不破大輔×久住昌之 渋さ知らズ『渋彩歌謡大全』発売記念対談

渋さ知らズ   2012/11/12掲載
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初のカヴァー・アルバム『渋彩歌謡大全』をリリースした渋さ知らズのダンドリスト・不破大輔と、現在放送中の話題のドラマ『孤独のグルメ Season2』『花のズボラ飯』の原作者・久住昌之。幅広い層から支持され今ノリにノッている両者であるが、じつは旧知の間柄であり、ステージを幾度も共にしている仲である。
夜な夜な飲み屋で遭遇しては、酔いに任せた密談を重ね、物事はスタートする――世代、生息地域、行動時間帯がよく似ているオトナ同士の、奇妙で笑えるクロストーク。


花のズボラ飯

秋田書店 / (C)AKITA PUBLISHING CO.,LTD.

孤独のグルメ

扶桑社 / (C)2006-2012 FUSOUSHA

 久住昌之(以下、久住) 「いやー、こうやってしらふで不破さんと向かい合って話すのは初めてだよね?」
 不破大輔(以下、不破) 「会うのはいつも飲み屋ですからね」
 久住 「うーん、どこ見てしゃべっていいのかわからない。脂汗をかかせたいのかって(笑)」
 不破 「そういえば『花のズボラ飯』買いましたよ。いま凄いですね。『孤独のグルメ』もそうだけど、原作が二本もドラマになって」
 久住 「たまたまですよ。こんなこともう一生ないよ。宝くじが当たったようなもんで、きっと今後は落ちる一方(笑)」
――では早速、お二人の出会いを教えていただきますか?
 不破 「そもそものきっかけは、久住さんがネットでぼくたちのことを書いてくれたことからですよね」
 久住 「10年以上前になるのかな。真夏に吉祥寺の東急の裏あたりで、渋さ知らズのライヴをやっていたんですけど、それがすごく良かった。すごく土着で直球なんだけど、いわゆるアングラな人たちって感じじゃなく“拓かれた土着”っていうのかな(笑)。それが結構きて、しかもメロディがすごくいいじゃない。いやー、強烈な印象だった。カラフルな夏の日なのに、なぜか渋さ知らズだけは“雑巾系”だった(笑)。そのことを面白がってブログで書いたら、たまたま不破さんが見てくださって」
 不破 「ぼくは80年代から久住さんの著書を読んでいてファンだったんですよ。で、ブログを見たらぼくらのことが書いてある。嬉しかったけど、雑巾はないよなあって(笑)。けど、よく考えてみれば楽器弾いている奴らは、みんな雑巾みたいな格好だった(笑)」
 久住 「ひどいよね〜、オレも。その後、吉祥寺の知る人ぞ知る酒場『大茂』でお会いして、言葉をかわすようになっていった。不破さんは『江ぐち』の本(『近くへ行きたい。秘境としての近所――舞台は“江ぐち”というラーメン屋』 / 現在は加筆された『孤独の中華そば「江ぐち」』が発売中)を読んでくださっていて、持参した本を見せてもらったらすっごいボロボロだった。こんなになるまで読む人がいるのかって。本が雑巾みたいになっていた(笑)」
 不破 「そこも雑巾(笑)。『江ぐち』には昔から行ってたし、あの本は読んで読んで、読みまくりましたから」
 久住 「それから距離が縮まったよね。ボロボロの自分の本を見れば当然だし、同じラーメンを長年食ってきた仲だし」
 不破 「『江ぐち』は、行く日によって味が不安定だったけど、そこが良かった(笑)」
 久住 「で、世代も近いし、住んでいる場所も行動している時間帯もほぼ一緒だから、飲み屋でよく会うと“何かやりましょうよ”なんて話になって、渋さ知らズのライヴに呼ばれるようになったんです」
 不破 「初めて吉祥寺の『MANDA−LA2』のライヴに来てもらったとき、久住さんの曲を3〜4曲やるつもりが、ぼくらは“とりあえず持ってきた譜面全部やっちゃいましょう”ってことになって」
 久住 「結局、第一部が全部オレの曲になっちゃった(笑)。ああいう感じのノリはジャズっぽいし、面白かったなあ」
――一緒に演奏なさってみてどうでしたか?
 久住 「いやもう完成していますからね。けど完成していないというか、とにかく渋さ知らズはね、“強い”んですよ。ぼくはマンガでも何でもそうなんだけど、相手は“上手い”よりも“強い”ほうがよくて、自分のなにかが発揮できる。マンガだったら泉 晴紀みたいなクセのある、ちょっとしたノリじゃ壊せないような強さ。そういう意味じゃ渋さ知らズとのセッションは不安もあったけど、結局なんとかなるのかなって(笑)」
 不破 「久住さんはミュージシャンとしても超実力者ですよ。演奏もそうだけど、あれだけの曲と詞を書いているわけですからね。とくに詞がいいんですよ。リアリティなんて簡単な言葉は使いたくないけど、所々フィクションは混じっているとはいえ嘘を感じない。だから自然に入ってくるし、積み重ねてきた人間力みたいのをすごく感じるんです。例えばぼくらは人の曲でセッションをすると、遠く離れていってしまうことがままあるんだけど、久住さんとやるとグッと入っていっちゃう」
 久住 「うん。オレの曲にみんな入り込んでくる感じで、すごくいいんだよね」
 不破 「たぶん世代が近いから、感じることが似ているんでしょうね」

