デビューから5年間の成果を2枚のCDに詰め込んだ
木村カエラのベスト・アルバム
『5years』。この作品に限らず、彼女の過去作品やライヴからは、バンドを中心とした先鋭的なクリエイターたちに対する愛情や敬意、そして、それを受け止め、楽しみながら作品を作り上げているクリエイターたちの姿が浮き彫りになっている。10代でファッション・モデルとしてキャリアをスタートさせた彼女が、2000年代という時代のアイコンへと登り詰めたのは、自身がanimoというバンドで活動を行なうほどに、音楽を愛し、その感性を磨いていたからに他ならない。
1stアルバム『KAELA』発表時(2004年)
なかでも、2004年の1stアルバム
『KAELA』で「あの頃」と「誰」のソングライティングとプロデュースを手掛け、その後のシングル
「リルラ リルハ」を大ヒットに導いた
FOEの
會田茂一はポップでありながら、重厚なギター・ロック・サウンドを作り上げたという意味で初期・木村カエラ作品の功労者といえるだろう。また、彼と親交が厚い
Curly Giraffeこと
高桑圭は2ndアルバム
『Circle』収録の「tea cup」と4thアルバム
『+1』のタイトル曲を手がけているばかりか、Curly Giraffeのアルバム
『Thank You For Being A Friend』に木村カエラをフィーチャー。また同じく會田と同じ現場に立つことが多い、キーボーディストの
堀江博久も『Circle』収録の「I
hug」を提供しているばかりか、彼女がヴォーカリストとして参加した
サディスティック・ミカ・バンドのアルバム
『NARKISSOS』とライヴを共にしている。
3rdアルバム『Scratch』発表時(2007年)
また、その後の活動ではライヴでギターを担当している
Asparagus、渡邊忍の存在が大きくなってゆく。2006年のシングル
「YOU」で初めて作詞 / 作曲、アレンジを手がけると、
「TREE CLIMBERS」、
「Yellow」、
「どこ」、そしてベスト・アルバム収録の新曲「You bet!!」まで、ポスト・エア・ジャムといっていいパワー・ポップの進化形を木村カエラの作品世界に持ち込んでいる。ライヴでは、彼に加え、同じくギターで
the HIATUS /
FULLSCRATCHのmasasucks、ベースで
SCAFULL KING /
BRAZILIANSIZEの4106、キーボードでkowloon / stimの中村圭作、そして、ドラムで
toeの柏倉隆史ら、実に歯ごたえのある面々が参加。彼らは90年代の渋谷系と呼ばれる音楽を支えてきた會田や堀江、高桑らに続く次世代の敏腕プレイヤーであり、そんなフレッシュな面々が木村カエラのレコーディングやライヴを支えていることは特筆すべきだろう。
5thアルバム『HOCUS POCUS』発表時
(2009年)
上記の2本柱に加え、2005年の4thシングル
「BEAT」では所属事務所の先輩である
奥田民生が作曲とプロデュースを担当。この作品は奥田の10周年に絡めた映画『カスタムメイド10.30』の主題歌にして、彼女自身が主役を務めるという話題も振りまいた。また、
Perfumeをいち早く支持するなど、ダンス・ミュージックにも興味津々な彼女は2008年のシングル11作目
「Jasper」で
石野卓球にプロデュースを依頼。テクノ・ポップを歌ってみせたかと思えば、6thシングル
「Magic Music」ではLA在住のケヴィン・ドットソンによるソロ・プロジェクト、
Linus of Hollywoodの海外仕様なポップ・チューンでその歌声を咲かせた。さらに8作目の
「Snowdome」は
BEAT CRUSADERS、12作目の
「マスタッシュ」はフリー・ジャズ・ロック・バンド、
NATSUMENのAxSxE、2009年に配信限定で発表されたシングルの「Butterfly」(アルバム
『Hocus Pocus』収録)は末光篤のピアノ・ポップ・ユニット、
SUEMITSU & THE SUEMITHと、積極的にコラボレーションを行ないながら、最新シングル
「BANZAI」ではアルバム
『jupiter jupiter』でメジャー進出を果たしたばかりの3人組バンド、
avengers-in sci-fiに作曲、アレンジを依頼。アルバムにおいても、
クラムボンの
ミトと
MO'SOME TONEBENDERの藤田勇というコロムビアのレーベル・メイトや
bloodthirsty butchersの吉村秀樹と田渕ひさ子、
くるりの
岸田繁などによる提供曲がさらりと収録されている。
ベスト・アルバム『5years』発表時(2010年)
彼女のこうしたチャレンジングな試みは、しかし、ただチャレンジしているだけでなく、素晴らしい歌唱力を通じて、楽曲を自分のものにし、さらには多くのリスナーに届けている点こそが素晴らしい。また、彼女の音楽が参加クリエイター紹介の場としても機能しており、その影響は計り知れないものがあるだろうし、最新最良のプロダクションこそが支持される海外のメジャー・フィールドとは異なり、セールスの増加に反比例するかのように保守化していく日本の音楽シーンにあって、フレッシュなポップ感を振りまく彼女の存在は突出して見せるのだろう。恐らく、彼女の挑戦はベスト・アルバム以降も変わらず続くだろうし、木村カエラの個性は今後ますますアンプリファイされ、ラウドに、そして、ポップに響いていくのではないだろうか。
文/小野田雄
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