PC Audio ExtraPCオーディオエクストラ〜パソコンから始める新しい音楽の楽しみ方
手軽にいい音を楽しめるオラソニック
のUSBパワードスピーカー文/中林直樹
オラソニック TW-S7
オープン価格(1万円前後)
●ユニット:6cmフルレンジ+6cmパッシブラジエーター●再生周波数:60Hz〜20kHz●アンプ出力:10W+10Wダイナミックパワー●電源:USBバスパワー●オーディオ入力:USBポート●外形寸法:108W×141H×108Dmm●重量:950g●問い合わせ:(株)東和電子 http://www.twa.co.jp/
USBケーブル1本でPCと
接続できる手軽さ 毎朝、決まって聴いている番組がある。インターFMの「BARAKAN MORNING」だ。ワールドミュージックについての博覧強記ぶりを披露するピーター・バラカンさんと、その傍らで才女ぶりをさりげなく発揮する柳井麻希さんとのコンビネーションが心地良い。早朝からねっとりとしたブルースがオンエアされることもあるけれど、怪しげな日本語英語をこねくり回し、元気だけが取り柄の裏番組とは対照的な、品格あるひととき。そんな放送をラジオチューナーだけなく、インターネットを介して楽しむこともできる。IPサイマルラジオの「radiko.jp」によるサービス(首都圏・阪神エリアのみ)で、詳解はしないが、PCを仲立ちとした音楽との付き合い方の多様化を示すものだ。
さて、そんなPCサウンドシステムのクオリティアップを考えた場合、思いつくのがスピーカーを充実させることだ。PC内蔵のものを使用せず、外付けで、スピーカーの口径やキャビネットの容量が大きいものを活用すれば、ハイファイサウンドが手軽に楽しめる。そんなニーズに向けて、オーディオメーカー、PC周辺機器メーカー入り乱れ、市場に多くの製品が溢れていることは、ご存じだろう。
一般的なタイプの特徴を挙げてみると、PCとの接続に関しては、ヘッドフォン端子とスピーカーをつなぎ、スピーカーに内蔵されたアンプで音を増幅する方法が主流だ。スピーカーとアンプが一体だから、スペースセービングの面で有利であり、デスクトップシステムでは、このスタイルが重宝する。しかし、当然のことながら、アンプを駆動するためには電源が必要で、PCとつなぐものとは別に電源供給用のケーブルも用いなければならないことが多い。また、このタイプの場合、格納されたデジタルファイルをアナログに変換する(D/Aコンバート)回路は、PCに内蔵されたものを使用する。したがって、PCの回路が貧弱であれば、スピーカー側でいくら増幅を試みても(多少の補正がスピーカー側でできたとしても)、元来のクオリティを上回ることは不可能だ。
オラソニックのTW-S7は、卵型の小型スピーカーである。高さ14cmほどの、思わず触れたくなるようなチャーミングな佇まい。しかし、そんな感想だけには終わらせない、高い能力が備わっている。
カラーはホワイトとブラックの2タイプ。
背面には低音を増強するパッシブラジエーターを搭載。
PCとの接続はUSBケーブル一本のみ。電源ケーブルは不要だ。アンプを駆動するためのパワーはUSBポートから確保する。しかし、USBポートの最大出力電流は5V-500mAと規格が定められているため、大きなパワーが取り出せない。そこで、「スーパー・チャージド・ドライブ・システム(SCDS)」を独自に開発。小音声時には、キャパシター(コンデンサー)に充電し、大きな音声が必要になった際には、そこから放電するといった仕組みだ。音声信号は、PCからデジタルのまま信号を取り出し、デジタルアンプで増幅。さらに、不要な反射音や定在波を抑える卵型の本体、コンパクトな容積でも低音を効率良く稼ぐパッシブラジエーターや、音を適度に拡散させるデフューザーの搭載も目を引く。
PCとの接続はUSBケーブル一本のみ。電源もUSBケーブルを通じて供給される。
シンプルなアコースティック
音楽でこそ本領を発揮する青柳拓次/まわし飲み
(コーディアリー・OWLU-2001)
山中千尋/フォーエヴァー・ビギンズ
(UC・UCCJ-2083)
リグモール・グスタフソン/コーリング・ユー
(ACT・ACT9722)【輸入盤】
試聴は、iTunesから主にAppleロスレスで取り込んだ音楽ファイルを再生した。まず、デジタルノイズで塗り固められたようなエレクトロやダブから聴いてみた。音として破綻するわけではないが、それらのジャンルでは、低音が膨らみがちで、スピード感の表現もややぎこちなくなる。こうした音源ではTW-S7の実力を測ることは難しい。続いて、ソロ名義では2作目となる
青柳拓次の
『まわし飲み』を聴く。前作同様、和テイストをベースにしながらも、オルタナティブなロック風味を強めた秀作である。タイトルトラックは、ドラムス、笛、エレキギター、ベース、そして歌が重なっていく。各楽器の音はきわめてシンプルで、音と音との隙間を活かした音づくりだ。こうしたサウンドステージをしっかり描いてくれるのがTW-S7の特徴だ。小型スピーカーにありがちな、音の成分がどこか欠落したような、カサカサした印象は一切ない。
続いてジャズ・ピアニスト、
山中千尋のニューアルバム
『フォーエヴァー・ビギンズ』から1曲目の「ソー・ロング」を。仄かな哀愁をたたえたメロディと、次第に熱を帯びる演奏。低音から高音まで、ピアノの音色が非常につややか、かつ滑らか。パッシブラジエーターのおかげもあって、ベースの音も逞しく、音楽のボトムをしっかり支えているのがわかる。
先日、初の来日公演も行ったスウェーデンのヴォーカリスト、リグモール・グスタフソン。最新作の『コーリング・ユー』はRadio.String.Quartet.Viennaという弦楽四重奏とコラボレーションした一枚。ちなみにこのCDは全曲にわたって録音が秀抜。リファレンスディスクとしてもお勧めしたい。「Makin' Whoopee」は、爽やかさと力強さが同居する彼女のスキャットと、弦楽器がアブストラクトに交錯する一曲。低音部分を担うチェロ、スリリングに切り込んでくるヴァイオリンとヴィオラの音色が生々しい。抑揚の利いたリグモールの歌いっぷり、そのニュアンスの伝わり方は、とても小さなスピーカーから放たれているとは思えない。
シンプルな編成のアコースティック音楽でこそ、TW-S7の実力は存分に発揮される。