ゲーム・音楽・映画・エレクトロニクスなどソニーが展開する6分野をテーマに、岡崎体育、奥田民生、東京スカパラダイスオーケストラ、millennium parade、YOASOBI、Creepy Nutsといったソニーミュージックグループに所属する6組のアーティストが参加する「Sony Park展」が9月30日まで東京・Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)で開催中。岡崎体育のライヴなども行なわれた第1弾「ゲームは、社交場だ。」に続き、現在は第2弾「音楽は、旅だ。」(7月24日まで)が開催されており、7月13日と17日には奥田民生が伝説の「ひとりカンタビレ」を再現したライヴイベント「カンタビレIN THE PARK」が行なわれた。
この「Sony Park展」は、2024年に完成予定である「新Ginza Sony Park」の建設工事が始まる10月を前に、ソニーが取り組む6分野を「音楽は、旅だ。」などのイベントテーマに変換し、展開されているファイナルプログラム。ソニービルは1966年にオープン。各フロアではソニー製品が展示・販売、ソニープラザやカフェなども併設され、若者文化発信地の一つとして長年にわたり愛されてきた。地上のビル部分は2017年に解体され、現在は垂直立体公園「Ginza Sony Park」として開放されている。
開催中の「Sony Park展」は、敷地の地下フロアを利用して展開されている。展示ブースとなっているB2Fには、ビルの壁面にあった“SONY”のロゴ看板やネオン看板が飾られているほか、ブルーのタイルの壁面が一部残されているなど、会場のあちらこちらで懐かしいソニービルのなごりを見ることがでる。新しく生まれ変わっても古き時代の良さを残す、「ソニーの精神」も感じることができるだろう。
現在行なわれているSony Park展第2弾「音楽は、旅だ。」は、アーティストが自身の内面と向き合いながら音楽を生み出していく過程を旅になぞらえ、展示という形で表現したもの。展示会場は旅というテーマから空港をイメージしてデザインされ、ベルトコンベアに手荷物が流れて来るように白い箱が並んでいる。来場時に手渡されるヘッドフォンのプラグを箱に差し込むと、音楽が聴こえてくるという趣向だ。この展示には前述の6組のアーティストをはじめ、WONK、SASUKE、青葉市子、AAAMYYY、UA、石崎ひゅーい、のん、藤原さくら、DJみそしるとMCごはん、アート・リンゼイなど総勢130組以上の、「Park Live」への出演等でGinza Sony Parkにゆかりのあるアーティストが参加。「音楽は旅だ、と感じるあなたの楽曲を教えてください」というテーマで各アーティストが選んだ、多彩な楽曲を楽しむことができる。中にはコメントを収録しているアーティストもいて、どの箱にどんな曲が入っているのか、コメントはどこにあるのか、まるで宝探しのように、新たな音楽との出会いと旅を体験できるものになっている。
今後「ファイナンスは、詩だ。 with 東京スカパラダイスオーケストラ」、「映画は、森だ。 with millennium parade」、「半導体は、SFだ。 with YOASOBI」、「エレクトロニクスは、ストリートだ。 with Creepy Nuts」を順次開催。それぞれのアーティストは、通常のライヴとは違ったユニークな形で参加し、ここでしか体験できないプログラムを用意している。
また、テクノロジーとデザインをテーマに、音だけで楽しむレーシングゲームやホラーゲームなどを体験できる「AUDIO GAME CENTER+」(B3F)は7月18日で終了したが、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の最新の研究内容を展示する「人類の未来のための研究」(B3F)が7月24日より開催、ソニービルの創業者である盛田昭夫の生誕100周年を記念して開業したバー「Bar Morita」(B4F)も同時展開されている。この夏、銀座で新たなカルチャー体験と出会うのもいいだろう。
[奥田民生 カンタビレ IN THE PARKレポート]
「ひとりカンタビレ」は、2010年に開催された奥田民生の公開ひとり多重録音レコーディング・ツアーで、奥田がヴォーカルだけでなく、ドラム、ベース、ギターなどすべての楽器を演奏し、たったひとりでレコーディングを行なった伝説のツアーだ。それが「Sony Park展」のために、約10年ぶりに復活した。