『渋彩歌謡大全』

[収録曲]
01. 帰ろかな / 泉邦宏
(北島三郎)
02. 一週間 / 渡部真一
(ロシア民謡)
03. 恋は夢いろ / 渚ようこ
(西田佐知子)
04. Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜
(YEN TOWN BAND)
※Instrumental
05. 黄昏のビギン / Sandii
(水原弘)
06. RYDEEN
(Yellow Magic Orchestra)
※Instrumental
07. 夢は夜ひらく / 遠藤ミチロウ
(三上 寛)
08. 渡 / 坂本美雨
(渋さ知らズ)
09. 黒い花びら / 三上 寛
(水原 弘)
10. 悪漢 / keyco
(渋さ知らズ)
11. Ponta De Areia
(Wayne Shorter)
※Instrumental
12. 君は答えよ / 渡部真一
(東郷 健, J・A・シーザー)
カッコ内はオリジナル・アーティスト

――さてこの度、渋さ知らズの初カヴァー・アルバムとなる、豪華ゲストを招いた『渋彩歌謡大全』がリリースされました。
 久住 「いやー、面白かったね〜。とにかく選曲がすごいよ」
 不破 「本当はポップスでもやろうと思ったんですけど、好きな物しか好きになれないって感じで選曲したらこうなってしまったんです」
 久住 「一曲目から北島三郎の<帰ろかな>だしさ」
 不破 「これは世界最初のルーツレゲエだと思っているんです」
 久住 「えーっ(笑)」
 不破 「♪ズクチャカ、ズクチャカ、帰ろかな〜♪って(笑)」
 久住 「あー、ホントだ!(笑)」
 不破 「まだジャマイカじゃスカやっている時代ですよ、きっと」
 久住 「なるほどね〜。やっぱ全体的にメロディが生きた選曲だよね。個人的には大好きなミルトン・ナシメントの<Ponta De Areia>が入っていたのが嬉しかったなあ」
 不破 「まあ南米大陸というか中国大陸風になっちゃってますけど(笑)」
 久住 「あと三上 寛さんが歌う<黒い花びら>。三上さんが振り絞る朱色と雑巾色の街(笑)」
 不破 「また雑巾(笑)」
 久住 「遠藤ミチロウさんの<夢は夜ひらく>もすごかったなあ。ミチロウさんって、もうあの人自身がジャンルだからね。パンクじゃなくて、もはや民謡の風情さえある」
 不破 「往年の民謡歌手(笑)。声を出すにしても全編“さわり”のようで擬音に近い」
 久住 「ミチロウさんという“楽器”だよね。ミチロウさんが鳴っているって感じだし、三上さんも“三上 寛”っていう聴いたこともない楽器が鳴っている。やっぱ、すごい人ってだいたいそうなっていくもんだよね。良いのか悪いのかもわからない、もうその人自体がジャンルっていう」
 不破 「『江ぐち』のラーメンみたいなもんだ(笑)」
 久住 「そうそう(笑)。あれをマズいっていう人もいるかもしれないけど、もう美味いマズいを超越しちゃっているというね。テクニックを語るのは野暮ってこと。しかし、そういった崩れるギリギリのラインを狙うのが、不破さんならではのバランス感覚だと思うな。だって曲目みたら、ミチロウさんと三上さんの間に坂本美雨さんがいるんだよ! この流れは一体何なのかと(笑)。ここポイントだよね」
 不破 「ええ、ポイントです(笑)」
 久住 「坂本さんがこっち側に流れてくれるなんて。逃げないで受け止めているところが素晴らしいね」
 不破 「度胸ありますよね。なんでも坂本さんは舞踏が好きなんですよ。うちのダンサーとか知っていましたから」
 久住 「へー。じゃあむしろ自然だったわけだ(笑)。けど、こういったアルバム作ってみてどうだった?」
 不破 「なんかやりたいなーってボヤ〜って考えていたら実際やるようになって、いざ動きだすと譜面を起こすのが大変だったり、許可を得なくちゃいけなかったり、こういう物を作るとどれだけ人が動かなければいけないのか痛感しました。自主製作みたいな小商いだったら、いい加減でもいいのに(笑)」
 久住 「けど、やりがいはあったでしょ?」
 不破 「やり慣れないことをやるのは大変ですよ。普段、ぼくらは歌バンだと適当にやっているけど、今回はゲストとして歌手の人たちを招くわけですから、めったなことはできない(笑)。ただ、このアルバムを作ってあらためて思ったのは、やっぱ歌とメロディが好きなんだなって」
 久住 「それが渋さ知らズだからね。難しいことをやっているわけではなく、最後はメロディのはっきりしたわかりやすいところへ行き着く」
 不破 「でも、アングラですよ(笑)」
 久住 「アングラでもわざと難しくする人もいるでしょ。難解なのがエライみたいな。じゃなくて、そこはぼくも不破さんと似ているかもしれない。マンガでも文章でも難しい言葉って使えないんです。わかりやすい簡単な言葉、簡単なメロディ。そこをどうするか」
 不破 「簡単なものほど、その人の人間性が反映されるんでしょうね。まあこの作品は簡単ではなかったけど、歌手たちと曲を作っていくのは快感でした。メロディと詞と演奏が、サウンドになる瞬間のあの快感……」
 久住 「自分たちの世界が各々あるから、融合したときに強いサウンドになる」
 不破 「いや〜、面白かったなあ」




