【特集】高嶋ちさ子×池谷裕二 presents 『ベイビー・ブレイン・クラシック』

高嶋ちさ子   2010/02/24掲載
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 音楽ファン、とくにクラシック・ファンの中には、我が子に早いうちからよい音楽を聴かせて、“音楽を愛する人”に育ってほしいと願うパパ・ママが少なくないことでしょう。実際、“親と子のためのクラシック”をテーマにしたアルバムがたくさんリリースされていますが、その中でひときわ興味深いのが、2月24日にリリースされる『ベイビー・ブレイン・クラシック』。ヴァイオリニストの高嶋ちさ子と気鋭の脳神経学者、池谷裕二との共同プロデュースにより、脳科学的な根拠を踏まえて選曲された、いわば“お墨付き”の親子向けクラシック・コンピレーション・アルバムです。

 2人の男の子(3歳と生後9ヵ月)の子育てに奮闘中の高嶋ちさ子へのインタヴューや、実際に親子で聴いてみた“体験レポート”などを交えながら、当アルバムの効果のほどを検証してみましょう。


【Interview】高嶋ちさ子




――お兄ちゃんは3歳。可愛い盛りでは?
高嶋ちさ子(以下、同) 「もう、毎日が対決です。“騒いでもいいかな”っていう空気を少しでも嗅ぎつけると、ほかの子以上に騒ぐ。そうかと思うと、今日も歯医者さんに連れて行ったのですが、黙って先生の言うことを聞いて褒められたり。この間もロサンゼルスから12時間、飛行機の中でずっと静かにしていられたんですよ。空気が読めるというのか。かなりの心構えをしないと、ヤツには敵わないです(笑)。でも、私もあのくらいの歳の頃、お行儀が悪くて電車にも乗せられなかったというから仕方ないか」
――なにか楽器は弾かせている?
 「長男は目下まったく音楽に興味なし。子ども用のヴァイオリンも買ったんですけど、“この楽器は自分から母親を奪うもの”という感覚があるみたい。でも今回、池谷先生に“脳は経験が大事”と教わったので、童謡からベートーヴェンから、とにかくいろんな音楽を聴かせ始めました。次男のほうが長男よりは音楽に反応してるのですが、うれしい半面、将来どうするんだろうなんて心配したり。目標は、ヴァイオリンとチェロ、五嶋龍くんとヨーヨー・マみたいな兄弟に育てて、お母さんは左うちわというのを狙ってるんですけど(笑)」
――その池谷先生と一緒にプロデュースした子ども用のクラシック・アルバム。制作のきっかけは?
 「雑誌の対談で初めてお会いしたのですが、先生が相当なクラシック通で。それじゃあCDを、ということになりました。だから先生もバリバリに選曲してますよ。私のあまり知らない曲もありました。超マニア。『めざましクラシックス』の相方の軽部(真一)アナウンサー並み! 音楽に対する脳の反応って、ごく最近になってわかってきたことが多いんですって」
――子どもが興味を持つ音楽というのは、脳科学的に実証されているのでしょうか?
 「生まれたばかりの赤ちゃんが認識できる音楽は、最初はリズムだけらしいんです。リズムには生後2日目から反応するとか。だから今回のアルバムの1枚目(0〜3歳の子ども向け)は、速いテンポの曲というのが選曲の基準です。リズムが際立つ民族系の楽曲も入れたりしました」
――けっこうマニアックな曲も入ってますよね。
 「はい。ちょっとひねりをきかせてコープランドとか。大人でもあんまり聴かないじゃないですか。でも結局、自分の好きな曲が多いかな。子どもと親が一緒に聴きながら、“馬がぱかぱか歩いてるね”とか“鳥が飛んでるみたいだよ”とか、会話ができるようにもなっています」
――高嶋さんご自身も、幼い頃から音楽を聴いて育った?
 「親に聴かされました。毎週日曜日の朝に必ず聴いて、感想を言わされるんです。それがすごく嫌で。でもすぐに、“朝陽が昇ってくるみたい”とか、何でも自然にたとえると親が喜ぶというコツがわかったり(笑)」
――では、教育熱心な家庭だったと。
 「とても厳しかったですよ。玄関に靴を2足以上出しっぱなしにしていると、捨てられました。忘れもしない、中1の時、新品のナイキを捨てられたんです。今思い出してもくやしい!」
――すると、自分の子供にもやはり厳しくなる?
 「家では“恐怖政治”って言われてます(笑)。ダンナはもともとおっとりしているので」
――今回のアルバムの2枚目は、パパ・ママのための選曲ですね。
 「疲れた時にリラックスできる音楽をというコンセプトです。人間の脳は、30秒あればリラックスできるらしいんですよ。だから30秒以内にツボにはまるメロディが出てくる曲ばかりを選びました」
――同じ子育て中のママたちに“癒し”でエールを、というわけですね。
 「子育てが、びっくりするぐらい大変だってよくわかりました。責任があるし、ちゃんとやらなきゃなりませんよね。私も長男が生まれた時には、もう一生、夜はちゃんと寝れないのかと思って絶望的になりましたけど、いつまでも続くわけではない。それがわかったので次男の時はずっと楽です。子育ても自分の人生の中では短い期間。つらいけど、永遠じゃないと思って頑張って楽しむしかない!」
取材・文/宮本 明(2010年1月)
撮影/関 暁