ステージには、YouTube奥田民生チャンネルで公開されている「カンタンカンタビレ」コーナーでもおなじみのソファや、さまざまな楽器や機材、自身のレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」のキャラクターオブジェなどがずらりと並び、まるで大人の秘密基地といった雰囲気だ。
拍手に迎えられおもむろに登場した奥田。冒頭、ライヴの趣旨を説明し、「10年ぐらい前にやった、レコーディングの様子を見てもらうという企画。しんどいのでこれまで避けてきましたけど、ソニーからお願いされて断れなくて(笑)」とコメント。奥田は終始この調子で、独特のテンポ感のトークに、ジワジワくる笑いを織り交ぜてくる。観客は声が出せない中、最初から笑いをこらえるのに必死になった。
「最初に言っておきます。3時間くらいかかるけど、1曲しか聴けないですからね」。このライヴは、奥田がひとりでレコーディングする様子を見守り、できあがった1曲を最後にみんなで鑑賞するという流れ。観客にはコード譜が配られ、まずは、「ここに行ったら、ここに飛んで」「これはオレ流なんだけど」など言いながら、コード譜の読み方がレクチャーされた。手書きのコード譜には奥田なりのこだわりが感じられ、楽曲の完成が楽しみになった。
レコーディングされたパートは、ドラム、ベース、ギター2本、メロトロン(キーボード)、タンバリン、ヴォーカル、コーラス。「あ〜間違えた」「ここもう1回」と、何度も同じ箇所を録り直す場面もあったほか、足がつってしまうハプニングもあり、レコーディングのシビアさが伝わってくる。そのぶんひとつの楽器が録り終わった時の喜びようは格別で、その都度「ハバレロくん」と「チビレロちゃん」(ボタンを押すと空気で暴れる人形)を動かして観客と喜び合ったりもした。もちろん時間の制約があるイベントなので、作業をはしょっている部分は多いだろうが、3時間以上レコーディング作業を見守ってきた観客には、その地道さと大変さが身をもって伝わったと思う。
合間では、楽器の解説なども行なわれた。「これはグレッチのアンプでスピーカーが楕円形で」「これはマグナトーン」など、ヴィンテージの楽器や機材が好きな人にはたまらないものであっただろう。また、生配信されたYouTubeに寄せられたコメントや質問に返事を返すコーナーも。ギターや曲作りにまつわる質問も多く、「ギターは最初形から入る」「プロは指が痛くないと思ったら大間違い。痛いです」「間違えてもいい。そのほうがライヴで記念になる」など、じつに奥田らしい金言が次から次へと飛び出した。
そうしてできあがったのは、旅をテーマに作詞作曲した「僕的地」という楽曲。ビートルズを思わせるような1960年代のサウンド感と奥田らしいガレージ感がマッチした、どこか切なさが感じられるミディアム・ロック・チューン。目的地はなくていい、あればいいってものでもないといった内容の歌詞。あくせくした世の中で、たまにはほっとひと息ついてもいいんじゃないかと、手を差し伸べてくれるような温かくて清々しい楽曲が誕生した。
イベント終了後、奥田民生にイベントの感想など聞いた。
――ひさしぶりの〈カンタビレ〉いかがでしたか?
「10年前にやったのでもうちょっとスムーズかと思いきや、ひさびさだったので、ちょっと細々としたことに時間がかかってしまって。時間との戦いで焦るということが、普通のレコーディングにはないことなので。やるなら次は、もっと少ない楽器でやったほうがいいですね(笑)」
――今日作った曲は「僕的地」でしたが、奥田さんの僕的地は?
「今やってることだと思います。それがどこだっていうわけでもなく、その時の時間や場所だったりすると思うので。"僕的地"という言葉も、どうでもいいといえばどうでもいいわけですから。目的とか最終的にこうなりたいというのは、昔からないですから」
――目標や夢持ってないとダメみたいな風潮もありますが。
「あったほうがやりやすいとは思うけど、僕は小さい時からわりとないんですよ。だから、いろんな人がいていいと思う。目標があってそれに向かうことで力が沸く人もいるだろうけど、ない人は頑張るために別の何かを見つければいいと思う。どっちにしても、やりがいはあるなと思いますね」
――それぞれの「僕的地」を見つけてほしいと。では最後に、ソニーにメッセージを。
「YouTubeをやっているんですけど、使えと言われてもいないのに、ソニーのカメラを使ってます。そこは一応アピールしておきたいです。そう言えば、ソニーのカメラで新しいのが出てるんですよね。たぶんこれは……くれる流れですよね(笑)?」
なお、「カンタビレIN THE PARK」の模様はYouTubeで視聴することができる。
取材・文/榑林史章
「カンタビレ IN THE PARK」/Photo by Kenji Miura
(C)Ginza Sony Park