ダンドリくん

筑摩書房 / (C)Chikumashobo Ltd.2012

 久住 「しかし、こういったものをまとめあげるのは、さすがダンドリスト(笑)」
 不破 「ダンドリストは、久住さんのマンガ『ダンドリくん』からいただきましたからね。とはいえ、どこまでも困惑しているわけですけど(笑)」
 久住 「曲順とか決めるのも大変そうだよね」
 不破 「これはまあ相撲の番付みたいに、年齢とか実力とか先輩後輩の関係をあれこれ考えて、失礼にあたらないかしらと気を使いつつ……(笑)」
 久住 「やっぱダンドリストだ(笑)。しかしまあオリジナルよりも大変だねえ」
 不破 「エネルギー使いましたよ」
 久住 「とくに知的エネルギーでしょ?(笑)」
 不破 「普段使っていないから、知恵熱出しました(笑)」
 久住 「けど、こういったカヴァー・アルバムってさ、経ることで自分のことが見えたり、新鮮な気持ちになって、また物作りができるような感じになりません?」
 不破 「ありますね。最初はそんな意図はなく、興味本位で酔っ払って言ったことが具現化して大変な思いをしましたけど、結果的に見えてきたことはあったし、自分にフィードバックされると思いますよ。なるほどなといった感じで、また違うことがやっていけるのかなって」
 久住 「今ってさ、ロックを聴く人が普通にクラシックも聴いたりして、音楽がノンジャンルになってきている。そういう意味でも、このアルバムはいいよ。渋さ知らズを知らない若い子が聴いても、これだけいいメロディと強い楽曲なんだからスッと受け入れてくれるはず。ちょっと前だったらこうはいかなかっただろうけど」
 不破 「昔は変なもん好きとか、知らないもの好きとか、壊れた音が好きっていう人がファンでしたからね。まあアングラ芝居が基盤だからしょうがない」
 久住 「けど、こういったゲストを呼んでやれるようになったこと自体が面白いし、なおかつゲストと渋さ知らズが自然に融合している。たぶんそういう時期なんじゃないかな。フジロックや福島のイベントでも若い人たちにストレートに受け入れられているじゃない。昔は遠巻きに見られていたのに、今は向こうから寄ってくる。実績と時代が、そうさせているんだと思うよ。終わってみれば無理矢理できた企画になったわけじゃなく、こういうのもありなんじゃないって自然の流れでできたような気がするな。作る前はそんなことなかっただろうけど」
 不破 「やる前は不安ばかりでした(笑)。まあけど、いろんな人に聴いてもらえたら嬉しいですよね」
 久住 「フリー・ジャズ経由の歌謡曲かあ。やっぱ面白いなあ」
 不破 「何者かにはなれない。そういう音楽なんですよ(笑)」
――ちなみに久住さんがこのアルバムの中で一緒にやってみたい曲ってありますか。
