レイヴの影響下にあるケミカルな蛍光色からスパッと切れそうなほどのシャープなブラック・カラーへ。気がつけば、海外の音楽シーンは
THE HORRORSを筆頭に黒の色彩が目立つようになってきた。局地的には80年代に一世を風靡した英国のゴシック・レーベル、4ADの再評価、そしてトリップ・ホップ・リヴァイヴァルも囁かれている昨今、暗闇では何かが動きつつあるようだ。そんななか日本の音楽シーンに、闇に魅せられた平均年齢22歳の恐るべき子供たちが登場する。アルバム
『CHARM』を携えてやってきた彼らは
PLASTICZOOMS。10代でゴシック・シーンに身を置いていたルーツを持ち、数年前にロンドンでそのリヴァイヴァルといえる新しいムーヴメントを目撃した
カジヒデキをプロデューサーに迎えた彼らが、そのカジヒデキと共に“NU-GLOOM”と呼ばれる闇へと通じる新しい扉を今ここで開ける。
僕らにとって一番魅力的な色は黒なんですよ。暗い、とかじゃなく、すごく美しく感じるんです。(Sho/PLASTICZOOMS)
──まずはじわじわ高まりを見せているダークなゴシック・ミュージックの現状や背景についてお聞きしたいのですが。
──THE HORRORSの影響は?
カジ 「それはもちろんありますよ。1stアルバム
『Strange House』(07年)の与えた衝撃も大きいんですけど、そのリリース後に彼らがロンドンでも始めた〈THE CAVE CLUB〉っていう月イチのパーティでシンパが増えていったっていう。でも、THE HORRORSって、ゴスだけじゃなく、ヴォーカルのファリスなんかは60'Sのガールズ・ポップとかフレンチ・ポップ、ガレージだったり、サイケなんかもDJでかけたりするし、そういうところに集まった人たちの中からIPSO FACTOみたいな新しいバンドが出てきてるっていう。IPSO FACTOなんかはスタイリッシュで、ゴスの要素もありつつ、それだけでは括れないバンドなんですけど、そういうバンドが生まれるロンドンの新しい音楽シーンに立ち会って、1、2年前はものすごくエキサイトしていたんです」
──ゴスっていうと、ザ・キュアーだったり、シスターズ・オブ・マーシーだったりっていう代表的なバンドがいるわけですが、今のゴスはそのリヴァイヴァルっていうことではなく、ダークな色彩を基調に、音楽的には、いろんな音楽要素のミクスチャーなんですよね? カジ 「そうなんですよ。そういう意味ではゴスって言葉が当てはまらなくて、NMEなんかではNU-GLOOM(新しい憂鬱)って呼ばれていたりもしているんです。実際、ゴシックだったり、ポジティヴ・パンクの影響をモロに感じるバンドっていなかったりして。例えば、初期の
オレンジ・ジュースや
モノクローム・セット、あとC-86だったり、
カンみたいなクラウト・ロックや
スーサイドみたいなNYパンクだったり、いろんなものを取り入れようっていう好奇心旺盛さがあって、僕はPLASTICZOOMSにも同じものを感じますね」
Sho 「僕らの場合、今あるもので満足できなかったり、人と違うことが好きだったり、そういうところで使命感を持って音楽を作っているんですけど、どんどん掘り下げていって、
アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンだったり、
バースデイ・パーティや
ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズだったり、そういう人たちの昔の映像をYouTubeで探して観たり、MySpaceでも新しい音楽を探して聴けるし、そういうネット環境は大きいですね」
カジ 「僕もノイバウテンは好きで聴いてたし、ライヴも観に行ったりしたんですけど、80年代は情報が極端に少なかったから映像も観られなかったですからね。そういう意味で想像をかき立てる神秘性は薄れてしまうかもしれないけど、映像から視覚的な刺激を感じられると思うし」
Sho 「ノイバウテンは(ヴォーカリスト)ブリクサの存在がカッコイイし、〈Autobahn〉の金属をガンガン叩いてる映像とかホント衝撃的でしたからね。僕の場合、アートワークだったり、ルックスも含めて、トータルで格好よくないと惹かれないんです。例えば、
ジョイ・ディヴィジョンがTシャツでやってたら聴かないですよ(笑)。でも、イアン・カーティスがいて、後に
ニュー・オーダーを結成するメンバーがいて、ピーター・サヴイルが手掛けたアートワークがあってっていう、そういう全部をひっくるめてのジョイ・ディヴィジョンだと思うし」
──ファッションに関してはいかがですか?
