【CDJournal.com 10th 特別企画】にわかに注目を集めるアジアン・レアグルーヴの世界

2010/07/14掲載
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 一部のワールド・ミュージック / 民族音楽マニアの間でしか聴かれてこなかったアジアのローカル音楽に対して、ゼロ年代以降、新たな光をあてようとする動きが、一部のレーベル / コンパイラーの間で起きている。今回の特集では、にわかに盛り上がるアジアン・レアグルーヴに焦点を当てて、めくるめくディープなその魅力に迫る。タイのレアグルーヴDJ、マフト・サイの貴重なインタビューも必読!
取材・文 / 大石 始


 タイやインドネシアなどアジア各国を旅した経験のある方であればご存知のとおり、この地域には実にさまざまな音楽文化が息づいている。それは素朴な楽器を使った伝統音楽の場合もあれば、その地域の内部に向けてのみ量産される超ローカルな大衆音楽の場合もあるが、いずれのケースでも共通しているのが、国外においては一部のワールド・ミュージック / 民族音楽マニアの間でしか聴かれてこなかった、ということである。

 ゼロ年代以降、こうしたアジアのローカル音楽に対して新たな光をあてようとする動きが、一部のレーベル / コンパイラーの間で起きている。それまでのワールド・ミュージック / 民族音楽的なアプローチとは異なるその“掘り起こし作業”は、90年代のレアグルーヴ・ムーヴメントの延長上にあるものと言うこともできるし、かつてのモンド / スカム趣味の21世紀的な形と考えることもできるかもしれない。

 ここではそうした音源を復刻しているレーベル / コンパイラーを紹介しながら、思いっきりディープなアジア音楽の世界へと皆さんをご案内しよう。


V.A.
Cambodian Cassette Archives:
Khmer Folk & Pop music Vol.1

(Sublime Frequencies)
 まず、こうしたムーヴメントを牽引しているのがシアトルのレーベル、Sublime Frequencies(サブライム・フリークエンシーズ)だ。主宰者のアラン・ビショップは、世界各地の秘境音楽をも呑み込んだ破天荒なロック・バンド、サン・シティ・ガールズの元メンバー。このレーベルではイラクやシリア、エジプト、モロッコなどアラブ圏の珍妙音楽も積極的に掘り起こされているが、本稿的にはアジア圏に対する執念深いディギンに注目したい。シンガポールの60年代ポップス集『Singapore A-Go-Go Vol.1』、カンボジアの大衆音楽集『Cambodian Cassette Archives : Khmer Folk & Pop music Vol. 1』のほか、ラオス南部やベトナム北部の少数民族が奏でるサイケデリック民族音楽集、さらにミャンマーやスマトラのラジオ番組をランダム・ミックスした珍音源集などがそのカタログにラインナップされている。また、タイ音楽に関してはこれまで数種の音源がリリースされており、モーラムやルークトゥンといったタイの地方音楽もまとめて聴くことができる。


OST
Sound Of Wonder!
(Finders Keepers)
 また、もうひとつの重要レーベルがアンディ・ヴォーテル主宰のFinders Keepers(ファインダーズ・キーパーズ)だ。このアンディはバッドリー・ドローン・ボーイの作品などをリリースしてきたレーベル、Twisted Nerve(ツイステッド・ナーヴ)の主宰者であり、自身名義の音源もある人物。彼のレア / ストレンジ趣味を前面に押し出したラインナップは、超B級SFサントラや鬼マイナーなサイケデリック・ロックなどマニアックなものばかり。なかでも本稿的にはセルダやムスタファ・オズケント、エルセンらトルコのアシッド・ロック・コレクション、もしくはパキスタン映画のサントラ『Sound Of Wonder!』に注目。また、このファインダーズ・キーパーズはDJフレンドリーなレーベル・カラーも特徴で、同レーベルの音源を使用したガスランプ・キラーのミックスCD『All Killer : Finders Keepers 1-20 Mixed』もオブスキュア・ミュージック愛好家から絶賛された。


V.A.
All Killer:
Finders Keepers 1-20 Mixed

(Finders Keepers)
 そのほか、LAのカンボジアン・ロック・バンド、デング・フィーヴァーがコンパイルしたカンボジアのガールズ・ポップス・コンピ『Dengue Fever Presents Electric Cambodia』や、クメール・レコーズのカンボジアン・ロック集数種など、各レーベルからサイケデリックなローカル音楽が次々にリイシューされているのが現状だ。

 なお、お隣の国、韓国の歌謡ファンク音源も少しずつリイシューされており、筆者が今年の4月にソウルを訪れた際は数種のリイシュー作品を手にすることができた。同地のレコード店オーナーによると、日本人など外国人コレクターがこぞってこの手のオリジナル音源をディグしまくっているそうで、現地のアナログ価格も高騰気味だとか。また、ソウルのレアグルーヴDJのなかには自国のサイケ歌謡をヒップホップ・マナーでミックスする人物も登場しつつあり、DJソウルスケープのミックスCD『More Sound Of Seoul』などは“ガスランプ・キラーに対する韓国からの回答”とも言うべき内容となっている。このミックスはかのクァンティックが自身のウェブで紹介したことによって、早くも一部で話題を集めているとか。日本の和物DJのように、韓流レアグルーヴも今後盛り上がりを見せていくかもしれない。




【アジアン・レアグルーヴ注目の5枚】
選:大石 始


V.A.
Singapore A-Go-Go
(Sublime Frequencies)
サブライム・フリークエンシーズのアジアものはおかしなものが多いが、60〜70年代のシンガポール・ポップスを集めた本作も凄い。東洋サイケデリアなサウンドに乗って脱力モノの女性ヴォーカルが響きわたる異形のゴーゴー・サウンド。ジャケもナイスです。


V.A.
B-Music :
Drive In, Turn On, Freak Out
(Finders Keepers)
ファインダーズ・キーパーズのこの看板コンピ・シリーズはどれも必聴だが、今作は寺内タケシとブルージーンズ「壇ノ浦」を収録している点で重要か。選曲を手掛けているのはアンディ・ヴォーテルの右腕でもあるドム・トーマスで、各国の珍曲がズラリと並ぶ。


V.A.
Dengue Fever Presents :
Electric Cambodia
(Minly Records)
コアなサイケデリック音楽愛好家から熱い注目を集めるカンボジアの音楽シーン。今作は本文中でも紹介したデング・フィーヴァー選曲のコンピだ。ズッコケ気味のファンクやチャーミングなロックンロール、アシッド漬けのムード歌謡などが全13曲。凄い。


V.A.
L?K?O
『Thai Village Classics』
(Culture Trek)
超オリジナルなミックス / 音源のチョイスによって、日本の地下クラブ・シーンで暗躍し続けるL?K?O。本作は60〜70年代のタイ音楽をメインにした彼のミックスCD。来日時に彼のDJを観たマフト・サイもド肝を抜かれたというディープ・ワールドを体験あれ。


V.A.
DJ SOULSCAPE
『More Sound Of Seoul』

ヒップホップDJ / プロデューサーとしてソウルのクラブ・シーンで活動を続けるソウルスケープだが、今作は彼のフィルターを通したコリアン・サイケ・ミックス。ズブズブドロドロな韓流ファンクをシャープに混ぜ合わせた、今までにないタイプのミックスCDだ。



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