いよいよチケットの一般発売が開始された<ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2012>。人気の音楽祭だけあって目ぼしい公演はすぐにソールドアウトになってしまうかのような印象があるが、じつはまだまだ余裕で購入可能な公演もたくさんある。
狙い目は収容人数の大きな会場だ。5,000人収容のホールAはもちろんのこと、800席のホールB7、1,500席のホールC、1,100席のよみうりホールに関しては、今からでも魅力的な公演のチケットをゲットすることができる。とくによみうりホールは意外とキャパが大きいので、もう間に合わないかな? と思ったチケットが残っていたりするから心強い。
これら4つの会場の公演で、現時点で残席のあるものの中から、いくつか注目公演を選んでみよう。
カペラ・サンクトペテルブルク
(C)DR
まずは5月3日。全般に残席数に余裕がある午前中は、ホールB7の公演番号121、カペラ・サンクトペテルブルクの合唱プログラムはいかがだろう。ア・カペラで聴くロシア正教会の音楽とロシア民謡は、今年の音楽祭のテーマ“サクル・リュス”ならではの企画。合唱団の評判も非常に高く、一度は聴いておきたい。
昼の時間帯は、よみうりホールの公演番号182、
竹澤恭子とエマニュエル・シュトロッセがオススメ。あの陰鬱でこの上もなく美しい
プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番を、名手たちの演奏で聴けるのは嬉しいかぎり。まだチケットが残っているとはラッキーだ。
渋さ知らズオーケストラ
(C)山下恭弘
夜はホールCの公演番号147、
渋さ知らズオーケストラが気になる。渋さ版“サクル・リュス”ということで、“ロシア音楽をテーマとしたパフォーマンス”と発表されており、詳細は不明だが、見たことも聴いたこともないものを体験できることはたしか。客席を含めて果たしてどんな雰囲気になるのか。カオスな予感。
続いて5月4日。午前はホールAの公演番号211“シネ・コンセール”を見たい。ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による
プロコフィエフの『ピーターと狼』が映像付きで演奏される。すでにナントでの公演を見た人たちは、口をそろえてこの人形アニメが秀逸だったと言っている。大型スクリーンを有するホールAならではの企画だ。
アンドレイ・コロベイニコフ
(C)Carole Bellaiche
この日のホールAは聴きものが多い。午後は公演番号213で、ふたたびドミトリー・リス指揮ウラル・フィルと、アンドレイ・コロベイニコフのピアノ、カペラ・サンクトペテルブルクの合唱によりスクリャービンの怪作、交響曲第5番「プロメテウス―火の詩」が上演される。本来は照明を鍵盤で制御する“色光ピアノ”を用いる曲だが、ここでは独自の照明演出が添えられるという。音と光を組み合わせたスクリャービン流の神秘主義を体験できるだろう。
夜はよみうりホールの公演番号284“ボリス・ゴドゥノフ宮廷の音楽”へ。1602年にボリス・ゴドゥノフ公の娘の結婚に際しモスクワに旅立ったデンマーク王子に音楽家の一団が随行したことに由来する歴史再現コンサート。マリア・ケオハネのソプラノ、
フィリップ・ピエルロ指揮
リチェルカール・コンソートのコンビはこれまでもLFJで好演を聴かせてくれている。濃厚なロシア音楽が集中する今年のLFJにあって、さわやかな潤い成分を補給してくれる貴重な古楽のコンサート。
タチアナ・ヴァシリエヴァ
(C)FBroede
5月5日は最終日。この日は全体としてはソールドアウトの公演も多いのだが、なぜかホールB7に比較的余裕がある。そこで昼から2公演続けてホールB7という選択肢はどうだろう。
まず公演番号322で、
ジョセフ・スヴェンセン指揮パリ室内管弦楽団。タチアナ・ヴァシリエヴァの独奏で
ショスタコーヴィチの傑作、チェロ協奏曲第1番を聴けるのは大きな喜びだ。
ストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲ニ調と合わせて、乾いたリリシズムを満喫できそう。
ボリス・ベレゾフスキー
(C)David Crookes
-Warner Classics
続く公演番号323は、ルネ・マルタンがとくに推薦する新鋭ピアニスト、アダム・ラルームがモディリアーニ弦楽四重奏団と共演してショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲を演奏する。今回の音楽祭ではこの曲が何度か演奏されるのだが、作曲者の室内楽における代表作といえる屈指の傑作だけに、一度は生で聴いておきたい。ピアノ五重奏曲のような編成の作品は、多くの演奏者が一堂に会する音楽祭にはうってつけの演目だ。
最終日の夜は音楽祭を締めくくる、華のある公演を選びたい。となればホールAの公演番号316、
ボリス・ベレゾフスキー、ドミトリー・リス指揮ウラル・フィル、カペラ・サンクトペテルブルクの公演ということになるだろうか。やはりラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は“ロシアの祭典”に欠かせない名曲。そしてその独奏者といえば、この音楽祭を代表するピアニストともいえるベレゾフスキーということになるだろう。ベレゾフスキーは底知れぬポテンシャルを秘めたピアニストだ。音楽祭の事実上のフィナーレというべき公演で、特大ホールで得意の演目を披露するのだから、きっと熱い演奏を聴かせてくれるにちがいない。