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ビートルズの4人がジョン・F・ケネディ空港に到着、グループとしてはじめてアメリカ合衆国に降り立った1964年2月7日から50年を記念する年に
『THE U.S. BOX』と題されたCD13枚組のボックスが発売された。
13枚の内訳は60年代に米キャピトルが独自の選曲、仕様で編集したアルバムのCD化。これまでにもすでに“The Capitol Albums”というタイトルで64年版、65年版というボックスが発売されているが、その第3弾を待たずに全集と呼んでしかるべきブツの登場とあいなった。このうち、はじめてCD化されるのは次の5枚だ。
『ア・ハード・デイズ・ナイト』(64年)は同名映画の挿入歌だけでなく、劇伴として使用されたインスト曲も入ったもの。
『ザ・ビートルズ・ストーリー』(64年)はインタビューやライヴ音源などを編集したドキュメンタリー盤。かつて邦題『ビートルズ物語』で日本でも発売されていたアナログ盤2枚組は、“買うべきか買わざるべきか”とビートルズ初心者を悩ませ続けたアイテムだ。
『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』(66年)はあまりも有名な“ボツ・ジャケット”で知られる一枚。ロバート・ウィテカーが撮影した通称“ブッチャー・カヴァー”があまりにも悪趣味だということで、無難な“トランク・カヴァー”に差し替えられたもの。今回のリリースでは、オリジナルの“ブッチャー・カヴァー”で復刻、(初回出荷盤の措置をなぞるかのように)“トランク・カヴァー”をシールで貼ることができる、という遊びごころに満ちた仕様となっている。
『リボルバー』(66年)は米国編集盤。『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に収録された3曲がオミットされた11曲入り。米の人気ドラマ『マッドメン』のシーズン5で、主人公、ドン・ドレイパーがこの盤を再生、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」の深遠な歌詞に打ちのめされるという、最高のシーンが登場。このカタルシスの為だけにでも、シーズン1からの視聴を薦めたい気分である。
『ヘイ・ジュード』(70年)はビートルズ解散が公的に発表される数ヵ月前にリリースされた編集盤。初期から晩年までを強引に詰め込んだ不思議な選曲。“青盤”が世にでるまでは「ヘイ・ジュード」が入ったアルバムは本盤だけだったため、英国でも“輸入盤”で大きなヒットとなった。
ほかに『ザ・ビートルズ・ストーリー』と『ヘイ・ジュード』を除く11枚はモノ / ステレオの両ヴァージョンが収録されているのも見逃せない。
基本的に(アルバム未収録曲を集めた『パスト・マスターズ』を含めた)英国オリジナル盤を押さえておけば、ビートルズのオフィシャル・ワークスを楽しむことができるわけで、これら米国盤の存在意義を語りはじめると、どうしてもマニアックな印象を帯びてくる。音楽評論家、中山康樹さんが指摘されているように、ブライアン・ウイルソンが『ペット・サウンズ』を作る動機となった『ラバー・ソウル』は「ドライヴ・マイ・カー」ではなく「夢の人」ではじまる米国盤だった、というような。ただ、60年代、リアルタイムでは英国盤は世界的に“スタンダード”ではなかったのも事実。ボブ・グリーンのコラムや、ロバート・ゼメキスの映画『抱きしめたい』が描いたエド・サリヴァン・ショウがオンエアされた世界においては米国盤がむしろ“主役”だったのだ。
もうひとつ、米国盤のジャケを眺めていると連想するシーンがある。66年、ジョン・レノンによる「いまやビートルズはキリストより有名だ」発言に抗議したキリスト教信者たちによるバッシング運動でレコードが焚き火にくべられた、あの写真の鮮烈なイメージだ。
というわけで、早くもビートルズ来日から50年を迎える2016年に、どんなシロモノが世に現れるのか妄想を膨らませているのでした。