カジ 「例えば、イースト・ロンドンから出てきた
リバティーンズ周辺のパンクが好きな子たちはファッションとも繋がっていて、
ピート・ドハーティなんかはファッション・アイコンでもあるし、みんな貧乏で靴はボロボロなんだけど着てるものはいいものだったり、2003年くらいからインディーズ好きな子たちはすごくお洒落になっていって、そこで音楽シーンが変わったなって。そういう意味でいうと、新しいゴスのシーンはその流れのなかにあって、みんなスタイリッシュなんですよ」
Sho 「僕らにとって、一番魅力的な色は黒なんですよ。暗い、とかじゃなく、すごく美しく感じるんですね。それからアイ・メイクしているバンドも昔から好きで、例えば、デヴィッド・ボウイだったり、THE MADっていう70'Sのパンク・バンド(特殊メイク界のカリスマ、
スクリーミング・マッド・ジョージが結成したホラー・パンク・バンド)、あと、
ジ・アドヴァーツの女性ベーシスト、ゲイ・アドヴァーツ、あと、
セックス・ピストルズの親衛隊にいたキャット・ウーマンだったり。そういう人たちに影響を受けて、今の形になっていったんです」
Nah 「私はリバティーンズがちょうど流行ってた頃、ロンドンにいたんですけど、その頃、インディーズ・シーンにいた人たちに影響を受けつつ、もともとゴシックなものが好きなので、選ぶものは黒が多かったりしますね」
──ということは、音楽同様、ファッションもグラム・ロックやパンク……そういういろんな要素のミクスチャーなんですね?
Sho 「そうですね。ラメを使いたい時もあるし、目の周りを思いっきり黒くしてやろうっていうところもあるし、影響を受けたところからどんどん取り入れてミックスして、今に至るんですけど、そういう意味では今後もどんどん変わっていくと思いますね」
ゴスを聴いてきたことが何かに反映されることは今までまったくなかったんだけど、まさかこういう形で役に立つとはね(笑)(カジ)
──カジくんはブリッジでデビュー以前の80年代中期はポジティヴ・パンクのシーンにいたわけですけど、当時と比較すると、今の感覚は全然違うものなんですか? カジ 「ゴスだったり、ポジティヴ・パンクが流行った1983、4年頃、僕は高校生だったんですけど、当時のシーンはグラム・ロックやパンクの流れを汲んで生まれたもので、みんな化粧を頑張っていて、僕も外に出る時は薄くても絶対メイクしてたしね(笑)。ファッションも黒を基調にしつつ、とにかく派手でバラエティに富んでいたし、新しいものを取り入れようとしていたんです。そういう意味では共通点も多々ありつつ、新しさももちろんあって、ロンドンでそういうネオ・ゴスのシーンに触れて、実はゴスっぽいデモを何曲か作ってたんだけど、そういうバンドが日本にもあるといいなと思って帰ってきたら、すぐにZOOMSと出会って。世代もだいぶ違うし、最初はどう話したらいいんだろうって思いつつ(笑)」
Sho 「僕らはカジさんのこと知ってましたからね。小学生のとき、『笑っていいとも!』のテレホン・ショッキングに出てたカジさんがパンクの話をしてたの覚えてますもん」
カジ 「ははは。でも、僕は高校生の頃、バースデイ・パーティが一番好きだったんだけど、同世代の友達ともそういう話って意外とできなかったりして。でも、その話がZOOMSのみんなとはできるし、そういう経験は新鮮ですよね。今までゴスを聴いてきたことが何かに反映されることは、まったくなかったんだけど、それがまさかこういう形で役に立つとはね(笑)。だって、そういうゴスのレコードは一時期封印して、奥の方にしまっておいてたんだけど……」
Sho 「僕らのレコーディングではそういうノイズのレコードを持ってきて、“こういうノイズはどうかな?”って、いろいろ聴かせてくれて」
カジ 「今回、2曲でプロデュースをやらせてもらったんですけど、ZOOMSはノイズを出すことに執着心があって。綺麗に作るのはいくらでもできるけど、汚すのはすごく難しかったりして。そういう部分に対するこだわりを感じましたね」
Sho 「カジさんはゴシックだったり、黒の美学をよく知ってて、聴いている音楽もほとんど一緒だし、年の差を気にせず、ノイズを出すときに“いいんじゃない?”って言葉が聞けて、僕らもうれしかったです」
──そういう意味でカジヒデキとPLASTICZOOMSは黒の色彩感覚とノイズを接点に、世代を超えて繋がったと。
Sho 「僕にとっては黒が一番落ち着く色だったりして、どうしても惹かれてしまうし、それが曲やデザインに反映されているんです。ノイズってことでいえば、みんな、それぞれの人生があって、何かを感じながら生きていると思うんですけど、僕の場合、悲しみや苦しみの感情がクリエイティヴィティに繋がっていて、それが作品のノイズとなって現れているんです。ノイズってホントは入れちゃいけない音だと思うんですけど、それもまた僕らのキャラクターだと思っているので」
──その一方で無菌的なクリーンさや明るさばかりが不自然に強調されている日本の音楽シーンについてはどう思われますか?
