ダンス・ミュージックからブラック・メタルまで、北欧音楽の“今”が分かる音楽フェス<by:larm>に潜入!

ヨンシー   2011/04/06掲載
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<by:larm>とは?

 インターネットを介した音楽ビジネスのグローバル化や業態の変化を受け、世界の音楽シーンにおいて、フェスティヴァル / カンファレンス / セミナーを組み合わせた音楽イベントの役割が年を追うごとに重視されるようになってきている。古くはフランス・カンヌの<MIDEM>、近年では米国テキサスの<SXSW>、オランダ・アムテルダムの<ADE>などが知られるようになってきているが、それら音楽の卸売り市場とでもいうべきイベントには各国のアーティストや音楽関係者が集まり、ライヴを通じたプレゼンや商談、交流が行なわれている。例えば、K-POPが日本やアジア各国を視野に入れた意識的な海外進出を行なっているように、グローバル化した音楽シーンでは海や国境の向こうにいる未来のリスナーを開拓するべく、積極的に国家レベルでの海外展開を模索する大きな流れがあり、そのために上記に挙げたイベントが活用されているのだ。

 そして、1998年の第1回目から今年で14回目を迎える<by:larm>というイベントは、ノルウェーを中心にスウェーデンやデンマーク、アイスランド、フィンランドといった国のアーティストや音楽関係者が集う北欧版フェスティヴァル/カンファレンス / セミナーだ。ウィンター・シーズンど真ん中の2月17日から19日の3日間にわたって、ノルウェーの首都オスロにある28箇所のライヴ会場で220組以上の北欧アーティストによって行なわれた山盛りのライヴ。出演したのは有名アーティストから新人アーティストまで、ジャンルもメインストリームなポップ・ミュージックからヒップホップ / R&B、ダンス・ミュージックやヘヴィ・メタルまでと実に幅広く、北欧の音楽シーンを総ざらいするつもりで楽しむにはもってこいのイベントだ。ただし、この時期、オスロの最低気温はマイナス10度以下になるので、防寒対策と寒さに負けない音楽への情熱は必要不可欠である。




北欧音楽シーンの現状

 北欧のポップ・ミュージックといった時、まず、真っ先に名前が挙がるのは、世界的大ヒット曲「ダンシング・クイーン」で知られるスウェーデンのポップ・グループ、アバ(ABBA)だろう。70年代半ばから80年代初頭にかけてワールド・ワイドな活躍を果たした彼らに続いたのは、80年代にシングル「テイク・オン・ミー」の世界的ヒットを記録したノルウェーのポップ・グループ、a-ha。さらに90年代に入ると、カッティング・エッジな女性アイコンとして注目を集めることになるビョーク(Bjork)がアイスランドから登場したことは皆さんよくご存じだろう。では、彼の地の音楽シーンはどうだろうか? 日本に音楽シーンがあるように、もちろん、どの国にもポップ音楽の歴史があり、シーンがある。

 近年のノルウェーに限っていえば、90年代初期にメイヘム(Mayhem)バーザム(Burzum)といったバンドが起こした教会放火や殺人といった事件で世界の注目を集めることになったブラック・メタル・シーンがその悪名の高さやノイズやアンビエントを内包した特異な音楽性でつとに知られている。また独自な進化という点では、ロックやポップス、民族音楽やエレクトロニック・ミュージックとのクロスオーバーによって発展を遂げたノルウェー・ジャズ・シーン、レーベルではリューネ・グラモフォン(Rune Grammofon)やジャズランド(Jazzland)、アーティストではブッケ・ヴェッセルトフト(Bugge Wesseltoft)ニルス・ペッター・モルヴェル(Nils Petter Molvaer)アトミック(Atomic)といったジャズ・ミュージシャンたちが日本でも高く評価されている。さらにゼロ年代以降は、生楽器とデスクトップのプロダクションを使い分けながら、サイケデリックかつスペーシーなディスコ・ミュージックを続々生み出しているリンドストローム(Lindstrom)プリンス・トーマス(Prins Thomas)を中心とした彼の地のダンス・ミュージック・シーンが全世界の注目の的だ。

 しかし、そんなノルウェーは国土面積こそ日本とほぼ同サイズであるものの、人口は日本の約30分の1、音楽マーケットの規模も40分の1と、想像以上に小規模。そうした状況の差は多少の温度差こそあれ、規模という点では他の北欧諸国も同様であることを考えると、彼の地の音楽シーンの質の高さや放つ熱量の多さは相当なものであることがお分かり頂けるのではないかと思う。

