アイドルの世界では、モーニング娘。のエースとして多くのフォロワーを生みつつも、誰にも超えられていない存在として称される鞘師里保だが、現在は一人のアーティストとして、己の内面を突き詰め新たな表現に挑む日々を送っている。そんな彼女が、アイドルの頃に戻ったかのような印象をファンに与えつつ、可能性に満ちた才能と技術にため息が漏れるようなファンクラブイベントだった。
5月28日(土)、品川インターシティホールにて行なわれた〈RIHO SAYASHI Fan Meeting -PLAYGROUND!- vol.1」〉夜公演)は、彼女のイメージカラーである赤を身に纏ったファンたちによって埋め尽くされていた。開演前、ダンサーたちから本人に内緒のサプライズについての解説があり、「Take a Breath」からイベントがスタートする。
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鞘師本人の衣装がイベントTシャツであることに加え、司会にはハロプロファンとして同ファンクラブイベントに通い詰め、司会の上々軍団しぐさを知り尽くすでか美ちゃんが登場。今回だけは既視感たっぷりにイベントが進行していった。
つんく♂や明石家さんま、歴代ハロプロメンバーらとの現在のエピソードが語られた最初のコーナー「里保の人物相関図」、客席まで降りての「質問コーナー」(最近興味があるのは「ふるさと納税」だそう)、お題に合わせたポーズでスチールカメラマンから撮影される「スチール・モデル・チャレンジ」を経て、最初の大きな見せ場は「ブラインド&サイレント・ダンス・チャレンジ」というコーナーでやってきた。
「鞘師里保のダンサーとしてのスキルを確認しよう」というこのコーナーでは、ステージ上に目隠しで鞘師と4人のダンサーがスタンバイ。周囲が見えない状態で「Go-by」を踊る。途中から曲も止まり、無音、目隠しで最後までフォーメーションを崩さずにダンスを合わせられるかというものだ。曲の冒頭、ダンサーの後ろから颯爽とステージ前方へ移動しなければならない部分こそスイカ割り状態で会場の笑いを誘った鞘師であったが、中盤位置も安定し無音状態に入ってからは、通常と変わらないジャストなリズムで5人が揃いだす。静まり返った会場には、ステージを蹴る5人の力強い足音だけが響き、客席の感嘆の息遣いと興奮を感じる空気に思わずこちらも息を飲んだ。
でか美の言葉を借りれば、「今の映像ネットに上げたらバズりますよ」という、ネット動画的な企画でありながら、目撃者が誰かにその凄さを語りたくなるような、鞘師里保の入口になりかねないパフォーマンスだったと思った。
イベントも大詰めに差し掛かる。プレゼント抽選を挟み、「普段はできないパフォーマンスを」と、カヴァー曲がパフォーマンスされた。まずは、「N Yのダンススクールの課題曲で、その後も英語の練習と発声練習のために歌ってきた曲」として歌われたのは、米国のシンガー・ソングライター、チャーリー・プースがセレーナ・ゴメスとコラボした「We Don't Talk Anymore」。2人のハイトーンで甘いヴォーカルが印象的だが、構造は至ってシンプル、ゆえに名曲であることが際立つR&Bである。鞘師の歌は原曲より感情的で、これも歌い手によって変化する曲の新たな一面だ。鞘師里保の現在の楽曲は洋楽テイストが強いが、NY在住時に培われたそのルーツを窺い知ることができた気がした。
続いてT Vバラエティやドラマの企画として過去に踊った「Dynamaite」(BTS)」「WA DA DA」(Kep 1er)「U」(millennium parade × Belle (中村佳穂) 」のカヴァー・ダンス・メドレーが披露されたのだが、このインパクトも凄かった。とりわけ男性のダンスである「Dynamaite」の重力を感じさせない動作は、「鞘師里保のダンスは何がすごいのか」という問いの答えだったのではないだろうか。彼女のT Vやネット動画で見たことがある人も多かっただろうが、その生の迫力に観客からの拍手はしばらく鳴り止まないほどだった。この時の模様は公式YouTubeチャンネルでも公開されているので、まだ未見の方はぜひ見ていただきたいと思う。
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イベントのラスト、無事バースデイサプライズも成功し、鞘師里保は「誕生日は切り替えるのにきっかけをもらっている日だ」と、24歳の始まりに一年の決意を新たにした。彼女はいたって控えめだが、期待値がグッと上がる。普段のライヴ・ツアーとは違い、緩やかに進行されたファンクラブイベントだけに、彼女のポップスターとしての器が際立って見えた気がした。
取材・文/劔 樹人