Sho 「そういう意味では、みんなにダークなものに対する免疫はないでしょうし、それを僕らが作っていかなきゃなって思っていますね。“こういうものが美しいんだよ”っていう提示だったり、そういう音楽やファッション、アートを僕らから発信すること。それがこのバンドでできたら幸せだなって。例えば、“このバンドの写真を撮りたい”って思わせること、それはカメラを始めるってことだし、“デザインをやってみたい”って思わせるようなアートワークを提示すること、もちろん音楽にしても同じで、“バンドをやってみたい!”って思わせる新しいサウンドを作り出したいですね。僕らにしたって、ギターのShuちゃんも、ベースのNahちゃんも楽器できないのにZOOMSに入って、フェイクも何もなしでちゃんと自分たちでやったから、今こうして活動しているわけで、そういうミラクルがあるんだよってことを分かってほしいし、何かを始めたいと思っている人たちの原動力になればいいなって思うんです」
カジ 「僕の場合、ダークなものがルーツにはあるんだけど、特にソロに関しては、出来るだけ陰りがないというか、天然色の音楽を作ろうって、ある時期に決めたんだよね。だから、時々、そういうダークなものを作りたいなって思う時もあるんだけど、それが上手く出せるかどうか難しかったりもして」
Sho 「じゃあPLASTICZOOMSのライヴでカジさんヴォーカルやってくださいよ! もちろんバースデイ・パーティ時代のニック・ケイヴばりの超シャウトで(笑)。ヤバいっすね、それ。超見たいですよ」
取材・文/小野田雄(2009年6月)
ゴス・メイクで妖しく歌うカジくん。こちらはPLASTICZOOMSと対バンしたときの貴重な写真。当日はバンド、VIOLETTAを引き連れての出演。メンバーはHideki“Garachia Gelsomina”Kaji(vo)、Shinya“Hicksville”Kogure(g)、Tatsuki Hashimmoto(b)、Hideki“Gen” Hara(ds)。
(2008年11月21日/『BLUE BOYS CLUB』@原宿 ASTRO HALL)
【PLASTICZOOMS ライヴ・スケジュール】PLASTICZOOMS、1stアルバム『CHARM』ポス
ター。デザイナーはTHE HORRORSのアート
・ディレクションも手掛けているCiaran O'Shea。
〈Haunted Mansion〉7月17日@東京・渋谷Organ Bar/2,000(1D)
<DJs>
●Twee Grrrls Club with neoboy!
●SHINGOSTAR (ODDJOB RECORDS)
●Roger Yamaha (TURNTABLE LAB TOKYO/MOONWALK RECORDS)
●She Talks Silence
●Plasticzooms
●Yakk
●YO!HEY!! (Threepee Boys/ODDJOB RECORDS)
〈MIGHTY POP〉8月1日@東京・渋谷Chelsea Hotel/2,500
〈6EYES presents KNOW U WHITE〉8月22日@愛知・sakae CLUB EDITS
●6EYES
●ZYMOTICS
●PLASTIC ZOOMS
●DJ substance
●DJ haision
どんな色を足そうとも黒は黒のまま変わらない。じわじわと勢力を拡大しつつあるゴシック・インディーズを探っていくと、ブラック・カラーに溶かし込まれた、さまざまな音楽要素を見て取ることが出来る。その象徴がこのシーンの顔役にして、2005年に登場したTHE HORRORSだろう。ロカビリーやガレージ、パンクやノーウェイヴを黒く塗りつぶしていた彼らは、今年5月に発表した2nd作
直系のスタイリッシュなガールズ・バンド、IPSO FACTOを輩出。また、再評価の波が押し寄せる英国のゴシック・レーベル、4ADからはダブ・ステップとシューゲイザーの影響を受けたデュオ、
が、アメリカ・ミシガンからはクランク・ヒップホップとサイケデリックなゴシック・ロックを溶かし合わせた3人組ユニット、SALEMが登場。ダンス・ミュージックさえも飲み込みこむ底なし沼のようなシーンからは他にも