<by:larm>に登場した北欧の注目アーティスト


ヨンシー
 ノルウェーの首都、オスロ中心地にある28ヵ所のライヴ会場で3日間にわたって行なわれた<by:larm>ライヴ。その会期中である2月18日には北欧音楽賞の授賞式が市内のヤコブ文化教会にて行なわれた。今年から新設されたこの賞は、イギリス音楽界でいうところのマーキュリー賞にあたるもので、ノルウェー出身にして4AD所属のギター・バンド、セレナ・マニッシュ(Serena Maneesh)やスウェーデン出身のシューゲイザー・バンド、レディオ・デプト(The Radio Dept)など11組のノミネート・アーティストから、アイスランドのバンド、シガー・ロス(Sigur Ros)のヴォーカリストにして、ソロ・アルバム『GO』をリリースしたヨンシー(Jonsi Thor Birgisson)が栄えある北欧音楽賞に選ばれた。この日、残念ながら彼のパフォーマンスを観ることは出来なかったものの、授賞式終了後には同賞にノミネートされたスウェーデンのサイケデリック・ロック・バンド、ドゥンイェン(Dungen)のライヴが行なわれた。


ドゥンイェン
 1999年にマルチ・インストゥルメンタル奏者のグストヴ・エイステス(Gustav Ejstes)を中心に結成された4人組バンドである彼らは、音楽メディアでの高評価や精力的な海外ツアー、フレーミング・リップスのウェイン・コインらの絶賛を受けて、アメリカ / イギリスのサイケデリック・ロック・ファンの間では広く認知されつつある。しかし、彼らは英語詞ではなく、スウェーデン語の歌詞にこだわる一方、スウェーデンの民族音楽、その土着的な旋律を敢えて取り入れるという、サウンドにおけるローカリズムという点では、日本におけるゆらゆら帝国とも通じるところがあり、ストリングスやフルートを交えた迷宮のようなジャズ / プログレッシヴ / サイケデリック・ロックを演奏するメンバーの楽器スキルも超絶的。ソフト・マシーンウィルコのミッシング・リンクをつなぐかのような、昨年リリースの最新アルバム『Skit i allt』からの楽曲を次々に披露する彼らのパフォーマンスは、噂と評判に違わぬ実に素晴らしいものだった。


ウルヴェル
 そして、噂が渦巻くノルウェーのブラック・メタル・シーンにあって、92年の結成以来、作品リリースの度に作風を大きく変化させてきた異形のバンド、ウルヴェル(Ulver)。2007年の『Shadows Of The Sun』以来、作品リリースのなかった彼らが、4年ぶりとなる待望の新作アルバム『Wars of the Roses』の発表を控えて、<by:larm>に登場。ヘヴィ・メタルはもちろんのこと、フォーク / トラッドやノイズ / インダストリアル、トリップホップといったサウンドを取り入れながら、英国の詩人・画家であるウィリアム・ブレイクの作品からテーマを着想したり、映像や照明を交えた彼らの総合的なステージ表現は、なかばお笑いやコスプレのように取られている日本のヘヴィ・メタルのイメージからかけ離れたアーティスティックなものだ。ティンパニを叩きながらヴォーカルを務める唯一のオリジナル・メンバー、ガームを含む4人のメンバーに、エレクトロニクスを担当する4台のラップトップ・パソコンやキーボード、男女のゲスト・ヴォーカルらが加わった大所帯の編成から生み出される壮大な漆黒の世界は、人間の暗部をあぶり出しながら、それらにアンチを唱え、感覚的な覚醒を促す実にシリアスなものだった。


ピーター・ビヨーン&ジョン
 そうかと思えば、口笛ソング「Young Folks」でお馴染み、スウェーデンのポップ・グループ、ピーター・ビヨーン&ジョン(Peter Bjorn & John)も新作アルバム『Gimme Some』を携えてホールでの凱旋ライヴを敢行。作品ではアレンジの懐かしさとリズム・アプローチの新しさを絶妙なさじ加減でミックスした、ねじれたポップ・センスが真っ先に伝わってくる彼らだが、サポート・メンバーなしで行なったライヴは意外にもがっしりした曲の良さが際立っていた。そんな北欧の人気バンドに応える若いオーディエンスもオール・スタンディングの会場を飛んだり跳ねたりの大盛り上がり。海外での余所行きライヴではなく、素顔に近い彼らのパフォーマンスは骨太だった。


デスクラッシュ
 そして、まだ作品リリースはないものの、The QuietusやThe Stool Pigeonといった音楽メディアで注目のバンドとして取り上げられていたノルウェーの3人組バンド、デスクラッシュ(Deathcrush)のライヴは新人発掘を兼ねた<by:larm>ならではの衝撃的な出会いだった。フロントにギター、ベースの女性2人が立つ彼女たちは、ティーンエイジ・ジーザス&ジャークスジェームス・チャンス、あるいはZAZEN BOYSなどに通じるノイズ・ロックとパンク・ファンクの完璧なマッチングが鳥肌もの。すでに、にせんねんもんだいMELT BANANAといった日本のバンドとも対バン済みということで、これからの活動には大いに期待したいところ。しかし、彼女たちのようなノーマークの有望新人がさくっとライヴをやっているあたりにノルウェーの音楽の森の奥深さが感じられた<by:larm>での3日間の音楽体験。とにかく新しい音楽を探している方なら遠出するだけの価値は間違いなくあります。
取材・文/小野田雄
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