【体験レポート&曲目紹介】
 2歳の男の子のお母さんである音楽評論家、室田尚子さんに『ベイビー・ブレイン・クラシック』を実際に親子で聴いてみたレポートを交えながら、聴きどころをナビゲートしていただきました。

『ベイビー・ブレイン・クラシック』
(COCQ-84765〜6 税込2,940円)
<Disc.1>
【リズム!リズム!リズム! 0歳〜3歳のお子様へ】
01. 狂詩曲「スペイン」 (シャブリエ)
02. キャンディード序曲 (バーンスタイン)
03. 歌劇「ウィリアム・テル」〜序曲/スイス軍の行進 (ロッシーニ)
04. 剣の舞 (ハチャトゥリアン)
05. 道化師のギャロップ (カバレフスキー)
06. 「動物の謝肉祭」〜終曲 (サン=サーンス)
07. バレエ音楽「ロデオ」〜ホーダウン (コープランド)
08. 組曲「展覧会の絵」〜卵の殻をつけた雛の踊り (ムソルグスキー)
09. アンダーソン・メドレー:プリンク・プレンク・プランク!〜サンドペーパー・バレエ〜舞踏会の美女〜ワルツィング・キャット〜シンコペーテッド・クロック〜ブルー・タンゴ〜そり滑り (アンダーソン/美野春樹編)
10. スーホの白い馬 (チ・ボラグ/上田益編)
11. ひばり (デニーク)
12. リベルタンゴ (ピアソラ)
13. 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」〜第4楽章 (ドボルザーク)
14. ヴァイオリン協奏曲ホ短調〜第3楽章 (メンデルスゾーン)
15. 歌劇「ルスランとリュドミラ」〜序曲 (グリンカ)
16. バレエ組曲「火の鳥」〜魔王カスチェイの凶悪な踊り/終曲 (ストラヴィンスキー)
<Disc.2>
【30秒でリラックス〜子育て中のパパ・ママにも】
01. 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜間奏曲(マスカーニ)
02. バレエ組曲「スパルタクス」〜スパルタクスとフリーギアのアダージョ (ハチャトゥリアン)
03. 弦楽セレナーデ〜第3楽章 エレジー (チャイコフスキー)
04. 劇音楽「ロザムンデ」〜間奏曲 (シューベルト)
05. 歌劇「タンホイザー」〜序曲 (ワーグナー)
06. グリーンスリーヴスによる幻想曲 (ヴォーン・ウィリアムズ)
07. 過ぎた春 (グリーグ)
08. ピアノ三重奏曲第1番〜第1楽章 (ブラームス)
09. ピアノ四重奏曲変ホ長調〜第3楽章 (シューマン)
10. 悪魔のロマンス (ピアソラ)
11. 「レクイエム」〜ピエ・イエズ (フォーレ/千住明編)
12. ピアノ協奏曲第2番ハ短調〜第2楽章 (ラフマニノフ)
13. ピアノ協奏曲第1番ホ短調〜第2楽章 ロマンツェ (ショパン)
14. 交響曲第5番〜第4楽章 アダージェット (マーラー)


