松本隆 作詞活動40周年特集「風街再訪」

松本隆   2009/12/09掲載
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 はっぴいえんどからスタートした作詞活動が今年で40周年を迎えた松本隆。それを祝して、1999年に発表されたCDボックス『風街図鑑』に収録されなかった楽曲を新たに選定した2枚組CDボックス『新・風街図鑑 1969-2009』が12月9日に発表されました。また当時、7枚組ボックスとして発表された『風街図鑑』も、『風街図鑑 〜風編〜 1969-1999』『風街図鑑 〜街編〜 1969-1999』という3枚組ボックスCDに分かれ、装いも新たに再登場。

 先鋭性と普遍性というアンビバレンツな要素を内包した松本隆独自の歌詞世界=“風街”は、時代という名の酸性雨に晒されても、決してその輝きを失うことなく、常に多くのアーティストやリスナーを魅了してきました。今回の特集では、安田謙一氏による『新・風街図鑑』のガイド的エッセイと、風街住民へのアンケートを通じて、40年の長きにわたり、住民登録希望者が引きも切らず訪れる、理想都市・風街の魅力に迫ってみたいと思います。



『新・風街図鑑』に寄せて


 『新・風街図鑑』。なんだか早いなーと思ったけど、『風街図鑑』から気が付けばもう、ほぼ10年経っているのでした。職業作家としてのデビュー作とされるチューリップ「夏色のおもいで」が73年。ということは、職業作詞家、松本隆のキャリアはすでに35年を越えています。特に作詞家といえば時代に寄り添うことを強いられる職業。まさに驚異としか言いようがないです。

松本隆 『風街図鑑』が出たのは99年。圧倒的なヴォリュームを持つ70〜80年代の作品に比べると、90年代の作品が極めて少ないことに、正直、現役作詞家としてやるべきことはやった……と意識的にギアを下げているような印象も受けました。そんな勝手な見方を見事に裏切ってくれるのが『新・風街図鑑』に収録された00年代の新曲の数々。

 中川翔子の熱望に応え書き下ろした「綺麗ア・ラ・モード」(作曲は筒美京平)、自作「ガラスの林檎」を入れ子にしたKAYO「三つ編みヒロイン」(作曲は細野晴臣)、惚れこんだペ・ドゥナへの“当て書き”パーランマウム「ビーズ細工」、今だからこそ普通に求められるティン・パン・アレー的編曲の快感を伴った中島美嘉「CRESCENT MOON」、オリジナル・ラヴ「夜行性」、堀込泰行畠山美由紀ハナレグミ「真冬物語」、藤井隆「代官山エレジー」、畠山美由紀「罌粟(けし)」、冨田ラボ「眠りの森feat.ハナレグミ」という流れの官能美、クミコ「接吻」、「ちょうちょ」のプログレッシヴな詞表現、さらに自身が立ち上げたインディ・レーベル“風街レコード”からのキャプテンストライダム「風船ガム」などなど、フラットな風景をデフォルトに描くゼロゼロ世代の心情に松本隆の詞世界がまったくナチュラルに求められていった結果の集積です。それぞれ本来なら“大御所”の仕事と呼ばれてもおかしくないのですが、いずれの曲にも“お金の匂い”が一切しないことが松本隆の凄さのひとつだと改めて思い知らされました。

 ちょうど『新・風街図鑑』に先駆けるように松本隆の詞によるKinKi Kidsの新曲「スワンソング」が発売されましたが、『新・風街図鑑』も彼らへの提供曲「薄荷キャンディー」で始まります。歌詞の「飴玉 持ってないかな? / これが最後なの」にグッときました。漫画のコマ割りのような会話の切りかえし。松本隆の“こういう部分”に敏感になったのは、ほかでもありません。大瀧詠一の(『新・風街図鑑』には太田裕美ヴァージョンで収録)「さらばシベリア鉄道」の歌詞が、太田裕美「木綿のハンカチーフ」と同じように男女のセリフで構成されていることに気づかずに、友人に馬鹿にされた経験があるからです。最初の「悲しみの裏側に……から……あなた以上冷ややかな人はいない」までは女性の、しかも手紙の文面、という構成なわけです、言われてみれば。その時はつい「僕は近視、行間を読み取れない」と返答しましたが、松本隆のこれまた凄いところは、こういうテクニックを、するっと聴かせてしまうところ。つまり「言われてみれば」が真骨頂なワケです。