 久住 「うーん、<帰ろかな>もいいけど、<ライディーン>かなあ。そこに詞をつける(笑)」
 不破 「いいですね〜! じゃあこれから『大茂』に行って手帳開きましょう。しかし、ぼくたち電話を通じて仕事を決めたことって一度もないですよね(笑)」
 久住 「飲み屋で会って、すべてはそこから。というわけで、対談これで終わりでいいですよね?」
 不破 「おつかれさまでした〜。じゃ、久住さん、一緒に吉祥寺方面に帰りましょうよ」
取材・文/石塚 隆(2012年10月)
……この後お2人は吉祥寺で飲みに行かれたそうで、そこで来年1月1日に吉祥寺「曼荼羅ROCK JOINT GB」(http://www.rock-gb.com/new/news.html)で開催される渋さ知らズのライヴへ、久住さんのゲスト参加が決まったとのこと。飲み屋で会って、すべてはそこから!
【渋さ知らズ『渋彩歌謡大全』リリース・ツアー開催】
日本が世界に誇るジャズ・バンド、渋さ知らズ。初となる注目のカヴァー・アルバム『渋彩歌謡大全』を引っさげ、リリース・ツアーを東京(2013年2月27日@渋谷クラブクアトロ)、名古屋(2013年2月19日@名古屋クラブクアトロ)、大阪(2013年2月20日@梅田クラブクアトロ)、広島(2013年2月21日@広島クラブクアトロ)の全4ヵ所で開催。チケット一般発売は11月24日(土)より。

【渋さ知らズ オフィシャル・サイト】
http://shibusa.net/

【『ヨーチA』発売記念「久住昌之全部盛りライブ!」】
ドラマ『孤独のグルメSeason2』『花のズボラ飯』が絶賛放送中、さらには『食の軍師』第2巻、『ヨーチA』と著書の発売も続く久住昌之による怒涛のライヴ〈久住昌之全部盛りライブ!〉が12月5日(水)、東京・代官山「晴れたら空に豆まいて」にて開催。開演前には久住昌之出演・原作のレア映像ダイジェスト(大友克洋監督『じゅうを我等に』、実写版『豪快さん』、田口トモロヲ「ロボット」など)が流れ、久住率いる“THE SCREEN TONES V.O.(スクリーントーンズ・ヴォーカル・多し)”のライヴはもちろん、爆笑プロジェクター・ショー「ProjectorQ」、『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』の実食コーナー、切り絵展に手拭い展、物販もたっぷり。現在「晴れたら空に豆まいて」オフィシャル・サイト(mameromantic.com)ではチケット予約を受付中。

【クスミの後悔日記2】
http://mqusumi.exblog.jp/

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