいい”が生きていく上での選択肢として機能するんじゃないかな」とショーン。昨年、HONDAのCM撮影の際にコピーライターの照井晶博氏とその話をしているうちに意気投合したショーンが、照井氏の書いた文章に、ユニークなウサギや猫を描いて完成したのだという。絵はホテルに1週間こもって仕上げたそうで、「毎日6時間ぐらい描き、描いた絵を部屋の壁に貼って、並びを考えていった」のだという。『ちょうどいいほん』には、ショーンが描いた鉛筆画が18点掲載されている。ちなみに、なぜウサギが主人公かというと、「ウサギ年生まれで、子供のときに僕はウサギだと思っていたから」とのこと。
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