 ……さてさて。関西在住の名物編集者、ガンジー石原が33年前に書いた曲に「ふろいろ」というのがあります(09年に出たデビュー・アルバム『人間はカトリセンコウ』に収録)。「ふろいろ」は彼が生まれ育った兵庫県播州地方での「風呂に入ろう」という方言。だけど父親の世代で絶えつつある言葉は、当時高校3年生の彼の耳には「風呂色」としか聞こえず、限りなく松本隆的な言葉として響いたのでした。最後に『風街図鑑』にも『新・風街図鑑』にも関係ないけれど、09年、強烈に松本隆を感じた話でお別れいたします。

09年11月30日 安田謙一(ロック漫筆)



『風街図鑑 〜風編〜 1969-1999』
CD3枚組ボックス(MHCL-1641〜3 税込6,600円)
“ザ・グレイテスト・ヒッツ”
活動30周年記念 69〜99年にベストテンに入った作品から本人の選曲による50曲を収録。

『風街図鑑 〜街編〜 1969-1999』
CD3枚組ボックス(MHCL-1644〜6 税込6,600円)
“マイ・フェイヴァリット・ソングス”
活動30周年記念 69〜99年の作品、約2,000曲から本人の愛着のある50曲を収録

『新・風街図鑑 1969-2009』
CD2枚組ボックス(MHCL-1647〜8 税込4,400円)
『風街図鑑』に収録されなかった曲と99年以降の曲から本人の選曲による34曲を収録。


風街住民調査
あなたが選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”は?






安藤裕子が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「Woman “Wの悲劇”より」薬師丸ひろ子
安藤裕子松本隆さんというとどうもバンド時代に私の場合行き着いてしまう。それは衝撃でもあり確信でもあったから。日本語の持つ空寒さをぶち壊す語感の持ち主だと思ったのだ。
そして気がついた。子供の頃、お姉ちゃん達と大合唱していた歌謡曲の多くを松本さんが綴っていた事実に。正直「謀ったな! 松本隆!」、そう思わざるをえない能力の幅の広さを感じる。きっと彼には見えるんだろう。配列されるべき言葉の数々が。そして思惑通り人々はその言葉を脳裏に焼きつける。思いの丈をツラツラと並べるだけでは作詞にはまったくもってならない。まあ偉そうによくも御託を尽くしましたが、私が言いたいのは松本隆はスゲエということ。そして私の心の師ということでございます。


Profile:
透明感あふれる歌声で人気を博すシンガー・ソングライター。2003年7月にミニ・アルバム『サリー』でデビュー。2005年、CMソングに起用された「のうぜんかつら(リプライズ)」が話題を呼び、2006年発売の2ndアルバム『Merry Andrew』がスマッシュ・ヒットを記録。2007年には3作目『shabon songs』を発表。2008年5月、シングル「海原の月」「パラレル」を収録した4作目『chronicle.』を発表する。2009年に発表したベスト・アルバム『the best 03’〜09’』も好評。最新作は2009年11月に発表したシングル「Paxmaveiti(ラフマベティ)-君が僕にくれたもの-」。
■安藤裕子 オフィシャルサイト:
http://www.ando-yuko.com/


