発掘者・森川欣信氏に訊く、オフィス・オーガスタ初の洋楽アーティスト、BELAKISSの魅力

2011/07/28掲載
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BELAKISS『BELAKISS』
 山崎まさよしスガ シカオ元ちとせスキマスイッチ、秦 基博をビッグ・ネームに育て、日本の音楽シーンを豊かにしてきたオフィス・オーガスタが、アリオラ・ジャパン傘下の自社レーベルからロンドンを拠点に活動する英国人の4人組、BELAKISSの1stアルバム『BELAKISS』を発表した。英米ではまだ1枚のリリースもない新人を日本先行デビューという形で世界に紹介しようという“新しい試み”である。このBELAKISS、オーガスタ社長の森川欣信氏がネット・サーフィンしていて偶然見つけたバンドなのだが、女性ベーシストのターシャ・スターキーはリンゴ・スターの孫(つまりザック・スターキーの娘)、メイン・ソングライターでヴォーカル&ギターのルアリー・ミーハンはクリフ・リチャード&ザ・シャドウズのトニー・ミーハンの息子という、ドラマー・ファミリーの生まれなのだ。ロンドンではそれを隠し、小さなクラブでバンドとしてのオリジナリティを模索し、日夜デモを録っていたという。そんな純粋な姿に感動をおぼえたという森川氏は、メールのやりとりという形でレコーディングをサポート。待望の1stアルバムが完成したというわけである。BELAKISSはいままさに初来日中だが、FUJI ROCK (29日)やオーガスタ・キャンプ(30日)への出演や、渋谷タワー・レコードでのインストア・ライヴ(31日)といったスケジュールがぎっしり詰まっているため、森川氏にその魅力と、“ オーガスタがなぜ洋楽を手がけるのか” を語ってもらった。


――まず、英国の新人バンドを手がけようと思った心境から訊かせてください。


 森川欣信(以下同) 「洋楽・邦楽っていう線引きは、ぼくの中ではあんまりないんですよ。ただ、何を目指してこういう仕事をしてきたかと言えば、それは洋楽なんだよね。世界に通用する音楽。ときには演奏技術だったり、パフォーマンスだったり、曲づくりだったり……と、そのつど目標にするところは違っていたかもしれないけど、何とかそこに近づきたい、できれば超えたい、と思っていたのが洋楽だったのは間違いない。中学のときにビートルズを聴いて、音楽の持つものすごい力を教えられて以来ぼくはずっと洋楽が好きだったし、自分がディレクターになってからも時代時代の洋楽を聴いて、サウンドの目標にしてきた。それが近年はそうじゃなくなってたのね。日本のレコード会社から洋楽がリリースされにくい状況にあることもその原因のひとつだし、古いものと新しいものが混然一体となって市場に出ているのも新人にとっては辛い状況。ビートルズやストーンズと並べられたら新人はおいそれとは勝てないもんね(笑)」


――それは“歴史”と勝負するようなものですもんね。


 「うん。You Tubeなんか見てると、ぼくらが子供のころ見たくてしょうがなかったものがあっさり見つけられたりして愕然とする。『ミュージック・ライフ』のグラビアでしか知らなかったミュージシャンの動く姿が、これでもかとタダで見られるわけだから、古い・新しいの垣根も、洋・邦の国境も、もうないんだよね。ところが、そんな夢みたいな時代になったら“いまの洋楽”がぼやけちゃった。目標にするのは昔の、歴史的なミュージシャンばっかりで、 “いまの洋楽” は知らなくても済むようになった。時代時代の洋楽に影響を受けてきた者としては、それはどうなんだろう、と思ってたんですよ。何かやりようはないのか、と……」


――そんなときにネット・サーフィンしていて偶然BELAKISSのヴィデオを見たわけですね。最初はどう思いました?


 「You Tubeにあがっていたのは、アルバムにボーナス・トラックとして入れた〈オンリー・ユー〉のアコースティック・ヴァージョンに近いもので、ルアリーともうひとりのヴォーカル&ギター、ベン・シェルドリックが二人で演ってるのね。曲がいいし、二人のハーモニーがエヴァリー・ブラザーズみたいにクロスする。ぼくは90年代以降、新人バンドのハーモニーに感心した記憶がなかったから、“これは珍しいな”と思って彼らにコンタクトを取ったんですよ」


――で、ロンドンでライヴを観たら素晴らしかったと。


 「音がいい、曲がいいっていうだけじゃなくて、バンドとしてのたたずまいがいい。アイドル性があるっていうかな。それこそ中学のときに『ミュージック・ライフ』でザ・ハードのピーター・フランプトンを初めて見て“ こいつはスターになりそうだな”と思ったときみたいな、いや、もっと言えば、ビートルズを知ったときのようなドキドキする感じがあった。そしたらターシャはリンゴの孫だし、ルアリーはトニー・ミーハンの息子だしっていう事実が出てきたわけ。そこで何かがつながったんですよ。ずっと洋楽が好きで、いつも世界を目標にしてきた自分が、音楽に求めたきたものが確信できたというか……」


BELAKISS


――ぼくはBELAKISSを聴いて、森川さんのこだわりはヴォーカルにあるんだろうな、と改めて思いましたよ。忌野清志郎さん(森川氏はRCサクセションがブレイクするきっかけになった名作『ラプソディ』『プリーズ』のディレクターだった)から、山崎まさよし、スガシカオ、元ちとせ……と、森川さんが手がける音楽は、みんなヴォーカルに独特の“ひっかかり”があるでしょ。“人の気を引く声”というか……。


 「歌が上手いか下手か、一般的にいい声かどうかなんて評価はどうでもいいんだけど、声のひっかかりは大事だよね。ジョン・レノンの声だって妙にキンキンしていて決して一般的にはいい声ではないと思うんだけど、<ツイスト&シャウト>は一度聴いたら忘れられない。あの声だから世界に伝播した。いま日本で売れているものの中にも、“音楽は全然好きじゃないけど、この声に大衆はやられるよな”って思うものはあるからね」


――BELAKISSの場合は、その辺りはどう思われたんですか?


 「ルアリーもベンも実に変な声だよ(笑)でも人の心を揺さぶる何かがある。ハモるとなおさらに響く。本人たちはホリーズCSNなんかを参考にしてるように思える。決して自らは語らないけどビートルズのハーモニーにもそれは当然近い。そういうヴォーカル・ハーモニーと、ギターのサイケ感が相俟って、独特の“バンド力”を醸し出してると思うんだ。あと、そういうサウンド、つまり音響的な面と、曲自体の普遍性が、面白く絡み合ってる。90年代のブリット・ポップよりも、60年代の日本のGSに近い感じと言えばいいのかな……。それは洋楽を聴かなかったり知ろうとしなかったりするいまの若い子たちにもかえって新鮮なんじゃないかな」
取材・文/和久井光司(2011年7月)
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