あらゆるジャンルの音楽家たちが、日本の童謡/唱歌に新たな息吹を吹き込み、未来を担うこどもたちへと受け継いでいくプロジェクト『にほんのうた』。“春のうた”をテーマにした最新作
『にほんのうた第三集』でも個性豊かな11組のアーティストが集結し、思い思いのアプローチで“にほんのうた”を編んでいる。今回の特集では発起人である
坂本龍一たっての希望により今作に参加することとなったシンガー・ソングライター、
加川良に話を訊いた。1971年のデビュー以来、全国津々浦々を旅しながら、自らの理想とする音楽を追及してきた彼が、今作への参加を通じて気付かされたという新たな発見とは──。
「童謡や唱歌にはゴスペルなんかに近い力があるなって感じましたね」
●加川良インタビュー
「僕にとっての音楽っていうのはね、音楽を聴こうとしてないときに、たとえばパチンコ屋、食堂、喫茶店などで、ふっと耳に入って“えっ、誰これ?”って思わせてくれるもの。メロディが良いとか言葉が綺麗だねっていうのが基本的には大事なことかも知れませんけど、僕にとってはそういうものが音楽なんです」
“うたとギター”を携えて、毎年日本中を旅するシンガー、加川良が言う“音楽”には――日本の童謡、唱歌に新たな息吹を吹き込み、未来を担う子どもたちに受け継いでいくプロジェクト――『にほんのうた』もひとつの例として含まれるだろう。先ごろ第三集がリリースされた同シリーズでは、これまでに
コーネリアス、
キリンジ、
あがた森魚、
大貫妙子、
八代亜紀、
ヤン富田、
アン・サリー、
原田知世、
おおはた雄一、
遠藤賢司などなど、ジャンルも世代も超えた音楽家たちが賛同し、思い思いの“にほんのうた”を編んでいる。
「
第一集、
第二集を聴いた時はカルチャー・ショックでしたね。童謡とか唱歌をこういう感じでやるアルバムが出てるんだって、聴いてて嬉しかったですよ。“遊ぼうぜ!”っていう意味合いの音をみなさんが作っておられてたんで、すごく感激しました。こういうことをやってる人がいるってことで、今の日本の音楽も捨てたもんじゃないって思いましたし、ちょっとドキッとさせられましたね」
第三集には、
小川美潮、
SANDII、
ショーン・レノン、
ううあ(UA)、
真城めぐみ+
片寄明人+
木暮晋也、
曽我部恵一、
吉田美奈子、
ムッシュかまやつ+
竹村延和、
bird、
浜田真理子、そしてプロジェクトの発起人である坂本龍一直々のご指名で加川も参加。ジャズ・ピアニストの
山下洋輔とコラボレーションし、“♪お〜て〜て〜 つ〜ないで〜”でおなじみの「靴が鳴る」を披露している。
「今回参加させていただいて知ったのは、このうたのタイトルが〈靴が鳴る〉だったってこと。〈おててつないで〉だと思ってましたから(笑)。それに、二番まであるとは知らなかった(笑)。それはともかくとして、参加させてもらうということで、改めて歌詞を見ていくと、これは決して子供目線で作ったうたではないってことが分かりましたね。これを作ってるのは大の大人、それこそ海外の音楽も勉強してきたような大作曲家と大詩人で、本当に子供のために作ったのかっていえば、童謡/唱歌といえども大人のためのうたのように思えましたね。言葉やメロディをどんどんシンプルにしていった結果、行き着くところあの世界にいっちゃったっていうか、だからものすごく奥の深い世界なんですよね。童謡っていうと鼻歌で歌うようなイメージがあるじゃないですか。でも、完璧に作られている」
どんどんシンプルに――それは、キャリア40年近くを誇る彼自身の音楽にリンクすることでもあるようだ。
「それは望むところではあるんですけどね。最終的にドラムもベースも何もいらないっていう世界は憧れですよ。バンドの世界も好きなんですけど、究極、僕にとってのロックっていうのはそういうものだと思ってます。それこそ“うた”だけで何万人もの人たちが揺れる音楽ってあるわけですよ。たとえばゴスペルとかね、スタジアムのステージにおばあさんが出てきて、マイク一本でひと声歌いだしただけで何万人もの人が揺れる。彼女が息絶え絶えで歌っても、聴いてる人にはドラムやベースの音みたいなものが聞こえてくるわけで、現実にそういうものがあるわけですよ。これがロックの究極。僕にはその力がないから、ドラムやベースやギターの力を借りて、まあ、演じてるようなものですね。そういう意味では、童謡や唱歌にはゴスペルなんかに近い力があるなって感じましたね。だから、今回の『にほんのうた』も“丸裸”な気持ちで参加させてもらいました」
取材・文/久保田泰平(2009年4月)
●ライヴ・レポート
〈『にほんのうた第三集』リリース記念スペシャル・ライヴ at 月の湯〉
文京区目白台にある月の湯は、今ではめっきり少なくなった唐破風造りの銭湯。番台、籐の脱衣かご、高い天井、壁の描かれた風景画(定番の富士山)、和風庭園を模した中庭(ここで風呂上がりにやるフルーツ牛乳が格別)は、まさに旧き良き日本の庶民的風景。そんな趣きのある場所で、『にほんのうた第三集』のリリースを記念したライヴ・イヴェントがおこなわれた。出演は
加川良と
曽我部恵一。演者だけを照らす照明などあるわけもなく、銭湯営業時と同じ灯りのもと、はじめは照れ臭そうな雰囲気もあったが、徐々にこの“裸の付き合い”的な空間に演者も客もリラックスさせられて。それはもう、湯につかりにくるたびに顔を合わせるご近所さんと「今日は暑かったねえ」「最近ちょっとこのへん(おなか)がヤバくって」みたいな対話をするような感覚とでも言おうか。ふるまわれたお菓子&有機ほうじ茶 or 日本酒をたしなみながら、まさに湯につかるようなのんびりとしたひととき。加川さんが「靴が鳴る」を歌うとき、
「最近そういえば、手をつないでないなあ」と言ってたけれど、ここ月の湯では、うたを通じて演者と客がお互いの体温を肌身で感じることができたんじゃないだろうか。結構な長湯でのぼせそうになっちゃったけど。
取材・文/久保田泰平(2009年4月)
●第二回『にほんのうた』コンサート開催決定!メール予約受付中!
日時:5月16日(土曜日) 16:30〜(開場は開演の30分前)
出演:bird/真城めぐみ+片寄明人+木暮晋也/吉田美奈子
場所:玉川高島屋S・C アレーナホール
料金:大人5,000円(税込)/中学生以下2,000円(税込)/6歳以下無料
※料金は当日受付にてお支払いください。
※3歳以下は座席がございません。予めご了承ください。
<申し込み方法>
本人及びご同伴者の住所・氏名・年齢・電話番号を明記の上、下記アドレスへメールにてお申し込みください。
uta@commmons.com
締切:5月3日(日曜日)24時まで
締切後1週間以内に当選の有無をご連絡致します。
※応募多数の場合、抽選となります。
※締め切り日以降のお申し込み、当日券の有無については『にほんのうた』公式サイトを都度ご確認下さい。
オフィシャルホームページ:
http://www.nihonnouta.net