いしわたり淳治が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「外は白い雪の夜」吉田拓郎
いしわたり淳治果たしてこれがベスト1なのかと問われると、そうではない気もするのですが、だからといっていくら考えたところで順位など決められないだろうから、今日は、今日はという言い方も変ですが、今この瞬間、何が聴きたいかなと考えたときに最初に思いついたのが「外は白い雪の夜」でした。曲の中に、昭和の男と女の美学が“真空パック”されたようにいつまでも新鮮なまま保存されているな、という印象で好きな曲です。この曲は魔法のように一瞬でできあがった曲だという話を聞いたことがあります。その意味でも、物作りのいちばん美味しい瞬間が“真空パック”されている曲なのだと思います。


Profile:
1997年にロック・バンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。アルバム7枚、シングル15枚を発表し、全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家、音楽プロデューサーとして活動するかたわら、雑誌等への執筆も行なっている。サウンド&ワーズ・プロデュースを手掛けた“S.R.S”のシングル「ワンダーソング」(トイズファクトリー / 写真)、また作詞で参加した原田知世のアルバム『エイヤ』(EMIミュージックジャパン)が好評発売中。
■いしわたり淳治 オフィシャル・ブログ:
http://kihon.eplus2.jp/


高橋啓太(オトナモード)が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「いつか晴れた日に」山下達郎
高橋啓太現在一番のお気に入りは「いつか晴れた日に」。
松本さんの作詞だと知ったのはごく最近だけれど、出会いは中学の頃。
「雨は斜めの点線 ぼくたちの未来を切り取っていた」。はじまりの一節にドキッとした。
あの頃の僕は、幼さから少し先に進み、自分とまわりとが切り離されてゆくことが嬉しくもあり、不安でもある思春期の真っ只中でした。この曲の持つ孤独の匂いがとても美しくて、中学生なりに“独り”を知ってゆくきっかけになりました。
「あの頃の少年に逢おう」。現在とても好きなのは、サビの終わりにリフレインされるこの詞。
不安定に揺れるあの頃の僕と今も向き合っています。


Profile:
5人組バンド、オトナモードのヴォーカル&アコースティック・ギター。2008年2月に、シングル「風になって」でメジャー・デビュー。2ndシングル「グライダー」がトヨタ“アイシス”のCMソングに、3rdシングル「グリーン」が、映画『パンダフルライフ』」の主題歌に大抜擢され注目を浴びる。2009年5月、初のフル・アルバム『Watercolor』をリリース。松本隆が詞を提供した最新コラボレーション・シングル「雨色」に続き、松本隆の楽曲をカヴァーしたトリビュート・アルバム『雨の色 風の色』(写真)を2010年1月20日にリリース予定。
■オトナモード オフィシャルサイト:
http://www.otonamode.net/


かせきさいだぁ≡が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「卒業」斉藤由貴
かせきあいだぁ≡松本先生の歌詞で一番好きなのって聞かれても、順位をつけたことがないのでわからない。最近、聴きたくなって聴いたのが、斉藤由貴の「卒業」。自分のまわりが変わってゆく切なさを歌ったのは太田裕美の「木綿のハンカチーフ」と同じだが、斉藤由貴の「卒業」の方が、女の子が凛々しい。それをあの“ぽよ〜ん”とした斉藤由貴が歌うもんだから、そのギャップがいい。「♪あぁ〜卒業し〜きで〜、泣かない〜と〜、冷たい人〜と見られそう、でももっと〜悲しい〜瞬間に、涙はとって〜おきたい〜の〜」。YouTubeで見たら、ちょっと泣いてしまった。松本先生の詞の行間の地層は、青くて冷たくて、何層にも何層にもなっている。だから何度聴いても飽きない。


