ウェスタン映画には二種類ある。アメリカで生まれたウェスタン、そして、イタリアで生まれたマカロニ・ウェスタン。血と復讐が好みなら断然、マカロニがお薦めだが、ただでさえ脂ぎった一皿に、ブラックスプロイテーションという、これまたジューシーなスパイスをたっぷり振りかけたのが
『ジャンゴ 繋がれざる者』だ。
クエンティン・タランティーノ監督初の西部劇の主人公は、元奴隷の黒人ガンマンというタランティーノらしい大胆不敵な設定だ。しかも、その名はマカロニ・ウェスタンの名作
『続・荒野の用心棒』の主人公と同じく、ジャンゴ。演じるのは
『RAY / レイ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞した
ジェイミー・フォックスで、テキサスで生まれ育ったフォックスは、子供の頃からカウボーイに憧れていたとか。一方、ジャンゴの相棒になるドイツ人から来た元歯医者の賞金稼ぎ、キング・シュルツを演じたのは、タランティーノの前作
『イングロリアス・バスターズ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞した
クリストフ・ヴァルツ。タランティーノはヴァルツをイメージして、この役を作り出したらしい。物語の舞台は南北戦争前夜のテキサス。シュルツは賞金稼ぎのターゲットを探し出すため、その顔を知っているジャンゴを奴隷商人たちから救い出し、一緒に仕事をしないかと持ちかける。元歯医者と元奴隷の異色のコンビは次々とお尋ね者達を血祭りにあげ、シュルツの手ほどきでジャンゴの銃の腕もあがっていくが、そんななかで、ジャンゴにはある秘めた想いがあった。それはどこかに売られていった妻のブルームヒルダを探しだして取り戻すこと。そして、ついに彼女がカルヴィン・キャンディという残忍な農園主のもとにいることを知ったジャンゴとシュルツは、奴隷商人のふりをしてキャンディに近づき、壮絶な闘いが幕を開ける。
極悪非道でフランスかぶれという最悪な男、キャンディをノリノリで演じているのは
レオナルド・ディカプリオ。さらにディカプリオを育てた執事で、黒人奴隷でありながら黒人差別主義者という厄介な男、スティーヴンを演じる
サミュエル・L・ジャクソンの怪演ぶりもすごい。“新顔”クルストフ・ヴァルツへのライバル心もあったのでは、と思わせるほど過剰な存在感で、タランティーノ組古参兵としての意地を見せている。そんな二人が支配する農園“キャンディランド”は、奴隷達が殺し合いをさせられたり、犬に食われたりするタランティーノ版
『世界残酷物語』的世界でマカロニ濃度はさらに上昇。クライマックスは血まみれの銃撃戦が待ち構えているが、その一方で、ジャンゴとブルームヒルダのラヴストーリーが物語に織り込まれているあたりは、タランティーノにとっては新境地だ。また、
サントラは
エンニオ・モリコーネや
ルイス・バカロフ、
リズ・オストラーニなどイタリア映画のスコアが中心になっているが、タランティーノにしては珍しく
ジョン・レジェンドや
アンソニー・ハミルトンなど最近のR&Bシンガーのナンバーも収録されている。そんななか、もしシングルを切るなら両A面で『続・荒野の用心棒』の主題歌「ジャンゴ」と
ジェイムズ・ブラウン&
2パック「Unchained」でお願いしたいところ。この2曲が本作のスピリットともいえる。
『イングロリアス・バスターズ』ではナチスへの復讐を描き、今回は奴隷職人への復讐を描いたタランティーノ。これまでウェスタンでは隠されてきた奴隷問題をど真ん中に据えて、劇中で「ニガー」という言葉を137回使うなど(プレス資料より)、ハリウッドに向かって銃を突きつけるような蛮行ぶりはさすがだ。“繋がれざる者”、それはタランティーノのことなのかもしれない。
文 / 村尾泰郎
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