 キャッチコピーにもなっているが、この手の“母子モノ”の定番であるモーツァルトが1曲も入っていない選曲が面白い。実際に子育ての現場にいる高嶋ちさ子でなければできなかっただろう。そう、子育てが“理論”どおりにいかないように、音楽の楽しみ方も“理論”より“感覚”によるところが大きい。

 Disc-1は子どもの脳をリズムで育てる、というコンセプト。わが息子は2歳半になり、常に動き回っているので、残念ながら“ママと一緒に音楽聴きましょうね”などといううるわしい情景は展開されなかったが(笑)、おそらく企画者もそんなことは意図してはいまい。むしろ、日々の生活の中でこのCDを流すことで、自然に子どもの脳に刺激を与えるということなのだろう。そんな息子が唯一反応したのはハチャトゥリアン「剣の舞」(M4)。バレエ『ガイーヌ』の最終幕で、クルド人が剣をもって踊る戦いの踊りの曲だ。最近、戦隊モノにハマり見えない敵を相手に日々剣を振り回している彼ならではの反応! やはり、高揚するリズムは子どもにもわかりやすい。Disc-1は“リズム”というポイントで選曲されているので、たとえばバーンスタイン「キャンディード序曲」(M2)や、コープランドのバレエ音楽『ロデオ』からの「ホーダウン」(M7)といった20世紀の作品も並ぶ。また、アルゼンチン・タンゴの革命児といわれるピアソラ「リベルタンゴ」(M12)や、中国の馬頭琴奏者チ・ボラグの「スーホの白い馬」(M10)といういわゆる“クラシック”以外の曲もある。たしかに、子どもの脳を育てるのにクラシックでなければならない理由はあるまい。いや、むしろ民族的な音楽の方はよりDNAに働きかけるとも考えられる。

 Disc-2の方は“子育てに奮闘するパパ・ママが、聴いた直後に神経を緩められる”といううたい文句通り、静かで内省的な曲が並ぶ。まずのっけから、マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲(M1)という天上的な美しさをもった曲で泣かせる。私自身、連日“魔の2歳児”の相手で身も心も疲れ果てたところだったので、なおさら心にしみた。ブラームスのピアノ三重奏曲第1番の第1楽章(M8)から、シューマンのピアノ四重奏曲変ホ長調の第3楽章(M9)へと続くところは、室内楽という、クラシックの中でも“マニア向け”なジャンルの曲にもかかわらず、素直に曲の美しさに浸ることができる。さらにそこからピアソラ「悪魔のロマンス」(M10)に続く流れは、音楽の“よさ”をカラダで実感している人でなければ思いつかなかった選曲といえる。

 実際、このCDが子どもの脳の成長にどういった効果をもたらすかは未知数だと思う。子育てをしていると、とかく“目に見える”“素早い”効果を求めがちだけれど、私たちはロボットを作っているのではないのだ。また思い通りにいかないからこそ、子どもは面白い。植物に水をやるように、子どもたちの心に音楽という水がしみこんでいけば、いつか必ず、水をやっている親が想像もしなかったような花を咲かせるに違いない。その日を楽しみにしながら、このCDを日々のBGMのひとつに加えてみたいと思う。
文/室田尚子


【コンサート情報】
高嶋ちさ子 バギーコンサート
4月11日(日) 東京・東京ミッドタウン

<ホールA>
コンサート形式(約60分)/絵本読み聞かせ(約10分)
1回目 12:30開演
2回目 15:00開演
3回目 17:30開演
<ホールB>
トークショー形式(約20分)
1回目 14:00〜14:20
2回目 16:30〜16:50
トークゲスト:池谷裕二

※詳細は高嶋ちさ子オフィシャル・サイトへ。
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