Profile:
ラッパー、文筆家。1995年、アルバム『かせきさいだぁ』をインディーズで発表。ワタナベイビー(ホフディラン)とのユニット、“Baby&CIDER≡”、いとうせいこう、DUB MASTER Xらとの“THE DUB FLOWER”などでも活動。ミュージシャン以外にもエッセイや漫画『ハグトン』の執筆など多彩な活動を展開している。2008年にメジャーでのオリジナル・アルバム『かせきさいだぁ』(1996年 / 写真)、『SKYNUTS』(1998年)が再発。また最近は、バンド“ハグトーンズ“をバックに、かせきさいだぁ≡としてのライヴ活動を再開。Baby&CIDER≡のライヴは12月24日静岡CLUB FOUR。かせきさいだぁ≡&ハグトーンズのライヴは2010年1月23日高円寺HIGHにて。
■かせきさいだぁ≡ オフィシャルブログ:
http://www.europe-studio.net/kasekicider/


桜井秀俊(真心ブラザーズ)が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「蒼いフォトグラフ」松田聖子
桜井秀俊松田聖子さん歌唱の「蒼いフォトグラフ」を挙げさせていただきます!
確かTVドラマ『青が散る』のオープニングテーマであったかと。石黒賢さん、二谷友里恵さん、川上麻衣子さん、広田レオナさん、etc…。そうそうたる役者陣による青春群像。ユーミンをして「乙女」と言わしめる氏の甘酸っぱさ全開の本作品。作曲はそのユーミンすなわち呉田軽穂。加えて歌唱は聖子ちゃん! 奇跡のメンバーの奇跡の一瞬を切り取った歴史的名作。半ズボンの頃の俺が一丁前に青春気分にひたったものです。恋って、つらいよね。
そして、40を過ぎた今もあの頃を卒業できません。


Profile:
真心ブラザーズのギター&ヴォーカル。1989年にYO-KINGと真心ブラザーズ(当時はTHE 真心ブラザーズ)を結成。同年、シングル「うみ」でメジャー・デビュー。2009年にデビュー20周年を迎え、8月5日にコンセプト・ミニアルバム『タンデムダンディ 20』、9月2日にはグッデスト・アルバム(※ベスト・アルバム)『GOODDEST』(写真)をリリース。11月から全国ツアー『THE GOODDEST TOUR』をスタート。ツアー・ファイナルは12月27日の東京・中野サンプラザ公演。
■真心ブラザーズ オフィシャルサイト:
http://www.magokorobros.com/


土岐麻子が選ぶ“松本隆 心のベストテン第1位”
「木綿のハンカチーフ」太田裕美
土岐麻子幼い頃から知るとはなしに知っていた、あまりにも有名なこの曲。
ヒットしたのは私が生まれる前だったので、いつもうろ覚えで出鱈目に歌っていたが、大人になって歌詞を最初からきちんと読んでみて驚いた。 
コンパクトなポップスの形態をとる一曲のなかで、こんなにもドラマチック。
どこにでも誰にでもあるようなないような、はかなくてせつない恋の話。
男女の交わす言葉だけで表現される無常感……。誰が悪いわけでもなく、そこにあるのはただ大きな時間の移り変わり。
それを太田裕美さんのような明るくて可愛らしい声の持ち主に提供するなんて、確信犯!

 うーん、泣かせ上手です。


Profile:
Cymbalsのリード・シンガーとしてデビュー。04年の解散後『STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う〜』をリリースし、ソロ活動をスタート。07年rhythm zone移籍第1弾アルバム『TALKIN'』でメジャー・デビュー。翌年、本人出演が話題となったユニクロTV-CMソング「How Beautiful」がスマッシュ・ヒットを飛ばす。多数のアーティストのレコーディングへの参加、また50社以上にわたるCM音楽の歌唱やナレーション、TV、ラジオ番組のナビゲーターを務めるなど、声のスペシャリストとしてのキャリアも持つ。今年8月には、それらの集大成的アルバム『VOICE〜WORKS BEST〜』(写真)をリリースし、これまで以上に精力的な活動で強い存在感を放っている。12月22日(火)浜離宮朝日ホール、12月24日(木)渋谷duo MUSIC EXCHANGEにてクリスマス・ライヴ開催!
■土岐麻子 オフィシャルサイト:
http://www.tokiasako.com/
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