SUPERCARのメンバーとしてデビューし、05年のバンド解散以降は、作詞家 / 音楽プロデューサーとして活躍している、
いしわたり淳治と、元
電気グルーヴのメンバーで、現在はサウンド・クリエイター / プロデュースとして活躍する
砂原良徳が、このたび新ユニット“いしわたり淳治&砂原良徳”を結成! しかも1stシングル
「神様のいうとおり」には、いまや引く手あまたの、
やくしまるえつこ(
相対性理論etc.)をヴォーカリストとしてフィーチャーするなど、のっけから話題尽くしの、このユニット。百戦錬磨のふたりが目論む狙いとは一体……?
このタイトルを聴いて最初に思ったのは、果たして日本のポップス / 歌謡曲に“神様”と名のつく曲はいったいどれくらいあるのか、ということだ。ここに紹介するいしわたり淳治と砂原良徳による新たなユニットのデビュー作「神様のいうとおり」は、アニメ『四畳半神話大系』のエンディング・テーマとして制作されたものである。そのことを置いても、いしわたり淳治は“神様”という、例えば「マジック(=魔法)」と同じくらいのポップスにおけるクリシェを用いることの危うさを自覚しているのではないか。
いしわたりは全楽曲の歌詞を手がけた自身のバンドSUPERCARが解散したのち、プロデューサーそして作詞家として活動を続けてきた。
9mm Parabellum Bullet、
チャットモンチーといったバンドたちとがっぷり四つに組んだ作品群を聴けばお解りのとおり、彼はアーティストのポテンシャルをリスナーのほんの少し先へ誘う才腕を持つ。手っ取り早い先入観をするりとくぐり抜ける丁寧な言葉選び、そして深い理解から生まれるアーティストの勢いを殺さない音作りは、そのほんの少し先、というところに意識的であるがゆえなし得るのだと思う。
一方、くだんのSUPERCAR
「BGM」以来のいしわたりとの共演作となる砂原は、2001年のソロ・アルバム
『LOVEBEAT』を頂点とし、脱俗的なまでに緻密にエレクトロニック・ミュージックの方法論をストイックに追い求めてきた。2009年映画『ノーボーイズ、ノークライ』のサウンド・トラックとして久方ぶりのソロ・アルバム
『No Boys, No Cry Original Sound Track Produced by Yoshinori Sunahara』を発表したことは記憶に新しい。その主題歌としてプロデュースを行なった元SUPERCAR中村弘二の
iLL「Deadly Lovely」は、音楽を聴くことに対し、根本の部分から聴き手を揺さぶりをかけかねないほどのストイックなサウンド・メイキングを、高揚感溢れるポップ・ミュージックとして昇華させた楽曲であった。
ふたりは新たなユニットの門出となるシングル「神様のいうとおり」で相対性理論のやくしまるえつこをヴォーカリストに起用した。3枚のアルバムと、ジャンルを縦断し繰り広げられるソロ・アクト、そして“無表情でアンニュイな毒気”でシーンの寵児となった彼女に対し、いしわたりは自嘲的な女の子の本音を綴った正攻法のリリックで対抗することを選び、また砂原も一聴してそれと解る音の解像度とリズムの“間”を持つトラックにより、J-POPをフレーミングし直すことに成功している。百戦錬磨のこのふたりで継続されるユニットならば、これまでのプロデューサー・チームの範疇を超えた表現を続けざまに期待したいし、それがJ-POPシーンにさらなる異化作用となることを願わずにはいられない。「神様のいうとおり」はその発火点となるに十分な作品だ。
そして彼らの盟友である
石野卓球と
川辺ヒロシによる
InKにも匹敵する、ふたりのアイディアの交換から発せられる自由闊達な波動がダイレクトに楽曲に結びつくようなプロジェクトであってほしいというのは欲張りすぎだろうか。「Version Z80」というそのまんまなサブ・タイトルのつけられた、ゲーム・ミュージックなヴァージョンのほほえましさは、その片鱗のような気がしてしようがないのだ。
文/駒井憲嗣